ラーメンの「アレ」が変わりつつある本当の理由とは?
百年ものあいだ進化し続けているラーメン
ラーメンがこの世に生まれて百年余。中国料理の麺料理を祖とするラーメンは、日本で独自の麺料理として進化を遂げて、現在の世界食としてのラーメンになっていった歴史がある。日本蕎麦や和食、フレンチなど様々なジャンルの料理の技法やエッセンスを巧みに取り入れながら、ラーメンはラーメンという一つの料理のジャンルを確立していった。
ラーメンの歴史は進化の歴史である。最初は中華料理を作る際に使われるスープを流用したものがラーメンのスープだった。それがラーメン専門店が出来たことにより、ラーメンを目的としたスープに変わっていった。スープの進化に伴い、スープに合わせるタレも進化した。最初はただの醤油だったものが、チャーシューを煮て肉の旨味を移した醤油を使うようになり、さらに日本蕎麦の「かえし」を応用し、スープに負けないタレになっていった。
より旨味が増して力強くなったスープには、それを受け止める存在感のある麺が必要になった。かつてはどんなラーメンでも麺の種類は限られていたが、スープに合わせた麺を作るという意識が生まれた。日本蕎麦やうどん、パスタなどの製法や設計を応用したり、ラーメン職人は自らの求める麺を自分で作るようになり、製麺所の麺もラーメン店の味に合わせてオーダーメイドの麺を作るようになり、製粉会社もその麺に合わせたプライベートブレンド粉を作るようになった。さらには自分自身で小麦を栽培し収穫して麺を作るラーメン職人も現れた。ラーメンの進化の歴史は、ラーメン職人たちの挑戦の歴史に他ならない。
世の中の健康志向に沿ったラーメンの登場
絶え間なくアップデートを続けるラーメンの世界で、この十年で革新的な動きが見え始めている。それは世の中の「健康志向」を反映させたラーメンの登場だ。スープに野菜のポタージュを使った「ベジポタ」や、一日の必要な野菜を一杯のラーメンで取れる「ベジタブルラーメン」など、「野菜」に注目したヘルシーなラーメンがまずその先鞭をつけた。さらに脂質を抑えたりカロリーを減らしたラーメンなど、健康志向に沿った形のラーメンが次々と生まれていった。
このようなラーメンが生まれていった理由は、ラーメンの持つイメージが世の中の健康志向と相反するものであることに他ならない。高カロリー高脂質で野菜などが少なく栄養バランスが悪い、というイメージがあることから、そのイメージを払拭するために健康志向のラーメンが生み出されていったのだ。
実際のところラーメンよりも高カロリーで高脂質な食べ物はいくらでもある。しかしラーメンが悪者にされてしまうのは、夜遅く飲んだあとの締めに食べたりする機会が多いことや、背脂がたっぷりのラーメンや山盛りのラーメンなどがテレビや雑誌などで取り上げられやすいからかもしれない。
とは言え、身体に良くないイメージのままでは健康志向の時代にはそぐわない。より多くの客層にリーチしようとするならば、健康的なラーメンの開発はラーメン店にとって必須となってきた。野菜をふんだんに使用したラーメンや低カロリーや低脂質のラーメンに続いて、今ラーメン業界で注目を集めているのが「低糖質ラーメン」である。
糖質を多く含む「麺」をどうするか
人間にとって必要とされる三大栄養素の一つでもある「炭水化物(糖質と食物繊維)」だが、現代の食生活では糖質が過剰摂取気味であるという観点から、その糖質の摂取を減らそうというライフスタイルを支持する人が増えている。「糖質制限」「糖質オフ」「低糖質食」「ロカボ(ローカーボ)」など、誰もが一度は目にしたことがあるのではないだろうか。
今、外食産業では「低糖質メニュー」の開発が活発に進んでいる(関連記事:外食で「糖質制限ダイエット」は可能なのか?)。回転寿しやハンバーガーなど、多くの業界が低糖質メニューの開発に躍起だ。時代のトレンドに敏感なラーメン業界が、低糖質ラーメンの開発に取り組むのも当然と言えるだろう。
