国の機関が「実習生」への違法行為に関与 ユニオンが外国人技能実習機構を提訴
2023年3月20日、仙台のコミュニティユニオンである仙台けやきユニオンが認定法人外国人技能実習機構に対し、「不当労働行為」に対する損害賠償を求めて提訴したと記者会見で発表した。
今回問題となっている外国人技能実習機構とは、2016年に制定された外国人技能実習法に基づき、法務大臣によって管轄されている公の機関である。同機関は、外国人技能実習制度の監督や技能実習生の保護を行う機関である。
仙台けやきユニオンはすでに、昨年4月、技能実習生らがユニオンに加入して会社と解雇や未払い賃金について交渉しようとした際に、会社と監理組合が行った「不当労働行為」に同機関が加担したと告発。社会的な注目を集めていた。
参考:国の機関が「違法行為」に加担? 「混迷」の度を増す外国人の労働問題
昨年4月に国会でも議題にあがり、厚労大臣が「不適切な行為」だったと発言もしている。
そのような中、今日3月20日、仙台けやきユニオンは外国人技能実習機構を裁判で訴えるということになった。会見で発表された内容やユニオンへの取材をもとに、提訴に至った経緯や当事者らの思いを紹介する。
監理団体も技能実習機構も助けてくれずユニオンに駆け込む
まず、今回の事件について簡単に説明していこう。
昨年の2月、宮城県石巻市にある水産加工業者の工場で技能実習生として働いていたベトナム人女性3人が退職強要の被害にあった。仕事上のミスを理由とし、職場を辞めさせられたのである。
また、この職場では会社の役員が大声で怒鳴り叱責するなどのパワーハラスメントや、早朝の掃除時間分の賃金の未払い賃金、機械での作業中に人差し指を切断する労働災害も発生していた。
この時技能実習生たちは、まずは技能実習生を支援する立場にある監理団体に相談した。ところが、当該監理団体は支援を拒否し、むしろベトナムに帰国するよう告げられてしまう。
困った技能実習生たちは技能実習制度の監督機関である外国人技能実習機構への相談に至った。しかしそこでも、外国人技能実習機構は「会社が求めているのは(中略)今後はトラブルを起こさないと反省し、謝罪すること」、「お互いに問題があった」とあたかも、会社側の違法行為や労働問題について実習生側にも非があるように労働者に伝えた。
監理団体も技能実習機構も助けてくれないため、彼女たちは地元のコミュニティユニオンである仙台けやきユニオンに駆け込むことになった。
国の機関が企業の違法行為に加担。組合の脱退を示唆
技能実習生たちがユニオンに加入し、ユニオンが会社側と団体交渉を行おうとしたところ、技能実習機構側から「技能実習生らと話がしたい」と連絡が来た。技能実習生たちとユニオンのメンバーが技能実習機構の仙台支部に出向いたところ、技能実習機構の担当者は技能実習生らに対して次のように発言した。
復職の代わりに労働組合の脱退を求める会社側の行為は、労働組合法に定める「不当労働行為」に該当する違法行為である(労働組合法第7条)。しかし、外国人技能実習機構は、会社や監理団体の行為を是正させるどころか、むしろ労働組合の脱退を促すともとれる発言を、技能実習生に対して行ったのだ。
さらに、技能実習生たちに対しメールでも、会社に謝罪をし、ユニオンを脱退すれば復職の可能性があるとも伝えたという。下記がそのメールの画像だ。
このやりとりを見る限り、外国人技能実習機構が、企業や監理団体の側に立ち、さらには違法な労働組合の脱退要求をも代弁しているように見える。労働組合への加入は日本国憲法が定める基本的人権の一部である。そのため、これはきわめて深刻な人権侵害を助長する行為であるとユニオン側は主張している。
技能実習機構は公的機関であり、技能実習生らが実習中にトラブルがあれば相談する機関として教えられてきた機関である。幸い、今回の当事者たちはユニオンを辞めなかったが、一般的には、公的機関からこのような提案がなされた場合にユニオンでの交渉をあきらめてしまう可能性は高いだろう。
そもそも、ユニオン(労働組合)は憲法、労働組合法に保護されている。この法律は、戦前から密室で行われてきたハラスメント行為や「奴隷労働」を是正させるために定められたものだ。まさに、今回のような違法行為や退職強要といった不当な状況から身を守るための権利なのである。実際に、今回の当事者たちがユニオンを脱退して職場に戻っても、新たに密室で嫌がらせがはじまったであろうことは容易に想像がつく。
