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運動中の「わき腹痛」は、なぜ起きるの?対策は?

市川衛医療の「翻訳家」
運動中にお腹(特にわき腹)が痛くなることありますよね(写真:アフロ)

ジョギングなどのスポーツをしている最中に突然、お腹が痛くなって困ったことはありませんか?

わたしは小中のころに良く経験しました。昼食後に体育の授業が入っていたときなど、特に右の脇腹が痛んだのを覚えています。現在でも、思い立って急にジョギングなどすると、「あの痛み」に襲われることがあります。

それにしても、なんで運動するとお腹が痛くなるのでしょうか?ふと疑問に思って調べてみたところ、最近(2015年)になって、「あの痛み」の原因や対策法について様々な研究をまとめた論文が発表されたことを知りました。

オーストラリアの研究者たちがまとめたその論文、題名は「Exercise-Related Transient Abdominal Pain (ETAP)」となっています。日本語に直せば「運動に関連する一時的な腹痛」。おお、「あの痛み」って【ETAP】なんて名前がついているんだ。急に、興味がわいてきたぞ。

※論文へのリンクはこちら。雑誌名や著者名はこの記事の末尾に記載しています。

シェイクスピアも悩んだ?「あの痛み」

「あの痛み」に悩まされているのは万国共通なようで、英語では「スティッチ(Stitch)」とも表現するそうです。スティッチは通常、縫い物などの「ひと針」を意味しますが、なんとなく感じがわかりますよね。論文によれば、シェイクスピアの作品にも、この痛みについて言及している部分があるそうです(どの作品かは記載がありませんでした)。

多くの人が経験しているわりに、原因や対策法は不明な点が多かったのですが、この15年ほどで急に研究が進歩してきたのだそうです。

「腹膜」のこすれが原因?見えてきたメカニズム

「あの痛み」は、なぜ起きるんでしょうか?これまで「横隔膜の酸素不足」「胃腸の障害」などなど、様々な説が提唱されてきました。

まだ結論は出ていないのですが、いま有力な仮説となっているのが、おなかの中にある「腹膜」が刺激されることなのだそうです。

Wikipedia「腹膜」より  By Nanoxyde
Wikipedia「腹膜」より By Nanoxyde

上の図は、横を向いて立っている状態の体の断面図を示しています。向かって右が背骨、左がおなかです。おなかの内側には、ピンク色で示した空間があり、胃や腸などの臓器が入っています。

この空間は「腹腔(ふくくう)」と呼ばれ、その壁にあるのが「腹膜」です。

イメージとして、膨らんだ「水風船」を思い描いてみてください。

水風船の中には胃や腸などが入っているとします。このとき、水風船全体が「腹腔」であり、まわりを包む壁の部分が「腹膜」になります(注)

ジョギングなどの運動をすると、腹腔が上下左右に揺らされます。いわば、水風船を持ち上げて細かく振っているような状態です。すると、中に入った胃や腸などの内臓が動き、壁の部分にこすれて刺激されます。この刺激によって、「あの痛み」が生まれるのではないか?というワケです。

かなりデフォルメした説明ですが、なんとなくイメージできたでしょうか。

この仮説が正しいとすると、なぜ「ご飯を食べたあとに運動すると、お腹が痛みやすい」のか?ということも説明できます。

食事の後は、胃や腸に食べ物が入り、ふくれた状態になっています。この状態では、運動した(水風船を振った)時に、壁がこすられやすくなるということは、容易に想像できますよね。あくまで仮説ということですが、感覚的には納得できる気がします。

痛みを予防するには、どうすれば良いの?

ジョギングなどで急に起きる「あの痛み」を、事前に対策することで防げたら良いですよね。論文では、過去の研究から、いくつか効果がありそうな予防法を紹介しています。

※食事後、少なくとも2時間以内の運動は避ける

※運動中の水分は、一度に大量にではなく、こまめに分けて

※体幹を鍛える

※背筋を伸ばした良い姿勢をとる

これらの予防法、先ほどの「水風船」のイメージを思い出すと、なんとなく理解できる気がします。要は腹膜がこすられるのを防ぐために、胃や腸がふくれるのを避けたり、腹腔が大きく揺らされたりするのを防げば良い、ということなのかもしれません。

痛くなっちゃったら、どうすれば良いの?

予防するのも大事ですが、一番知りたいのは、いざ痛くなってしまった時に、早く改善する方法がないのか?ということですよね。

論文では、およそ600人の「あの痛み」の経験者に、何をしたら早く治りましたか?と質問した結果を紹介しています。

最も多かったのは「深呼吸」(40%)でした。他にもいくつかの研究で、深呼吸に効果があったと報告されているようです。

とはいえ、この点に関しては「試してみて、効果があったら儲けもの」というくらいに思っておいたほうが良さそうです。

何気ない疑問に隠れた体のフシギ

以上、運動のときに悩まされる「あの痛み」について調べた研究を紹介しました。

私たちの体に時々起こる何気ない変調。普通なら気にもしないものでも、疑問をもって調べてみると意外に興味深い話が隠れているものです。今後もこうしたオモシロくてちょっと深い研究を見つけたら、ご紹介したいと思っています。

執筆:市川衛ツイッターやってます。良かったらフォローくださいませ

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今回ご紹介した論文についての情報

Exercise-Related Transient Abdominal Pain (ETAP)

Darren Morton et al. Sports Med. 2015; 45: 23-35.

注 腹腔は、水風船のように液体で満たされているわけではありません

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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