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南アフリカ代表新指揮官のアリスター・クッツェー、日本で語った指導論(+α)【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
現役時代スクラムハーフだったクッツェーは、エリスに厚い信頼を寄せた。(写真:アフロスポーツ)

ラグビーの南アフリカ代表は4月12日、アリスター・クッツェーを新ヘッドコーチに指名したことを発表した。昨季は日本最高峰のトップリーグで神戸製鋼を率いていた。当時の談話には、勝負やチーム作りに関する哲学が垣間見える。

クッツェーは2010年から、国際リーグのスーパーラグビーでストーマーズのヘッドコーチを務め、2012年には南アフリカ協会が選ぶ年間最優秀コーチ賞を受賞した。南アフリカ人の新指揮官を探していた神戸製鋼が関係者を通じてオファーを出し、来日に至った。教師経験に基づく人間観察力、朗らかな笑顔、あめと鞭を使い分けた指導方法に定評があった。

4年に1度のワールドカップを2度制している南アフリカ代表だが、昨秋のイングランド大会ではニュージーランド代表に敗れて準決勝敗退。予選プールB初戦では、24年間勝利のなかった日本代表に敗れていた。かねて白人主体のメンバー構成に批判が集まるなど、

人種問題も課題とされていた。

クッツェーは同国史上、2人目の黒人指揮官となる。その手腕だけでなく、同国のニーズに見合った人選が期待される。

以下、神戸製鋼在籍時の談話の一部。

<2015年11月15日、神戸総合運動公園ユニバー記念競技場。リーグ戦グループB第1節。キヤノンに23―18で勝利後の会見談話>

「開幕戦を切り抜けられて嬉しいです。シーズンの最初は選手もナーバスななかなので。勝ったなかで課題が見えたことについてもハッピーに思います。

ルルーに14点、献上してしまった(キヤノンでは途中出場のウィリー・ルルーがトライとインゴールでのタックルを繰り出す)。ただ、総括としてはキヤノンさんがすごくいいプレーをしていました。ロングキックでプレッシャーをかけられた。その状況で勝って終われたことは、ハッピーです」

――(当方質問)春先から、どんなことに時間をかけてきましたか。

「私の仕事はチームを勝たせることです。神戸にウィニングカルチャーを浸透させる。そこに注力しました。(プレシーズンリーグを含め)毎回、毎回、きれいな勝ち方ではないことは認識しています」

――(当方質問)メンバーチェンジはわずか3人。リザーブにいた元南アフリカ代表センターのジャック・フーリーには出番がなく、先発した同ロックのアンドリース・ベッカー、元ニュージーランド代表スクラムハーフのアンドリュー・エリスはフル出場しました。

「(同時に出場できるのは最大2人という)外国人枠はどのチームにも与えられたものです。フランスのリーグように、外国人枠がないために代表強化に繋がっていない場所もあります。自国の選手が揃っていない国もあります。協会の判断はそれぞれですが、自分は与えられた状況とスコッドのなかで最大の仕事をします。

接戦では、(ゲームを動かす)スクラムハーフのポジションには経験のあるアンディーのような選手が必要です。ベッカーも同じ理由で外せません(セットプレーのキーマン)。結果、勝ったので、ハッピーです」

<同上、会見後の単独取材>

――前日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズさんが、クッツェーさんのいたストーマーズの指揮官となりました(後にイングランド代表ヘッドコーチへ転身)。

「私のチームは神戸製鋼です。ハハハハハ!」

――先ほどの話ですが、メンバーチェンジにはアドリブも大切なのですね。

「そうです。本当は、ジャック・フーリーを入れたかったです。ただ、アンディーもアンドリースは外せない。ルルーにトライを防がれていなかったら、点差が開いた。ここでフーリーを入れたと思います」

――聞くところによると、チームミーティングが非常に多いようですね。

「ゲームプランを明確に共有するためです。またミーティングを通して、リーダーを育てられます。ここで日本人選手にたくさん喋ってもらって、リーダーシップを持ってもらいたい。試合中、フィールドでのプレッシャーをコントロールできるのは選手だけですから。プランを機能させるのは、選手の仕事です。考える機会を増やす。そのためです」

<2015年11月22日、柏の葉公園総合競技場でのリーグ戦グループB第2節。NECに46―12で大勝した際の会見談話>

「結果にはハッピーです。チームとしても今週はステップアップできました。先週は取り損ねたトライもありましたが、今週はチャンスを取り切ることをプランに掲げていました。アンストラクチャー(互いの陣形が整っていない場面)でも、相手の脅威となるアタックができました」

――山中亮平選手について。

「山中の成長にはハッピーです。ゴールキッカー、スタンドオフとしての仕事について、彼とは常に話し合っています。彼は、フラットな場所(相手守備に近い位置)でボールをもらって自分でも抜きに行ける選手です。キックを蹴る際に(ボールをもらう立ち位置の)深さを保つといったことも、経験を積むなかでできるようになってゆくと思います。もともと前に行ける選手に下がれという方が、その逆よりも簡単です。自分の仕事は、彼のような才能のある選手をインターナショナルの舞台に押し上げることです。また、田邉(秀樹、スタンドオフやフルバックを務める)が彼にいい意味でプレッシャーをかけてくれている。チーム内に健全な競争関係があります。だからこそ山中は、いいプレーをし続けないといけない」

<16年1月24日、東京・秩父宮ラグビー場でのプレーオフ3位決定戦。ヤマハに22―26で敗戦>

「先ほど伊藤鐘史ゲームキャプテン(ロック)と話しましたが、負けた時の会見はやりたくないものです。もちろん、悔しいです。3位決定戦は、戦うのが難しい試合です。ただ、モチベーションはありました。言い訳はありません。情熱を持ってプレーして、それをスコアに表したと思います。ただ、後半にミスが多くなった。足りなかったのは、アタックの我慢です。

神戸製鋼での1年目のシーズン、層を厚くすることができた。その層の厚さが、最後に試されたと思います。選手の努力は、最後の試合まで見られました。選手の努力は、コーチが唯一、指導できない領域です。ミスに関しては、こちらが修正します。

勝ったヤマハには謝辞をお送りしたいです。私たちがミスでスコアできなかった一方、ヤマハはチャンスで取り切った。

両チームともトライを狙っていた。おそらく、観客の皆さんは楽しんだと思います」

――今季の反省は。

「ピーキングが少し、早かったかもしれない。ただ、神戸製鋼の将来はとても楽しみに思っています」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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