外国人技能実習機構は法律に基づいて設立されており、労働者の相談を受ける立場にもありながら、日本の憲法も、労働法もよく理解していなかったのではないかと感じざるを得ない。
ユニオン側は機構の行為を「団結権の侵害」と指摘
以上のような事件に対して、仙台けやきユニオンは公的機関が「団結権を侵害した」として、技能実習機構側に抗議を行っている。その抗議に対する機構側の回答(2022年4月12日)では、下記の内容であった。
この回答に対してユニオンは、自身が当事者であるにも関わらず「遺憾」だとまるで第三者であるかのように責任回避に努めており、組合に対する謝罪すらなく、何がどのように問題であったのかがわからない回答であると主張している。
参考:労組脱退」を示唆した外国人技能実習機構から回答がありました。対応が「不適切」と認めるも謝罪はせず。不誠実な対応に抗議します
そしてその後、当該の組合員らの転職が円滑に終了したのち、仙台けやきユニオンは改めて機構に対して謝罪と賠償を申し入れた。しかし機構は、昨年4月と同様に、今回の機構の行為は「不適切な対応」とし謝罪の言葉はあったものの、違法性について認めることはなかったという。
上記の対応を受けてユニオン側は、機構が今回の行為の違法性を正しく認識していないということは、同様のことが再び起きる恐れがあると主張する。たしかに、アメリカ政府や国連の機関に「現代奴隷制」と批判される技能実習生たちの状況に鑑みても、公的機関すら技能実習生の人権を守る姿勢に欠けている実態は深刻である。
そもそも、国際的な非難の主な理由は、日本政府が不当な状態を是正する意思に欠けているというものであるが、まさに今回の事件はその典型であるといえる。技能実習生を保護する機関が技能実習生たちの人権を侵害してしまったという事実を適切に認識し具体的な改善策を講じるべきであろう。
以上の経緯から、今回の訴訟では、ユニオンの脱退を促した機構の行為は不当労働行為(支配介入)に加担する行為であり、労働者の団結権(憲法28条)を侵害する不法行為だとして、機構を提訴するに至っている。同ユニオンによれば、司法を通じて、機構の違法性をはっきりさせることが目的だという。
会見に出席した、被害を受けた組合員は下記のように述べている。
監理団体も公的機関すら機能しない技能実習制度はこのままでいいのか
今回の事例も含め、技能実習生たちは職場でトラブルが起きた際、本来はサポートをするはずの監理団体が全く機能しないことが多い。監理団体は「顧客」である技能実習先企業と結託し、不満を言う技能実習生らを追い出すことに加担する事例が相次いでいる。
それだけでなく、今回の技能実習機構の事件のように、「支援機関」であるはずの団体が人権侵害に加担する行為も数々発生してきた(例えば、公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)が、監理団体とともに、技能実習生が所属する労働組合の組合員を脱退させようとしたとして、労働委員会で争われている)。
神労委平成29年(不)第14号塚越鉄筋工業等事件命令交付について(神奈川県HP)
しかし、「支援機関」による不当な行為に対して法的に責任が認められたものは、おそらく過去にはない(ただし、組合上部組織など第三者による不当労働行為責任が認められたことはある)。今回の裁判で「支援機関」の責任がはっきりすれば、この事例を皮切りに数々の告発がなされていくかもしれない。
技能実習制度については現在、廃止を含めた制度改革についての検討会議(「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」)も始まっている。同会議でも、現場の実態を踏まえた議論を行うべきだ。
今回の裁判が進む中で、制度の実態がさらに明らかになっていくだろう。法改正の動きとも合わせ、今回の裁判の行方に注目していきたい。
なお、外国人技能実習機構に今回の訴訟について、事実関係の確認及びコメントを求めたところ「個別の案件については答えられない」とのことであった。
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