具現化しつつある「作曲AI」。第一線で活躍する作曲家やクリエイターは時代の変化をどう捉えているのか?
AIを用いた作曲支援アプリに注目が集まりつつある。人工知能による楽曲制作が、未来のテクノロジーとしてではなく、現実のクリエイティブとして具現化しつつある。
その一つが、音楽プロデューサーでアゲハスプリングス代表の玉井健二が監修とプロデュースを手掛けるミュージッククリップアプリ「FIMMIGRM」(フィミグラム)だ。
■ヒット曲を作るノウハウを一般ユーザーの動画に詰め込む
FIMMIGRMは、ボタンを押すたびにAIが8小節のメロディとコード進行を自動生成するアプリ。アプリ内で撮影した写真や動画のBGMとして楽曲を使用することも可能で、作られた楽曲の著作権はユーザーのものとなる。プロのミュージシャンだけでなく、音楽制作をはじめようとするアマチュア、TikTokやInstagramなどSNSに動画を投稿するユーザーまで、幅広い層が対象になっている。
アプリの監修とプロデュースを手掛けたのは音楽プロデューサーでアゲハスプリングス代表の玉井健二。玉井が代表をつとめるTMIKが企画と開発を担当し、これまで数々のヒット曲を手掛けてきた玉井らの知見によりヒット曲の特徴を独自に分析したデータをAIに学習させている。
玉井はアプリのリリース後の反響について、こう語る。
「いろんな人が作曲AIを作っていますが、機能に関して特化している印象が強い。手前みそですが作曲AIに関して僕らが負けるはずがなくて。なぜならヒット曲の作り方は他の人よりも知っている。なので、ただの作曲ではなくてヒット曲を作るノウハウを詰め込む事に特化しています。ヒットしそうなメロディーを一般の人が普通にオリジナルとして持てるという状況を生むためには、おそらくそれは動画発なんじゃないかと。ネット上あるいはSNS上の個々人が発信するコンテンツではおそらく動画がメインになると思うので、そういう場面で使ってもらいたいなという思いでこういうアプリの仕様になっています。もちろん、動画のエフェクトが色々使えるのもその一つの理由です。色々と触ってもらった皆さんからは非常に好意的な反応が多いと感じています。やっぱり手に取りやすくて、間違いないものを実現できるという部分がFIMMIGRMの売りだと思うので、触ってもらった人にはそこは確実に届いてるなという実感があります。一方で、やっぱり作曲AIだったりそのAとIと言う文字に対しての、漠然としたアレルギーというものを世の中の人が持っているんだなというのも、僕らじゃなくて他の件を見てて感じる部分はあるので、そういう漠然としたアレルギーを飛び越えられる様な体験をまずはしてもらいたいという想いがFIMMIGRMにはあります。これに関しても、まず体験してもらって非常に好意的に受け止められている。理屈ではなく体験から得てもらいたい要素が確実に伝わってるなと。そこが今のところ、大変良い状況かなと思っています」
また、今後の展開については、「今は例えば小節数が限られているとかそういった制約があるので、当然今後に関して言うとイメージ通りの楽曲をすぐに実現できるという方向に向かってどんどん進化をさせていくので、ここに向けていいスタートが切れているなと感じています」とのことだ。
■AIが「普段やらない手札」を提案
また、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)はiOS向けのAI作曲支援アプリ「Flow Machines Mobile」の提供を開始した。
「J−POP」「ジャズ/フュージョン」など作りたい楽曲のジャンルを指定すると、設定されたコード進行に基づく4小節もしくは8小節のメロディをAIが自動生成するというアプリだ。音楽データを解析した機械学習モデル「スタイルパレット」が元になっており、あらかじめ用意されたスタイルパレットを選ぶだけでなく、自分の作ったメロディをアプリに学習させることでオリジナルのスタイルパレットを作成したり、AIが提案したメロディを細かく調整することもできる。
同社は2019年にパソコンで音楽制作を行うDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)上で動作するプラグイン型のツールとして「Flow Machines Professional」を開発。ソニーグループ内で実践的に楽曲制作にも活用してきた。
9月23日に開催されたオンラインイベント「UNLOCK with Sony」では、音楽プロデューサーのtofubeats、ボカロPとして活躍するSohbana、音楽ユニット「ふたりごと」のコンポーザーである三浦良明が登壇し、「Flow Machines」を使っての楽曲制作を解説した。
tofubeatsは、「一人で作っていて煮詰まったところに、良い意味で機械的にアイデアを流し込んでくれる。普段やらない手札を提案してもらえることが大きい」と使ってみての実感を語り、「作曲のプロセス自体が変わることによって心理的な影響も大きい」とその意義にも触れていた。
AIによる作曲支援が現実のものとなり、誰もが手軽にオリジナルのメロディを生み出すことが可能になりつつある昨今。第一線で活躍する作曲家やクリエイターは、それを危機ではなく、むしろ自身のクリエイティブの機会を増幅させる“追い風”と捉えているようだ。