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多発する点検強盗事件、なぜ逮捕リスクのある在宅時を狙うのか?ゲリラ化する組織犯罪の手口!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

ガス点検を装って家に押し入る事件が頻発していいます。

9月23日、東京都足立区の集合住宅に住む70代男性宅に「ガスの検針です」と業者を装った2人の男がやってきました。室内に通すと、男らは高齢男性の手足を粘着テープで縛り、財布から31万円を抜き取り、さらにキャッシュカードを奪い逃走しました。

前日にも世田谷区で、ガス点検業者を装った男2人が80代高齢夫婦宅へ押し入り、手足を粘着テープで縛り、6万5000円を奪っています。

8月から、ガス等の点検を装って家を訪れての強盗事件が東京、神奈川など首都圏近郊で起こっています。

共通しているのは、高齢者宅を狙い、点検業者を装った2人組がやってきて、家人に扉を開けさせる。室内へ入り込むと、相手の手足などを粘着テープで縛り、金品を強奪するところです。ここから、ある存在がみえてきます。

特殊詐欺では、高齢者の名簿をもとに電話をかける「架け子」や、自宅にお金やキャッシュカードを取りに行く「受け子」に対して、犯行マニュアル(手順書)を準備して、詐欺の成功率を高めようとしますが、今回の強盗においても、判で押したような手口から、犯行マニュアルの存在が伺われます。

今月8日には、点検窃盗事件も起きています。

80代男性宅に電気の点検を装った2人組がやってきて、まず家に上がりこむと、家人を付き添わせながら、1人がブレーカーを点検するふりをします。その間に、もう1人が家に置いてある200万円の入った金庫を盗みました。おそらく、この家に現金入りの金庫があることを知った上の犯行でしょう。

この点検を口実にした窃盗は、今年初めにも都内で多発しており、”訪問盗”とも呼ばれます。

その時と違うのは、手持ちの金を狙うのではなく、用意周到に金庫を狙っているところです。より進化した点検窃盗には注意が必要です。

在宅確認の電話をしてからの犯行も

8月27日、川崎市の60代女性の家に、「ガスの点検にきました」と業者を装った男がきて、室内に招きいれると女性の手足を粘着テープで縛り、刃物を突き付け、14万円と複数枚のキャッシュカードを奪っています。

実は、この家には、当日に「ガス点検に行きますが、いらっしゃいますか?」という電話がかかってきています。

金品を奪うだけなら、本来、逮捕されるリスクを減らすために、電話をかけて家に誰もいないことを確認してから、空き巣に入る方がよいはずです。ところが、わざわざ電話をかけて、在宅時を狙ってやってきています。これこそが今回の犯行の特徴です。

振り込め詐欺では、本人の在宅時に息子を騙った人物が電話をかけて、言葉巧みに騙し、家を訪れて現金を騙し取ります。まさに先の点検強盗はその応用編であり、これまで特殊詐欺を行っていた犯罪グループの手口の延長線上にあるものといってよいでしょう。

なぜ、あえて在宅時を狙うのでしょうか?

その理由は、大きく二つあると考えます。

一つ目は、キャッシュカードを奪うことで、家にある現金以上のものを取ろうとするためです。

昨年の特殊詐欺の被害では、家に来て現金を取るよりも、キャッシュカードを詐取する方が多く発生しました。当然ですが、カードを取っただけではお金を引き出せませんので、「暗証番号」を知る必要があります。

これまでは言葉巧みに電話や訪問時に「暗証番号」を聞き出していましたが、最近は「暗証番号は教えない」という特殊詐欺の対策が徹底されて、それが難しくなっている事情もあり、強盗という手段で相手に暴力を加え、暗証番号を聞き出すという荒っぽい手口に出てきていると思われます。

二つ目の理由は、犯罪組織の上から指示されているから行っているという単純な理由です。

すでに強盗犯の一人が捕まっていますが、この人物はテレビドラマにも出演経験のある、元タレントの男でした。多額の借金を背負い、お金に困っていたということです。得てして、こうした強盗に手を染める人たちは、コロナ不況もあって仕事を失い、金銭的に窮しています。そうした事情につけこんで、組織的犯罪グループは実行犯を誘います。

これまで闇バイトの募集をしているリクルーターらの話を聞いてきたのでわかりますが、彼らは「うちのメンバーで逮捕されている人はいない。捕まらない対策をしているから大丈夫」と電話をかけてきた人たちを安心させてきます。しかし、嘘です。確かに、強盗直後には逮捕されませんが、今回のように捜査が進めば、間違いなく逮捕されます。

ただし、実行犯の逮捕は組織の側は織り込み済みです。というのも、奪い取ったお金さえ足がつかないように回収できればよいのですから。結局、強盗犯らは、犯罪の手足として利用され、逮捕という形で使い捨てられて終わりなのです。

強盗被害に遭わないために知っておいてほしいことがあります。

まず、突然の訪問で「点検させてほしい」と言われても、絶対に家に入れてはいけません。

点検をする業者のほとんどは、事前にポストに「お知らせの用紙」を入れて、告知してから訪問します。それでも、突然に点検業者がやってくることもあるかもしれません。その時には、まず相手の身元を確認して、自分の使用するガス会社に電話をして確かめるようにしてください。

点検業者を追い払ったと思っても安心してないでください。

ガス会社を装って東村山市の高齢夫婦宅を訪れた事件では、男らがインターフォンを押して「点検に来ました」と説明しましたが、家人は不審に思い断りました。ここまではよかったのですが、犯人は無施錠の玄関から室内に押し入ったのです。この時は、幸いにも同居する息子がやってきて事なきを得ました。

町田市の80代女性宅には、自治体職員を装った男2人組が「新型コロナウイルスの調査」を装って訪問してきました。女性はインターフォン越しに断ったのですが、鍵のかかっていない窓から侵入され、通帳などが奪われています。

このように、断っても隙があれば、押し入られてしまいます。

追い払ったと安心せずに、不審人物が訪れた直後には、必ずすべての窓、玄関に鍵をかけ、戸締りをするようにしてください。

それに、やってくるのはガス点検とは限らない、ということも心得ておいてください。先の事例のように新型コロナアンケートや、消防署、電気会社を装うこともあります。

以前は、詐欺の事前電話(アポ電)をかけてからやってくるのが、一般的でした。相手の資産状況を把握してから押し入られるために、アポ電強盗による被害は数百万円、数千万円と高額でした。しかし今は、電話なしの突然の訪問強盗も多く発生しています。

今、神出鬼没のゲリラ戦略に出て、高齢者の手持ちのお金とキャッシュカードを奪おうとしてきています。

不審な訪問が来た、あるいは見かけたら、110番に通報するのはもちろんのこと、近所にも連絡を取り、防犯態勢を取ってください。

なぜなら、高齢者の名簿をもとに地域を回っている可能性があるからです。

今、Go Toトラベルキャンペーンなどで出かける人たちが増えてきているとはいえ、新型コロナに感染した場合に死亡率が高くなる高齢者はやはり外出を控える傾向にあります。高齢者の在宅率が高まるなかで、詐欺の電話や強盗などの犯罪を受けやすくなっているのです。

狙われているのは高齢者ですが、息子が同居している家も襲われており、いつ私たちの身にやってくるのかわからない状況なのです。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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