大滝詠一 日本ポップス界の巨人の尽きない探究心、好奇心が結実した“ノベルティ・ソング”【前編】
大滝詠一とノベルティ・ソング
毎年「ナイアガラの日」(3月21日)に発売される、日本ポップス界の巨人・大滝詠一作品。今年はコンポーザー&プロデューサー“大瀧詠一”名義で、多くのアーティストに提供したコミックソングや、リズムが特徴的な、音だけ聴いても楽しめるユーモラスな楽曲を中心にコンパイルした企画アルバム『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』がリリースされ、好調だ。未発表曲を含め数々のレア音源が詰まっているこの作品について、そして大滝詠一がノベルティ・ソングというものをどう捉えていたのかを、関係者へのインタビューから紐解いていく。
Disc-1は大滝本人が歌っている11曲の音源を収録。初公開となる新曲や、名曲のセルフカバーなどをコンパイルしたオリジナル・アルバムとなっている。全曲が未発表音源で、1980年代の伝説のお笑いバラエティ番組『オレたちひょうきん族』から生まれた「うなずきマーチ」や、テレビアニメ『ちびまる子ちゃん』のエンディング主題歌「針切じいさんのロケン・ロール」のセルフカバー、ファン待望のティン・パン・アレイの演奏をバックに、小林旭へ楽曲提供の準備をしたが、企画が実らなかった「ホルモン小唄~元気でチャチャチャ」などが収録される。Disc-2は『NIAGARA ONDO BOOK』という作品集で、コンポーザー大瀧詠一として多数のアーティストに提供した音源のほとんどがレアな別バージョンで収録されている。
ノベルティ・ソング集を創ろうと思った様々な“きっかけ”
「今回の作品をリリースしようと思ったのはここ数年色々な“きっかけ”があったからです。40周年を記念して昨年3月に発売した『NIAGARA TRIANGLE Vol.2 40th Anniversary Edition』からのリカットという形で、8月に7インチ・アナログレコードとして『A面で恋をして』のシングルバージョンを発売しました。そのカップリングに同時期にラジオ特番でのみ披露した『イエローサブマリン音頭』の別バージョン、『イエローサブマリン音頭(特別変)」(1982年)を収録しました。この組み合わせは大滝さん本人も妄想していたので実現できよかったです。偶然にもこのリリースと同時期に、NHKさんから『1オクターブ上の音楽会』という特番でこの曲を掘り下げたいというお話をいただきました』。
「ナイアガラ音頭」と「イエローサブマリン音頭」
昨年9月に第1回目が放送された『1オクターブ上の音楽会』は、異色の歌謡曲はなぜ生まれたのか、その秘話に迫る音楽史探求ドキュメント。そこで「イエローサブマリン音頭」が取り上げられ、レコーディング当時の音源で今の金沢明子が歌った。大滝の遊び心や思い出、アーティストへのリスぺクトが込められていることが明らかにされた。
「放送時間の都合でカットされましたが、実はあの時『イエローサブマリン音頭』のために、遡って『ナイアガラ音頭』(1976年)がどう作られたのかということも解明していました。当時バンドのリズムと和楽器の融合、ロックと音頭の融合はかなり実験的な制作方法でした。そこで演奏していらしたのが三味線の本條秀太郎さんで、すごくアバンギャルドな方だったので面白いノリにも付いてきてくださいました。本條さんは実は金沢明子さんの師匠でもあり、『イエローサブマリン音頭』は『ナイアガラ音頭』と地続きで、色々な実験を経て試行錯誤の末に完成したということを伝えることができました。そういうきっかけもあって、大滝さんのノベルティ・ソングという側面をきちんと伝える作品を創るタイミングが来たと思いました」。
大滝最後の公式歌唱レコーディング「ゆうがたフレンド(USEFUL SONG)」
きっかけはまだあった。今作に未発表曲として収録されている 「ゆうがたフレンド(USEFUL SONG)」を巡る物語だ。この曲は大滝がとんねるずに提供した曲だが、陽の目を見ることがなかった。デュエット作品ということもあって、今回ムーンライダーズの鈴木慶一とのデュオ(冗談ぢゃねーやーず)が実現。これは2005年12月12日、大滝最後の公式歌唱レコーディング音源だ。
「2020年にとんねるずの石橋貴明さんが『石橋、薪を焚べる』(フジテレビ系)というトーク番組で、この曲がボツになっていたことを初めて公の場で語ってくれました。糸井重里さん作詞、アレンジは多羅尾伴内(大滝)と井上鑑さんで、タカさん曰く『真面目な曲が来ると思ってたらコミックソングが来ちゃったので、企画が合わなくなった』のでボツになりました。それから昨年3月ムーンライダーズの日比谷野音ライヴを観に行ったら、彼らの結成30周年の時に発表した『ゆうがたフレンド(公園にて)』(作詞・糸井重里/作曲・白井良明)を演奏してくれ、『あっ!』と思いました。終演後慶一さんに『実は大滝版「ゆうがたフレンド」があって、とんねるずさんに書いたけどボツになってしまって、でもいつかデュエットしてもらえませんか』とオファーしました。しかし、まさかこんなに早く実現するとは思いませんでした」。
大滝詠一×鈴木慶一=冗談ぢゃねーやーずが50年振りに復活
鈴木慶一は大滝の1stアルバム『大瀧詠一1st』(1972年)でボーカリストとして共演しており、今回大滝との伝説のユニット=冗談ぢゃねーやーず(エルヴィス・プレスリーのバックでコーラスをやっていた“ジョーダネアーズ”のパロディー)が50年振りに復活した。
「今度のノベルティ企画があるからデュエットで、と考えたのではなく、ムーンライダーズ版の『ゆうがたフレンド』をライヴで聴いて『あっちの曲も慶一さんに一緒に歌ってもらうと楽しくなりそう』って思いました。聴いてくださった方にこの歌詞で描いている友情の大切さを感じていただき、世知辛い今の時代にこの曲を聴いて少しでも元気になってもらえればと思い、収録させていただきました」。
<後編>に続く。