「今すぐやる人」に「今すぐなる」のは無理だが、1年後には「今すぐやる人」に変身する方法
「今すぐやる人」になれるか?
すぐやればいいのに、なかなかやらない人がいます。たとえば私は最近、ダンベルを捨てました。しかしこのダンベルを捨てるのに、実に、6年もかかっています。ダンベルを捨てる準備をするのに7分。町内の廃品回収する場所へ自転車で持っていって帰宅するまでに10分。合計17分で終了することなのに、6年以上もかかっているのです。
その間、合計20回(もしくはそれ以上)は、「ダンベル使ってないでしょ? 捨てたら?」と妻に言われてきました。実際にダンベルを使っていないものですから、その都度、捨てようかなとは思うのですが、結局は苦しい言い訳をして先日までズルズルと来てしまったのです。
こんな5年も6年も「やるべきこと」を放置するような人は少ないでしょうが、「やるべきこと」を2~3日も先延ばしにしてストレスを溜めている人も多いはずです。すべてのことを「今すぐやる」ことはできなくても、少しでも多くの「やるべきこと」を今すぐやるようになれば、かなり心は軽くなる気がします。それでは、どうすれば「今すぐやる人」になれるのでしょうか?
先述したとおり、私はダンベルを捨てるのに6年もかかっていますが、仕事の処理は速いほうだと思います。超高速でタスクを処理して、複数のプロジェクトを同時に前へ推進しています。
実際に、企業の現場に入ってコンサルティングをしていながら、年間100回以上の講演、セミナー活動をこなし、メルマガは年間150本以上、日経ビジネスオンラインのコラムは年間50本、Yahoo!ニュースの記事は年間100本、書籍は年間1~2冊執筆し、ユーチューブの動画は年間50本配信し、先述したセミナー以外に「絶対達成社長の会」というモンスター朝会を東京、名古屋、大阪、福岡で展開し、コンサルティング会社の社長ですからマネジメントも人財採用もこなし、26年目に入った知的障がい者のボランティア活動は年間ほぼ欠かさず出席し、月間100キロ以上はコンスタントに走っています。それでも週末は家族と過ごす時間を十分にとることができています。したがって、「やるべきこと」を今すぐやる習慣みたいなものは体得している自負はあります。ダンベルを捨てるのに6年はかかりましたが。
軽い荷物を、軽い気持ちで、軽く押す
「今すぐやる人」に、今すぐなることはできません。しかし、トレーニングを繰り返せば、1年後ぐらいには「今すぐやる人」に変身することはできます。ポイントは、
「軽い荷物を、軽い気持ちで、軽く押す」
ことです。
言い換えれば、荷物を軽くすること、気持ちを軽くすること、軽々と押せる力を手に入れることです。これを「台車理論」と名付けて解説していきましょう。
たとえばあなたがポーター(荷物の運搬などを主業務とするホテル従業員)だとします。ポーターのあなたは台車(鳥かごのようなカートをイメージする)の上に荷物を置き、それを押して目的の場所まで持っていこうとします。しかし、なかなか台車が動きません。なぜか? ポイントは3つあります。
1)荷物を重い
2)路面が平たんでない
3)押す力が足りない
まず第一に、荷物が重いのであれば、軽くしましょう。たとえば、仕事のミスをして上司に謝らなければならない場面があったとします。「やるべきこと」なのでしょうが、正直なところ気が進まない。先送りできるものなら、先送りしたい事案かもしれません。
処理すべき仕事を今すぐやらずに先送りする人の言い訳のほとんどは、「時間がない」です。「忙しいから」「バタバタしているから」「立て込んでいるから」、だから後回しにしてしまった、と言い訳をしてしまうもの。しかし本当に時間がないから先送りしたのか? それを計測するために、作業時間を見積もってみましょう(スケールテクニック)。
こういった主観的なものを客観視するために数値化することを「スケールテクニック」と呼びます。上司に謝罪するのに、2時間も3時間もかかるのか、というとそうでもないでしょう。ネチネチ嫌味を言う上司ならともかく、そうでないなら5分や10分で終わるはず。気が進まない資料の作成、面倒くさいお客様への電話、仕事で疲れた日の晩御飯の準備……など、感覚的には重く感じる事柄でも、スケールテクニックを使って作業時間を見積もれば、意外に処理する時間は長くなく、「やるべきこと」という荷物も若干軽く思えてくることでしょう。
荷物を小分けにする(タスク分解)
また、荷物が大きすぎる場合は台車に載せることができませんので、小分けにすることが必要です。「プロジェクト」と「タスク」との識別ができるか、がキーワードです。
