稲垣啓太。復帰したチームでやめた「よくない」こととは?【ラグビー旬な一問一答】
ラグビー日本代表として3度のワールドカップに出場した稲垣啓太が12月21日、東京・味の素スタジアムで国内リーグワン初戦に先発。持ち場の左プロップで47分間、プレーした。東京サントリーサンゴリアスを33―12で下した。
昨季途中に怪我で離脱しており、この日は約11か月ぶりの実戦復帰だった。
——久々の公式戦です。
「きょう11カ月ぶりに公式戦に出ることができて、フィールドに立つことは素晴らしいと思えました。血が沸き立つというか、そんな瞬間がまだ自分の中にあるんだと実感できました。改めてこれを続けて、若い選手に伝えていきたい」
——久々の試合。いつもと違う感覚は。
「ないです。何かひとつ自分の中で失われているとしたら試合勘かなぁと思いましたが、実際には関係がなかった。自分の役割は決まっていますし、そこでずっと機械的に同じことをやり続けるだけ」
——きょうは防御が素晴らしかった。事前の宮崎合宿でどんな準備をしたか。
「(戦術上の)細かいことは控えますが、それを、確認し合っただけです。フィールドでも、宿舎に戻ってからのディベート形式でも。(重要だったのは)誰に仕切らせるべきか。仕切らなければいけない人間が仕切る、ということを宮崎合宿で確認できました。(それ以前は)たまに、ハドル(円陣)で集まっても『誰が喋るんだっけ?』ということがあった。一番よくない。改善点がわからず、『誰か、やってよ』という。それが、宮崎でなくなった」
——「仕切らなければいけない人間」は。
「チームのダイレクターと呼ばれる人間です。10、15番(スクラムハーフ、スタンドオフ、フルバック)、そしてディフェンス担当がひとり。皆が皆、喋れるんですけど、一回、それをやったら爆発しちゃったので、喋るべき人間が喋る。ただ、それを通り越してそこ(ダイレクター)に任せきりになることがあって、(当該の選手が話を切り出さないことで)『…喋ってよ』というのが出ていた。…それぞれが当事者意識を持って、やるべきことをしっかりやる。ダイレクターはその説明をする。この役割がはっきりしたのが大きいです」
伝統的な堅守速攻のスタイルを貫くための詳細を再確認したとわかる。試合中の軌道修正を「人任せ」にするという「よくない」ことを戒め、各自が「主体的」になりながらも「ダイレクター」の指示を引き出し、倣うのを是とした。
——稲垣選手自身はどんなアプローチをしていますか。
「僕ね、余計なことは喋らないので。チームにトラブルがあった時、必要であれば喋るんですけど、喋るべき人間が喋るべきだと思うので」
——きょうまで、それが必要なことは起きていませんか。
「ハドル中(試合中の円陣)はあまり喋ってないです。ただ、ひとつ言ったのは、『一発目、絶対に頭から行け』。凄くタフな試合になると思っていて、動くとしたら前半20分。ずっとリードは奪っていましたけど怪しい部分もたくさんありましたし、それほどチームの差がなかった。その部分(立ち上がりからのエナジー)で上回ることができたかなと思います」
——昨季はシーズン途中で稲垣選手が戦線離脱するなか、ワイルドナイツはレギュラーシーズン首位もプレーオフ決勝で敗れました。
「個人的な解釈ですけど、よく言えば自信、悪く言えば慢心。結果、2年連続で負けているので、何とかなるだろうという慢心が強かったのかなぁと。試合内容を見ても、絶対に自分たちがしないようなミスで取りこぼしている。去年、自分たちがやってきたことで自信を持って信じる部分は、メンタリティ。伝えていける部分はもっとあったんじゃないかなと」
——そして新シーズン。昨季限りでベテランの堀江翔太選手と内田啓太選手が引退。長らく正司令塔だった松田力也選手もトヨタヴェルブリッツへ移籍しました。稲垣選手は年長者にあたります。
「アサ(ヴァルアサエリ愛)は僕のひとつ上ですが、同期入団です。我々が年長になる。その役割は重要になる。まず、自分のプレーをしっかりとやる。ただチームの文化、メンタリティ的な部分は我々しか伝えられない。途絶えさせてはいけない。代表でも、ワイルドナイツでも、伝えられる人間が伝えないといけない」
——「文化」とは。
「代表はいま僕が参加していないので控えますが(今年発足の現体制には不参加)、ワイルドナイツの文化は、ディフェンス。最近は皆さんも『アタックに重きを置いているんじゃない?』と見ていると思います。アタック力も高くなっています。ただ、そもそも根底にあるのはディフェンス。僕はラグビーではディフェンスのほうが大事だと思っていて。アタックができる選手よりもディフェンスができる選手がいるほうが、絶対に強い。特にフォワードはそう。フォワードがまず、ディフェンスのコンタクトエリアで負けないということです。特にサンゴリアスさんにはそうですが、ブレイクダウンで前に出られるとどんどん(攻めの)テンポが上がってしまう。最初を抑えるのが肝心。きょうは、そこが少しばかりうまくいったんじゃないかと思います」
28日には本拠地の熊谷ラグビー場で、クボタスピアーズ船橋・東京ベイとぶつかる。