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スペイン2部リーグに日本代表3人。そしてチャンピオンズリーガーは1人(?)になった

杉山茂樹スポーツライター
CL予選3回戦で敗れ、チャンピオンズリーガーになれなかった中島翔哉(FCポルト)(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 ハリルホジッチは4年前のちょうど今ごろ、シーズンが始まっても所属先が決まらずにいる川島永嗣を「ゲーム勘に乏しいから」と、W杯アジア2次予選に臨む日本代表に招集しなかった。GKというポジションの特殊性とも関連するが、日本代表選手の所属先が、新シーズンが開幕してもなお決まらない例は、川島が初めてだったと記憶する。

 それから4年。今回、危なそうに見えたのは香川真司だった。日本代表に継続して選ばれている選手の中で、その所属先は最後まで決まらなかった。

 昨季、ドルトムント(ドイツ)では事実上の戦力外。今年1月にレンタル移籍したベシクタシュ(トルコ)でも、リーグ戦のスタメン出場は4回に終わる。総出場時間は549時間。結局ベシクタシュは、ドルトムントが要求する金額で香川を買い取ることを嫌った。

 ドルトムント、あるいはかつて所属していたマンチェスター・ユナイテッドの現在を、チャンピオンズリーグ(CL)のベスト8〜16級のチームとすれば、長友佑都が所属するガラタサライは16〜24級で、ベシクタシュはよく言って24〜32級となる。

 現在、香川は30歳。サッカー選手が最も脂の乗っているとされる年齢だ。クラブのレベルでもキャリアハイを迎えていても不思議はない。香川としては、何とかベシクタシュレベルのクラブに止まりたかったはずだ。

 ところが今回、合意に達したのは、昨季スペインリーグ2部で15位に終わったレアル・サラゴサで、優に「100」を超えてしまうクラブだった。今季、岡崎慎司が移籍したマラガ、柴崎岳が移籍したデポルティーボもスペイン2部ながら、昨季はともに昇格プレーオフを戦っている。スペイン2部と一口に言っても、こちらは1部に近いグループだ。

「スペインは子供の頃からプレーすることを夢見ていた場所」と、香川はサラゴサへの入団に満足するコメントを残したそうだが、サラゴサ移籍は急降下を意味する。居場所をここまでランクダウンさせた選手も珍しい。これが33歳の本田圭佑の移籍なら、すんなり受け入れられる話になるのだが。

 代表チームから引退を表明している本田と違い、香川は33歳で迎える2022年カタールW杯を目指すつもりでいるらしい。

 しかし、前回のロシア大会でさえメンバー入りは危うかったほどだ。代表監督がハリルホジッチから西野さんに交代しなければ、最終メンバーから落選していた可能性は高い。

 香川のピークはドルトムントに移籍した最初のシーズン(2010〜11)だろう。マンUに移籍した2012-13シーズンには、すでにポテンシャル的に伸び悩んでいた。選手としての頂点が21〜22歳の時に訪れた早熟型。日本代表選手としてのキャップは97試合あるが、これは凄い! と唸らせるようなプレーを見せた試合は記憶にない。日本代表への貢献度という点では、本田の方が断然上になる。

 嬉しい誤算はロシアW杯だった。香川はこちらの予想を上回るプレーを見せた。日本のベスト16入りを語ろうとした時、真っ先に挙げたくなる原因だ。しかし、香川はその流れで欧州の新シーズンを迎えることができなかった。ドルトムント内での優先順位は低いままだった。

 真ん中付近しか出来ないプレーの幅の狭さ。つまり多機能的ではないところ。フォワードなのか、中盤なのか。俊敏さ以外、具体的なセールスポイントが分かりにくいところ。背番号10。代表キャップも100に迫ろうというのに、中心選手らしい雰囲気がないところーー等々が、伸び悩んだ原因ではないかと思われる。

 対照的な特徴を備えていたのは本田だ。プレーの幅の狭い香川を、本田の多機能性が補っていたという構図だった。特にザックジャパン時代はそんな感じだった。

 つまり、欲しい人材は2人を足して2で割った「香川+本田÷2」的な選手だ。こじつけるわけではないが、久保建英はまさにそれだ。これに加えてドリブル力が盛り込まれている印象だ。成長の妨げになりそうな臭みが久保には見当たらない。将来有望。とはいえ、久保はまだ18歳だ。右肩上がりの世界が待ち構えているとは限らない。

 その久保は今季、レアル・マドリード・カスティージャ(スペイン3部)でプレーすることになった。昨年のビニシウスのようにシーズン途中、そこからトップチームに昇格した例もあるが、可能性はけっして高いとは言えない。

 バルセロナBに所属する安部裕葵しかり。香川が抱える問題がスッキリと整理されているようなプレーをするこの選手は現在20歳。久保より2歳年上だ。選手としての将来はその分だけ見えてきている。久保同様、近い将来トップチームでプレーして欲しいが、最低でもCL級のチームに止まり、チャンピオンズリーガーとして活躍してもらいたい。

 2019-20シーズンのCL予選3回戦で、中島翔哉が所属するFCポルトは、クラスノダール(ロシア)に敗退。中島はチャンピオンズリーガーになり損ねた。昨季はその数は3人だった。長友(ガラタサライ)、ドルトムントで1試合交代出場した香川、そしてCSKAモスクワの西村拓真も同様に1試合交代出場しているが、今季はどうやらその数が、長友1人に減りそうだ。

 欧州でプレーする選手の数は増加の一途を辿る。無数と言いたくなるほど膨れあがっているが、チャンピオンズリーガーの数は減るばかり。瀕死の状態にある。

 その数は、選手のキャリアを示すものとして代表チームのキャップ数より重い存在だ。香川の33試合を筆頭に、内田篤人の29試合、中村俊輔の17試合、長友佑都の15試合、本田圭佑の11試合、小野伸二の9試合、岡崎慎司、稲本潤一の7試合、長谷部誠の6試合と続くが、出場経験者は、現在の代表選手(6月に行われたトリニダード・トバゴ戦、エルサルバドル戦で招集された選手)の中では長友、香川に限られる。

 久保が一瞬、レアル・マドリードのトップチームでプレーしたことで、このプレシーズン、日本のサッカー界は大いに湧いた。しかし、チャンピオンズリーガーの数を見れば、低調であることは一目瞭然。トップのレベルは昔より落ちていると言わざるを得ない。

 その数をいかに増やすか。その国の代表チームの力はチャンピオンズリーガーの数に比例する。忘れてはいけない真実である。

 

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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