2021年度「観光経営人材育成講座(前半)」報告…コロナ禍、外国人材の活用、データ活用の基礎…(下)
本記事では、前号に引き続き、城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科(GSIA)が担当している「観光経営人材育成講座」(東京都支援)(注1)の前半について報告していく。
④第4講座 2021年7月31日(土)
[テーマ]外国人材活用・中国人観光客の視点
[講師]
・城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科の中国人留学生および日本人院生
[全体コーディネータ]
・黒澤武邦氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)
本研究科の中国人および日本人の院生から、「留学目的」「仕事のなやみ」「日常生活で困ったこと」「(日本の)観光地を訪れた際に気になった点」「就職をする際の手続き」について、忌憚のない意見・考え方や情報が示された。その後、参加院生同士の座談会があった。それらを受けて、参加者からの質疑に対して、参加院生からの回答や情報提供があった。それらの中から、中国人が利活用するSNSには特徴があることや留学生の就職サポートアプリの提案などがあった。中国人留学生の視点からの率直な意見や情報提供がなされ、今後も多くの訪日が見込まれる中国人の訪日インバウンド観光を考える上での参考になった。またその後、参加者と院生の間で活発な意見交換が行われた。
⑤第5講座 2021年7月31日(土)
[テーマ]外国人材と日本語
[講師]
・綛田はるみ氏(横浜商科大学商学部観光マネジメント学科教授)
[司会]
・小松悟朗氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)
講師からは、まず日本における外国人労働者の動向や仕組みについての説明があり、それを受けて、動画なども交えて、観光業(主に宿泊業等)外国人労働者の研修事例等に関して、次のようなことをポイントとする講義がなされ、それを受けて、講師と参加者の間で議論がなされた。
・外国人労働者に対しても日本人と同じ研修が多い。
・次のような対応もされている。様々な支援、日本語学習の場の提供、日本文化のサークル活動、休日の外出の送迎、社員寮(WiFi)、日本人に対してよりもより頻繁に面談など。
・ある事例(おごと温泉(雄琴温泉))では、仕事のマニュアル動画が作成され、それとスキルマップが連動されてつくられていることが紹介されていた。それによりスキルごとの説明も不要になっていることも説明された。その活用で、自分で勉強できるようになっており、慣れて自己流の仕事をするようになっているようなベテランなどの場合でもチェックできるのである(これは日本人でも活用できる)。このようなことで、伝承の効率化が図れ、外国人にもわかりやすくなっている。現状では、そのマニュアル動画は、PC上対応だが、今後よりハンディに対応できるようにすることも、雇用側は考えていることも紹介されていた。
・東京都高度外国人材採用・活用ハンドブックの紹介。
・ヒアリングの成果(現時点)
*日本語でわかっているものを、逆に母語表現できない。自信がない。
*語彙不足。
*固有名詞が難しい。
*(客に謝るのは仕事なので仕方ないが)スタッフに謝ってばかりの自分が嫌になった。ストレス。
*(自分で解決して、対応できた)終わった失敗は報告しない(結果主義)。
*コミュニケーション(日本語)教育の必要性
+体験から学びへ。
+やさしい日本語。
日本語によるコミュニケーションだけでなく、英語によるコミュニケーションにも援用できる。
+ホスピタリティ人材としての教育
*外国人材の時には、(終身雇用でなく)短い雇用期間を考慮する必要がある。
サービス産業人材としての成長を促すことが重要である。
*外国人材と雇用主の立場のギャップ。
*コミュニケーションの可視化の重要性。
*今後の課題。
+「ホスピタリティ人材育成」の視点。
行動の標準化 同じ価格を払った人に同じサービスが提供されることが大切。
(誰が行っても同じ対応)
対価を得るサービス行為。
正確性(求められるものに対して)、迅速性(求められるタイミング)、快適性(礼儀作法、身だしなみ、言葉使い等)。
付加価値の形成 ウオンツ、ニーズの推定。
外国人が修得できることが必要。そのために日本語教育や日本文化修得等。
+外国人材の上司には、「公正性」が求められる。
⑥第6、7、8講座 2021年8月28日(土)
[テーマ]【グループワーク】観光経営とデータサイエンス
[講師]
・小松悟朗氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)
本講座では、講師から、データサイエンスに関する基礎的講義および分析方法に関する説明を受けて、それを基に、参加者が4つのグループに分かれて、架空事例でデータ分析を行った。ビジネスや学術研究において最もよく用いられる統計手法の1つである回帰分析を軸に、単なる分析にとどまらず、得られたファクトを元にチームで議論を展開しその意味合いを考察し、最終的にはグループごとに具体的な提言までつなげるという、現在データサイエンティストに求められる一連のデータ分析の実践を行った。
また最後に、各グループは、データ分析の結果を発表し合い、自分のチームでは思いつかなかった知見やアイデアを共有することで、相互に深く学ぶことができた。そのような実践を通じて、参加者はデータ分析の視点や基礎を学ぶことができた。ストーリー性の架空事例であったので、参加者もグループワークを非常に楽しく学ぶことができたようである。
上記で説明したように、本年度の本講座(前半)は、これまでの講座の経験を踏まえて、上述のような講座展開を行ったわけであるが、本講座の原点は、東京都「大学等と連携した観光経営人材育成事業」であり、同事業は、次のような事業目的がある。
「東京都が観光関連事業者の経営力向上を図り、観光産業の活性化につなげることを目的として、経営の視点からサービス提供ができる人材の輩出につなげるなど、大学等と連携して、観光関連事業に従事する者等に向けた新たな教育プログラムの開発等の支援を実施している事業です。」
そこで、GSIAは、本講座を通じて、観光経営人材の育成を図ると共に、さらに「混交関連事業に従事する者等に向けた新たなる教育プログラム開発」を行うというミッションがあるのである。
そのミッションを実現していくために、本年度講座では、次のようなテーマや分野にフォーカスさせて講座を開講したり、新しい教育方法の試み等を行った。
〇観光における新しい分野
・テクノロジーの活用やデジタルフォーメーション(DX)の観光業での現状および可能性(この点については、本年度の後半で主に取り上げる予定)
・データサイエンスの活用(本年度の前半で盛り込んだ)
・外国人材の活用(本年度の前半でも盛り込んだ)
〇新しい教育手法等
・オンラインによる教育(前後半)
・新しい機器(Web会議用360AIカメラやおっかけ撮影機等)の活用(前後半)
・グループワーク(オンライン)でのワークショップの開催(前後半)
・グループワーク開催等におけるマニュアルおよび教材の開発(前後半)
・院生に講師や公開議論の機会を提供し、実経験を積ませる
上記のことについては、本年度の本講座の前半でもかなりの経験および知見の蓄積ができたので、後半では、前半での経験・知見を活かして、さらに刺激的で、中身の濃い講座を展開していく予定である。ご期待していただきたい(注2)。
(注1)詳しくは、こちら。
(注2)本記事の内容に関しては、すべて筆者の責任であることを明記しておきたい。