たとえば「高校時代のクラスメートを集めて同窓会をしよう!」と思っても、なかなか物事が前に進まないことがあります。「家族でいつか北海道旅行したいね」「職場のコミュニケーションを活性化させたい」といった、これらの「やるべきこと」「やりたいこと」も同じ。大きすぎるのです。先述したスケールテクニックが使えない「プロジェクト」であるため、大きすぎて台車に載せることができません。「プロジェクト」はタスクに分解してからでないと作業時間を見積もることができないので、荷物を小分けにする癖をつけましょう。
時間があってもすぐやらない人は……
「すぐやれない人」のほとんどの言い訳が「時間がない」です。しかし、たとえ時間があると理解できても、やらない人はやりません。もっと別の問題を抱えているからです。次に考えるのは、路面の問題です。
荷物が軽くても、路面が砂利道であったり、ぬかるんでいたりすると、台車を押してもうまく前に進みません。先述の話でいうと、
「どうして私が上司に謝らなくちゃいけないんだろう?」
「あのミスは本当に私のせいなのだろうか?」
「ミスを未然に防ぐためのマニュアルを会社が整備する必要があったんじゃないの?」
「いや、そんなことはないか。もっと謙虚になるべきだ。あれは私のミスだ」
「素直に謝ったらすぐ許してくれるかな?」
「1時間ぐらい説教されるだろうか?」
「意外にすんなり許してくれたりして。『それぐらいのミスは誰だってあるよ、ドンマイドンマイ』とか言われちゃったり」
「いや、それはないかも。この前も主任が課長にメチャクチャ怒られてたから」
「黙っていれば、ひょっとして見逃してくれるかもしれない。前もそういうことあったし」
「いや、黙ってるのはまずいだろう」
「Aさんに相談してみようかな。謝るんだったら、メールがいいか、電話がいいか、それとも面と向かって――」
……このように、ゴチャゴチャと頭で考えていると、堂々巡りを繰り返します。結論を導き出すことができず、いたずらに時間を浪費します。このような「思考ノイズ」が、常に脳のワーキングメモリに入っていると、その仕事を処理し終わるまで頭の中でリフレインを起こし、ストレスは溜まるいっぽう。ひどい場合は、「なんで私がこんなことで悩まなくちゃいけないわけ? 絶対に変だ。何かがおかしい」などと……被害者意識まで醸成されていってしまいます。
それ以外にも、なぜそれをやらなくてはならないのか? これをやらなくてもうまくいく方法があるのではないか? モチベーションが下がっているのでできない……といった「思考ノイズ」がたくさんあると、路面の摩擦抵抗が大きくなります。その状態で力強く押すと、激しいストレスがかかります。
ですから、「思考ノイズ」を除去する工夫が必要です。
台車を押す力はあるか?
荷物が軽くなり、路面が平坦であれば、あとは台車を押すだけです。しかし、押すだけ、と言っても、押すには多少なりともストレスがかかります。それに、どんなに軽くしようとしても、限界はあります。それなりの重さがあれば、それなりの押す力は必要です。平らな路面を選ぼうとしても、そんな道がなければ頑張って押すしかありません。
ストレス耐性がゼロであれば、何も入っていない段ボール箱を運搬することさえできないでしょう。程度の差はありますが、最低限の耐性、筋力は必要なのです。日ごろからストレス耐性をアップするよう心を鍛えておくのは、どうしても避けて通ることができません。
できる限り荷物を軽くし、摩擦抵抗の少ない路面を選んだら、後は押すだけ。最後は精神論です。つまり気合と根性で、「えいや!」と押すのです。
いったん台車が動きはじめたら、あとは慣性の法則が働くため、軽々と動き始めます。ここで気をつけなくてはならないのは、いったん止まると、再び台車を動かすのにストレスをかけなければならない、ということです。できれば止まることなく、目的地まで一気に運びたいですね。つまりスケールテクニックを使って「2時間かかる作業」だとわかったら、2時間を確保して一気にその作業をやり切ってしまう、ということです。
「台車理論」を紹介しました。最後に、こういうノウハウを紹介し、「なるほどそうか」「参考になる」「やってみよう」と思っても、結局何も変わらない人がいます。いつまで経っても「今すぐやる人」になれない人です。なぜか? それは、先述したスケールテクニックをすぐにやらないからです。感覚値を具体的な数値に置き換える作業は、誰にでもできることなのに、これを先延ばしにするのです。つまり「今すぐやる」テクニックを知っても、そのテクニックを今すぐにやらないのです。
「横山さん、今すぐやるテクニックを教えてもらいましたが、このテクニックを今すぐやるにはどうすればいいですか? ぜひ教えてください」
このように言ってくる人がたくさんいますが、答えは簡単です。それが思考ノイズです。そんなノイズはカットして、それぐらいはすぐにやればいいのです。堂々巡りはやめましょう。スケールテクニックとノイズカットを繰り返せば、完璧は難しくても、一年後ぐらいには「すぐやる習慣」は身についてきます。ぜひ、試してみてください。