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東京オリンピックに「台風の暗雲」出現 五輪台風とあわや六輪台風

饒村曜気象予報士
五輪台風時の天気図(昭和35年(1960年)8月23日21時)

五輪台風

 天気図上で3個の台風が同時に存在することは、ほぼ1年に1回くらいあり、それほど珍しいことではありません。

 4個となると7~8年に1回くらいと、少し珍しくなりますが、5個となると、台風の統計がある昭和26年以降では1回しかありません。

 それは、昭和35年(1960年)8月23日15時から翌24日9時までのことで、天気図上に左(西)から台風17号、15号、16号、14号、18号という5個の台風が並んでいます(タイトル画像参照)。

 東京オリンピック(前回)を4年後にひかえ、ローマオリンピック開催の直前(8月25日が開会式)というタイミングであったため、マスコミはこれを五輪台風と名づけ、大きく報じています。

 最盛期の台風は、等圧線が円形となりますので、輪とみなせますが、衰弱期の温帯低気圧に変わりつつあるときには、円形が崩れます。日本海北部にある台風15号は、円形が崩れてきたいますので、大小の四輪と崩れてきた一輪からなる五輪です。

台風が5個以上並びそうだった3年前

 今まで台風が6個並んだことはありませんが、6個になりそうになったことがあります。

 それが、3年前の平成30年(2018年)の8月15日15時です(図1)。

図1 台風が多い地上天気図の例(平成30年(2018年)8月15日9時)
図1 台風が多い地上天気図の例(平成30年(2018年)8月15日9時)

 この時刻には、台風16号、17号、18号の3つの台風が並んでいますが、朝鮮半島にある熱帯低気圧は、この時刻に、台風15号から変わった熱帯低気圧です。

 また、グアム島付近の海上にある熱帯低気圧は6時間後に台風19号に発達する熱帯低気圧です。

 つまり、ちょっとタイミングがずれれば、2回目の五輪台風となるところでした。

 さらに、台風14号がもう少し長く台風として存在していたら、六輪台風になったかもしれません。

東京2020オリンピック競技大会

 東京2020オリンピック競技大会が令和3年(2021年)7月23日から8月8日までの17日間、東京都を中心に開催されます。

 関東甲信地方は、この記事を書いている時点で梅雨明けをしていませんが、晴天が続くとみられますので、まもなく梅雨明けと思われます。

(追記、7月16日11時30分)

 気象庁は、7月16日11時00分に関東甲信・東北地方の梅雨明けを発表しました。

 ウェザーマップの16日先までの予報では、オリンピックの開会式が行われる7月23日までは、お日様マーク(晴れ)と白雲マーク(雨の可能性が少ない曇り)が並びます(図2)。

図2 東京の16日先までの天気予報
図2 東京の16日先までの天気予報

 しかし、24日以降は黒雲マーク(雨の可能性がある曇り)の日が続きます。

 傘マーク(雨)の日はありませんが、降水の有無の信頼度は5段階で一番低いEか、二番目に低いDです。

 このように天気予報の不確実性が大きいのは、熱帯低気圧(台風)の影響がでてくるかもしれないからです。

熱帯低気圧の発生

 各地で梅雨明けとなってきた7月中旬、日本のはるか南の海上で、積乱雲が増えてきました(図3)。

図3 日本の南海上で増えてきた積乱雲(7月15日15時)
図3 日本の南海上で増えてきた積乱雲(7月15日15時)

 台風を発達させる水蒸気が、かなりたまってきています。

 そして、気象庁の予報では、図3のB付近の雲が中心になって熱帯低気圧が発生する予報です(図4)。

図4 予想天気図(7月17日9時の予想)
図4 予想天気図(7月17日9時の予想)

 この熱帯低気圧が、今後発達して台風になるのかどうか、また、どのような進路をとるのか、現段階では不確実です。

 また、さらに別の熱帯低気圧が発生するかどうかについても不確実です。

 いずれにしても、東京2020オリンピックに「台風の暗雲が出現」です。

統計からみた7月の台風

 資料は少し古くなりますが、以前に、昭和26年(1951年)から昭和52年(1977年)の資料を用いて、台風について調べたことがあります。

 7月に沖縄の南東にある台風は、北上して東シナ海を北上したあと、東へ向かうものと西へ向かうものがあります(図5)。

図5 7月の台風の平均経路(数値は空間平均した存在数)
図5 7月の台風の平均経路(数値は空間平均した存在数)

 また、もう少し東の紀伊半島の南海上を北上してきた台風も、東へ向かうものと西へ向かうものに分かれます。

 つまり、7月に台風は、太平洋高気圧の動向によって、西へ進むものと東へ進むものにわかれ、それだけ予報が難しいのは7月の台風です。

 現時点では、太平洋高気圧は東日本へは張り出してきますが、西日本への張り出しが弱い状態です。

 このため、太平洋高気圧を回るように、暖かくて湿った空気が日本付近に北上しやすい状態ですので、日本の南海上に熱帯低気圧(台風)があれば、北上して日本付近に接近しやすくなっています。

 コンピュータで計算した7月23日15時の予想天気図では、紀伊半島の南海上に発達した熱帯低気圧(台風)が出現し、北上することが予想されています(図6)。

図6 コンピュータで計算した7月23日15時の予想天気図
図6 コンピュータで計算した7月23日15時の予想天気図

 この発達した熱帯低気圧(台風)が、7月17日に発生する熱帯低気圧かどうかわかりません。

 新たに発生する熱帯低気圧かもしれません。

 東京オリンピックが始まるまでも、始まってからも天気予報が難しい状態が続きますので、最新の気象情報の入手に努めてください。

タイトル画像の出典:饒村曜(昭和61年(1986年))、台風物語、日本気象協会。

図1の出典:気象庁資料をもとに筆者作成。

図2、図3、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図4の出典:気象庁ホームページ。

図5の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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