低糖質ラーメンを開発する上で唯一といっても良いハードルはズバリ「麺」である。ラーメンの麺は小麦粉を使っており糖質を多く含んでいるため、糖質制限では避けられる傾向がある。一日あたりの糖質摂取量を30〜60g程度に抑えるというのが、糖質制限ダイエットにおいて最も厳しい数値目標である。もちろんラーメンによってその数値には差があるが、一般的にラーメンの麺の糖質は100gあたり50g程度と言われており、実際には一杯のラーメンで150g程度の麺が使われるため、糖質量は75g程度になる。ラーメンの麺をどうするかが、低糖質ラーメンの肝と言ってもいい。
様々なアプローチの「低糖質ラーメン」
2016年に注目を集めた「麺なしラーメン」は、麺を無くしてしまって別のものに置換えるというものだった(関連記事:ラーメンから「アレ」が消えた意外な理由とは?)。福岡の人気店「秀ちゃんラーメン」では麺の代わりにキャベツの千切りを茹でたものを使い、全国に店舗を展開する人気チェーン「一風堂」では豆腐を一丁まるまる入れた。確かにラーメンから麺を無くしてしまえば糖質量を劇的にカットすることが可能だが、キャベツや豆腐がスープに入ったものを果たしてラーメンと呼んで良いのか、疑問が残ったのも事実だ。
そんな中、ラーメンはやはり麺料理、麺を啜ってこそラーメンという考え方から、麺からいかに糖質を無くしていくかというアプローチのラーメンが増えている。先述した「秀ちゃんラーメン」では、麺の代わりに豆腐を麺状に押し出した「押し豆腐麺」を使用して糖質をほぼゼロにすることに成功した。中国には古くから「豆腐干絲」と呼ばれる豆腐麺があり、中国料理では炒め物などにも利用されているが、しっかりとした食感の豆腐麺は豚骨スープにもよく合っている。この麺は「秀ちゃんラーメン」の他、系列店の「二代目博多だるま」(台場)でも注文することが可能だ。
2017年にオープンした「Ramen ドゥエ Edo Japan」は、人気ラーメン店「Due Italian」の新業態店。オーナー石塚和生さんが、昨今の低糖質のニーズに対して出した答えは「美味しい低糖質ラーメン」。カロリーゼロのヘルシー麺と通常麺を合わせることで、糖質量は通常の半分になり、さらに2種類の麺の異なる食感が食べる楽しさも生み出した。場所柄テイクアウトのニーズも多いそうだが、テイクアウト用のラーメンにはヘルシー麺だけを使うことで、麺の茹で伸びの心配も解消した。
「一風堂」は2016年に今までにないコンセプトストア「1/2PPUDO」を新宿にオープン。定番の豚骨ラーメンなど4種類のラーメンでハーフサイズを用意したほか、オリジナル麺「糖質ニブンノイチ麺」では穀物の外皮や米ぬかなどを主原料とした麺用粉と大麦、ライ麦など11種類の穀物を合わせることで、糖質量を通常の麺の半分に抑えることに成功した。
また、2016年に期間限定で提供され話題を呼んだのが、麺の代わりに豆腐を入れた「白丸とんこつ豆腐」。販売終了後も多くのニーズがあったことから、2017年10月より期間限定メニューとして再登場。こちらのメニューは国内の一風堂39店舗で12月末日まで販売が予定されている。
ラーメン店がこぞって低糖質ラーメンの開発に取り組むのは、多様化した消費者へのニーズに対応するためであり、端的に言えば低糖質ブームによって消費者がラーメンを敬遠することを止めることにある。またダイエット目的のみならず、糖尿病などの症状を持つ人など、糖質を制限しなければならない人も少なくない。国民食とも言われるラーメンだからこそ、多くの人が食べられる形を提案したい。そんなラーメン店の思いも低糖質ラーメンには込められているのだ。
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