独立リーグでプレーする元NPB選手
先日、現在四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツでプレーする元阪神の伊藤隼太選手兼任コーチについての記事を書いた。元ドラフト1位、それも人気球団で長らくプレーしていた選手とあって大きな反響があったが、2005年の四国アイランドリーグの開始から17年。日本の独立リーグは、「プロ未満」の選手を育成し、上位プロリーグであるNPBへ送り出す役割だけでなく、NPBからリリースされた選手の再チャレンジの場、あるいはセカンドキャリアへの移行準備の場ともなりつつある。
現在、日本の独立リーグと言えば、老舗の四国アイランドリーグplus(4球団)、最大勢力のルートインBCリーグ(12球団)、今年発足した九州アジアリーグ(2球団)に加え、厳密にはクラブチームの地方リーグというべき関西独立リーグ(4球団)、北海道ベースボールリーグ(4球団)の5リーグがあり、さらにはリーグに属すことなく活動している沖縄のプロ球団・琉球ブルーオーシャンズがあり、計27球団が全国各地で野球の草の根を支えている。
独立リーグでプレーする元NPB選手(2021シーズン)
BCL
福島 若松駿太 26歳 元中日(2013-18)
齋藤誠哉 25歳 元ソフトバンク(2015-18)
田中耀飛 25歳 元楽天(2018-20)
茨城 フェルナンデス 35歳 元ヤクルト(2009-13)
栃木 飯原誉士 38歳 元ヤクルト(2006-17)
成瀬善久 36歳 元ロッテなど(2004-19)
村中恭兵 34歳 元ヤクルト(2006-19)
西岡剛 37歳 元ロッテなど(2003-10,13-18)
川崎宗則 40歳 元ソフトバンク(2000-11,17)
北方悠誠 27歳 元DeNAなど(2012-15)
武蔵 片山博視 34歳 元楽天(2006-17)
辻空 26歳 元広島(2013-18)
佐藤由規 32歳 元ヤクルトなど(2008-20)
フェルナンド 29歳 元楽天など(2015-20)
神奈川 乾真大 33歳 元日本ハムなど(2011-17)
高木勇人 32歳 元巨人など(2015-19)
山本雅士 27歳 元中日(2015-18)
コルデロ 21歳 DeNA(2019-)
デラロサ 22歳 DeNA(2020-)
スターリン 23歳 DeNA(2021-)
ディアス 22歳 DeNA(2020-)
富山 山川晃司 25歳 元ヤクルト(2015-19)
ヒース 36歳 元広島、西武(2014-15,18-19)
タバーレス 27歳 元広島(2018)
四国IL
徳島 福永春吾 27歳 元阪神(2017-20)
高知 藤井皓哉 25歳 元広島(2015-20)
香川 近藤一樹 38歳 元オリックスなど(2002-20)
愛媛 正田樹 40歳 元日本ハムなど(2000-08,12-13)
大本将吾 23歳 元ソフトバンク(2017-20)
平井諒 30歳 元ヤクルト(2010-20)
伊藤隼太 32歳 元阪神(2012-20)
九州AL
火の国 吉村裕基 37歳 元DeNAなど(2003-18)
小窪哲也 36歳 元広島(2008-20)
大分 白崎浩之 31歳 元DeNAなど(2013-20)
琉球 日隈ジュリアス24歳 元ヤクルト(2016-20)
松本直晃 31歳 元西武(2016-19)
福地元春 31歳 元DeNA(2015-18)
杉山翔大 30歳 元中日(2013-19)
亀澤恭平 33歳 元中日など(2012-19)
松尾大河 23歳 元DeNA(2017-19)
比屋根渉 34歳 元ヤクルト(2012-18)
関西L
堺 村上海斗 26歳 元巨人(2018-20)
神戸三田坂本工宜 27歳 元巨人(2017-19)
