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笠置シヅ子が歌った軍歌はわずか2曲。「大空の弟」はそのひとつ。#ブギウギ #朝ドラ

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

2019年に発見された「大空の弟」

“朝ドラ”こと連続テレビ小説「ブギウギ」の第10週では、弟・六郎(黒崎煌代)が戦死した報を受け、スズ子(趣里)は歌えなくなってしまう。彼女の思いを慮り、羽鳥(草彅剛)は曲を作った。それは「大空の弟」。

第49回、スズ子と茨田りつ子(菊地凛子)の合同コンサートで披露された「大空の弟」は深く胸を打った。「ブギウギ」制作統括の福岡利武チーフプロデューサー(以下福岡CP)に「大空の弟」について聞いた。

「大空の弟」は、スズ子のモデルである笠置シヅ子の数々のヒットナンバーでは馴染みがなく、音源は残っていない。笠置の自叙伝には「仏印の大空に散華した弟八郎の英霊に捧げた」と書いてある。

自伝には、戦時中、敵性歌手と弾圧されていたともあり、そのとき、彼女は「真珠湾攻撃」という歌と「大空の弟」の2曲だけ軍歌を歌った。「大空の弟」の草稿のような楽譜が発見されたのは、2019年のことである。2019年11月9日 朝日新聞デジタルでは『ブギの女王の「軍歌」楽譜発見 亡き弟歌う「大空の弟」』という記事が掲載されている。

ちょうど、笠置シヅ子を主人公にした演劇「『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』~ハイヒールとつけまつげ~」が吉本興業で制作中、羽鳥のモデル・服部良一の楽譜が発見され、それをアレンジして、劇中、発表された。

「ブギウギ」より  写真提供:NHK
「ブギウギ」より  写真提供:NHK

福岡CPによると、「ブギウギ」で歌われたのは、発見された楽譜と歌詞をもとに作った「大空の弟」ブギウギバージョンである。

「軍歌を作るのを苦手としていた服部さんが戦争で亡くなった若者への想いを込めた歌です。音源が存在せず、残された譜面は、歌詞も曲もひじょうに難解なもので、制作スタッフたちが議論を重ねながら、慎重に再現しました。歌詞は、ほぼ実際に書かれたものを使っていますが、時代考証の方と相談して、六郎の設定にあわせた歌詞にしました。例えば、シヅ子さんの弟は『八郎』なので、そこはアレンジしています。曲は、良一さんの孫である服部隆之さんが、楽譜から祖父の想いを汲み取って、編曲しました」

趣里は練習を重ね、実際に彼女がステージで歌った歌をドラマで使用している

孫の服部隆之さんが祖父の楽譜を編曲した「大空の弟」。戦争を体験した祖父の想いのバトンを、現代に生きる子孫がつないだ。この歌を、趣里さんは何度も練習して本番に臨んだ。

「この歌は、ステージの撮影のときに録音しています。これまでのスズ子は、お客さんに向かって激しく踊ってパフォーマンスしていましたが、今回は六郎を想って歌うので、ステージで歌った音を使用することで、よりエモーショナルなものになりました」

「大空の弟」は実際、どこかで歌われた記録はあるのでしょうか。また、淡谷のり子さんとの合同コンサートは実際あったのか。「ブギウギ」を作るにあたり、「大空の弟」の存在はどのような影響を与えたのだろうか。

「はっきりした記録はありませんが、笠置さんは地方の慰問活動などで歌っていたと思います。そして、笠置さんと淡谷さんの合同コンサートはありましたが、時期は違います。アイデアをお借りしました。スズ子の家族をとても大切に描こうと思っていましたので、母ツヤ、父梅吉と弟六郎については、非常に議論を重ねました。『大空の弟』という歌があることは資料を読んで知っていましたので、六郎の死を受け入れ六郎への思いを歌にするエピソードを台本に組み込むことは時間をかけてつくりました。難しい歌ですが、趣里さんが熱心に練習して頂き、本番では、六郎への思いがあふれるいい歌になったと思います」

スズ子も梅吉(柳葉敏郎)も観客も涙したステージ。でもこの歌詞は、福岡CPが「難解」と語るように、額面通りに受け止められるような単純なものではない気がする。敵性語を日本語に置き換え、派手な演目を排除するなど、当時の厳しい規制のなかで書かれた歌詞だ。

国家とそのために戦う者への感謝を語りつつ、弟の様子を知りたいが、様々な情報が◯◯と伏せられていることを残念に思う気持ち。

当時、この歌を聞いた人々は、服部良一と笠置シヅ子の、言葉にできない精一杯の想いに共感して涙したのではないだろうか。シヅ子の弟の八郎は四国丸亀師団にいたそうで、ドラマで六郎がしきりに亀について手紙に書いているのも、なんだか意味深に思えてくる。などといろいろ想像するが、ドラマでは何も語らない。脚本家の足立紳さんにも訊ねたが、亀は偶然と言っていた。

足立さんの亀への思いは、過去のインタビューによるとこうである。

――ペットの亀は、なぜ亀なんですか?
足立「うちの息子はカエルが大好きな時期があって面白いなこいつと思ってみていたんです。でもカエルを映像で出すのはちょっと難しいと思って、亀にしました。亀だったら簡単に用意できるし、扱いやすいので。息子もそうなんですが、なにかひとつのことに執着して、すごく詳しくなることってあるんですよね。そういう感じを描きたいと思いました」
――帽子にまでなって。台本に書いてあったんですか、帽子は。
足立「書いてあります。うちの息子はホラー映画もすごく大好きで、しょっちゅうブギーマンなどのマスクをかぶってうろうろしているんですよ。そういうキャラクターもいつかドラマや映画に出したい。いるだけで面白い。実生活は疲れることも多いですけど」

結果的に歌ってハッピーになることの大切さを描きたい

朝ドラで戦争について書くことについて、問いかけたある記者に対して、福岡CPは「昭和を舞台にした朝ドラをやるとき、戦争は避けて通れない」と話しはじめた。

「戦争のことを描くことはつらく、過去、『カーネーション』に関わったときも悩みました。『ブギウギ』も戦争という時代によってエンターテインメントが規制されじょじょに歌えなくなっていく場面の脚本作りは難しかった。でも、そんな時代を描きながら、結果的に歌ってハッピーになることの大切さを描きたい企画でもありました」

福岡CPは「明日どうなるかわからないが、今日を必死で生きていた時代であることを描きたい」と言いかけ、「いや、そんな説教くさいドラマはつくりたくない」「が、そういうことを通して明るく生きる意味を感じてほしい」と逡巡しながら語った。

これから、まだ戦時中の話は続く。スズ子はどうなっていくのだろうか、見守りたい。

連続テレビ小説ブギウギ
【放送】
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間を振り返ります
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛  菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

ノベライズ・大河ドラマ『どうする家康』(脚本:古沢良太 NHK出版)ほか、著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』、企画、構成に『堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』等。角川書店で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクターなどの経験を生かしドラマ、映画、演劇など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける 日本ペンクラブ会員

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