この内、NPBでプレー経験のある選手が在籍しているのは、15球団。四国と九州は全球団に在籍しているが、BCリーグの場合、半数の6球団しか元NPB選手を受け入れていない。このあたりは球団の方針、あるいは財政事情によるものだろう。選手報酬のない関西、北海道を除く、独立プロ球団の選手報酬は月10~40万円といわれているが、元NPB、とりわけ独立リーグでも主力としての役割が期待される選手には最高ランクの待遇が用意されることが多いため、財政事情の良くない球団はなかなか元NPBの「大物」を迎え入れることは難しい。
近年元NPBの選手を積極的に受け入れているのはBCリーグだ。今年は24人のNPB経験者が在籍している。ただし、その内4人は、神奈川フューチャードリームスが横浜DeNAから受け入れた派遣選手である。DeNAはラテンアメリカ出身の若い選手を育成選手として獲得し、育てる方針のようだが、地元にできた独立球団をその実戦経験の場として利用する方針を昨年、神奈川球団が発足したときから示し、今年も実行に移している。このような派遣制度は2012年にできたのだが、これは独立リーグ側としても選手の人件費削減につながり、NPB側とウィンウィンの関係が構築できる制度と言える。この派遣制度もあり、神奈川球団には、昨年、メキシカンリーグ入りが決まりながらコロナ禍にあってリーグが休止されプレーできず帰国後、神奈川に入団した元巨人の高木勇人らを含め7人のNPB経験者が名を連ねている。
この神奈川を除けば、BCリーグで一番多く「元NPB組」を抱えているのは栃木ゴールデンブレーブスだ。この球団は、3年前に巨人を自由契約となった村田修一(現巨人コーチ)を入団させ、世間をあっと驚かせたが、その翌2019年には、前阪神の西岡剛を獲得するなど「大物釣り」により、今や独立リーグナンバーワンの人気球団となっている。昨年は西岡とWBCで二遊間を組んだ「ムネリン」こと川崎宗則(元ソフトバンク)を獲得。元メジャーリーガーによる二遊間コンビを一目見ようと球場は満員となった。ふたりは今年も開幕後に選手契約を結び、独立リーグでのプレーを続行することになった。また、一昨年この栃木でプレーし、ドジャースとのマイナー契約を勝ち取った2011年のDeNAドラ1投手、北方悠誠や元ヤクルトで昨年は琉球ブルーオーシャンズに在籍した村中恭兵ら、まだまだ上を目指せる選手もこのチームには在籍している。このほか、西岡とロッテで優勝を味わった成瀬善久やヤクルトでプレーした飯原誉士らのベテランがコーチ兼任で在籍しているが、若い選手の育成という観点から、彼らが同時に選手としてベンチ入りすることは基本的にないようで、適宜選手登録を入れ替えてファンの前に顔を見せるようだ。
WBC戦士と言えば、2013年大会で予選から勝ち抜け、福岡での本戦第1次ラウンドでも健闘したブラジルの主力投手として対侍ジャパン戦に先発し好投したラファエル・フェルナンデス(元ヤクルト)が、昨年に引き続き茨城アストロプラネッツに在籍している。また、彼と同郷のブラジル人で、昨年まで楽天でプレーしていたルシアノ・フェルナンドは武蔵ヒートベアーズからNPB復帰を目指している。
現在日本の独立リーグは、日本の選手だけでなく、外国人選手にとってもNPBへの登竜門となっている。2014年から2シーズン、広島でプレーするも、戦力外通告をなされたデュアンテ・ヒースは、メキシカンリーグで2シーズン送った後、2018年に再び来日し、富山GRNサンダーバーズに入団した。ここで1勝4セーブ、無失点という成績を挙げると、シーズン途中に西武との契約にこぎつけ、シーズン終盤にはここでも抑え役を任され、13セーブを挙げて優勝に貢献した。翌2019年は不調でシーズン後、リリースされるが、再び富山に戻り、今年もNPB復帰を目指して元広島のジョアン・タバーレスとともにプレーしている。
一方の老舗、四国リーグには、4球団すべてに「元NPB組」が在籍している。このうち、1999年ドラフトで日本ハムから1位指名を受けた正田樹の存在はもはや独立リーグ界のレジェンドというべきものになっている。NPBで計11年シーズンを送った他、台湾、アメリカなどでプレーした経験のあるベテランだが、独立リーグでは、台湾球界から1度目のリリースをされた2011年にまずBCリーグ・新潟アルビレックスでプレー。そのシーズン中にはヤクルトでNPB復帰を果たしている。ヤクルトの後、台湾に戻った正田だったが、シーズン不調が続くとシーズン序盤にリリースされた。帰国後、愛媛マンダリンパイレーツに入団したが、それからすでに8シーズン目に入りながらも、いまだ先発の柱としてふた回り近く歳の若い選手相手に投げている。愛媛では、彼と伊藤隼太の他、ソフトバンクの育成選手だった大本将吾もプレーしている。
大本は地元愛媛出身。そして彼の高校の先輩にあたる元ヤクルトの平井諒も今シーズンは愛媛でのプレーを選択している。
他球団を見回すと、高知ファイティングドッグスの藤井皓哉(元広島)が現在防御率(1.46)、奪三振(80)でリーグトップ。NPB復帰も噂されている。また徳島インディゴソックスの福永春吾は、クローザーとしてリーグトップの6セーブを挙げ、こちらはNPBだけでなく、海外も視野に入れた上位リーグへのステップアップを目指している。オリックス、ヤクルトで活躍した香川オリーブガイナーズのベテラン、近藤一樹はコーチ兼任ではあるが、リリーフ投手としても防御率1.29と格の違いを見せつけている。
今年2球団でリーグ戦をスタートさせた九州アジアリーグは、育成志向なのか、「元NPB組」は少ない。開幕当初は、主力打者として30ホーマー越えも成し遂げたこともある吉村裕基、2017年の日本シリーズで印象に残るホームランを放った白崎浩之の、ともにDeNAでプレーしていた2選手がそれぞれ火の国サラマンダーズ、大分B-リングスのロースターに名を連ねていたが、先日、火の国球団には、昨年まで広島でプレーしていた小窪哲也が入団し、早速ラインナップに名を連ね、活躍している。
全独立球団の中で、最多の7人となる「元NPB組」を抱えるのは沖縄の独立球団、琉球ブルーオーシャンズだ。7人のうち、西武で主にリリーフとして一軍でも活躍した松本直晃と中日でスーパーサブとしての役割を果たした亀澤恭平はともにNPBドラフトにかかる前は、四国リーグの香川でプレーしていた経験をもつ。在籍者の多くは30代だが、日隈ジュリアス(元ヤクルト)と松尾大河(元DeNA)はまだ20代前半。眠っている才能をここで開花させれば、NPB復帰も夢ではない。
これら有給の「プロ」独立球団でNPB復帰やセカンドキャリア構築を模索している選手もいる一方、無給の関西独立リーグで生活費を別で稼ぎながらプレーしている選手がいるのが、関西独立リーグだ。
2017年から3シーズン、巨人に在籍していた坂本工宜は、大学の準硬式野球部からプロ入りした変わり種だ。育成選手として入団しながらも3年目には見事支配下選手契約を手にした苦労人だったが、その3年目が終わると一軍登板2試合という記録を残して自由契約が告げられた。12球団トライアウトに参加するも声がかからず、昨シーズンはアンダースローに転向し、ひとり練習に打ち込んでいたが、今シーズンは神戸三田ブレイバーズに加入し、NPB復帰を目指して奮闘中である。
また堺シュライクスには、巨人で坂本とともにプレーした村上海斗外野手が在籍している。
近年では、元NPB選手だけでなく、元メジャーリーガーが日本の独立リーグでプレーすることは珍しくはなくなった。それだけ独立リーグの認知度が世界的にも上がっている証左ではあるのだが、その分、参加している「元プロ」の独立リーグでのプレーに対する構えも上位リーグへの復帰という単純な図式だけでは語れなくなってきている。あるものは、指導者としてのセカンドキャリアを見据えて、環境的に決して恵まれているとは言えない独立リーグにあえて身を投じているだろうし、独立リーグだけでなく、国外でのプレーも念頭にとにかく野球を続けたいという意識の者もいるだろう。あるいは、現役生活の最後を世話になった故郷に恩返しのつもりで出身地の球団でプレーする者もいれば、最後に野球を楽しみたいからと牧歌的な雰囲気の残る独立リーグでのプレーを選ぶ者もいる。理由はどうあれ、独立リーグのレベルを押し上げ、プレーの質を高めてファンにリーグ、チームの存在をアピールする彼らの存在は、野球の草の根を広げる意味で貴重なものであることには変わりがない。
(写真はすべて筆者撮影)