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えっ、本当?「大統領でいることで、大枚を失った」トランプ氏が“不満発言”

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
感謝祭の休暇のため、フロリダ州の別荘に向かう前に記者会見をするトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 「大統領でいることで、大枚を失った。それは構わんよ。そうなることはとっくの昔にわかっていた。でもね、大統領でいることで大枚を失ったんだ。君たちが見たこともないような莫大なお金だよ。でも、いつかそれがどういうことだか話すよ。私は自分の利益のために取引しているわけではないから、大枚を失うことはとっくの昔にわかっていたよ」

 感謝祭の休暇のため、フロリダ州の別荘に向かう前にトランプ氏が記者たちにしたこの“不満発言”に、アメリカのメディアが首を傾げている。

 トランプ氏は、先日、CIAがムハンマド皇太子がカショギ記者殺害を命令したと断定したにもかかわらず、“アメリカ・ファースト”という理由から、サウジアラビア政府を擁護する声明を出して非難された。また、サウジアラビア擁護の背景には、トランプ氏の個人的な利益が絡んでいるのではないかという指摘もあった。それについて、ある記者が質問すると、トランプ氏は「サウジアラビアとビジネスをして、彼らからお金をもらってはいない」と否定。上記の発言に至ったのだ。サウジアラビアからお金をもらうどころか、大統領でいることで、大枚を失ったとボヤいたわけである。

トランプ氏が自分の所有物件で大枚をはたいた

 トランプ氏は本当に大枚を失っているのか?

 トランプ氏には、アメリカの大統領の年収40万ドルが支給されているが、彼はこれまで得た収入を国立公園サービス、退役軍人関係の業務、運輸、健康福祉、教育など様々な政府機関に寄付してきた。10月には、2018年第2四半期に支給された報酬を小企業を管理する政府機関に寄付。選挙時に公約した年収1ドルを守っているようだ。

 しかし、大枚を失ったとまで公言できるだろうか?

 アメリカのメディアは、それはおかしいと疑問を投げかけている。

 ワシントン・ポスト紙によると、トランプ・オーガニーゼーションは、この2年の間で、共和党候補や選挙運動委員会から420万ドルを稼いだという。また、少なくとも117人の共和党議員や共和党の候補者たちが、中間選挙のために、トランプ氏が所有するホテルなどの所有物件で選挙資金やPAC(米国の企業や団体が政治献金をするために設立した政治活動委員会)のお金を使ったというのだ。ワシントンDCにあるトランプ氏のホテルも、共和党候補者や様々な委員会などから140万ドルを稼いでいた。

共和党候補者などが140万ドルものお金を落としたというワシントンDCにあるトランプ・インターナショナル・ホテル。(筆者撮影)
共和党候補者などが140万ドルものお金を落としたというワシントンDCにあるトランプ・インターナショナル・ホテル。(筆者撮影)

 中でも、誰がトランプ氏の所有物件で一番お金を使ったかというと、皮肉なことに、トランプ氏自身だった。トランプ氏は、就任日から、2020年の再選のために資金集めを開始したが、再選のための選挙運動を通じて、自分の所有物件(トランプタワーでの家賃、ワシントンDCのトランプ氏のホテルでの宿泊代、ボトル水企業トランプ・アイスのボトル水代)で743,781ドルを使っていたのだ。何のことはない、トランプ氏は自身が所有する物件に大枚をはたいていたのである。

サウジアラビア政府からも利益を

 また、サウジアラビア政府から利益を得ていないというトランプ氏の主張はおかしいという指摘もある。

 トランプ氏は大統領就任後も、2017年度は、ホテル業で40.4ミリオンドルの利益を得ており、トランプ氏所有のホテルの宿泊者にはサウジアラビア政府のロビイストも含まれていたからだ。

 また、マンハッタンにあるトランプ・インターナショナル・ホテルは、2年間は減益していたものの、2018年の第1四半期は13%も収益が上がっている。カショギ記者殺害を命令したとCIAが断定した、あのサウジアラビアのムハンマド皇太子が、3月、急にニューヨークに来訪することになり、トランプ氏のホテルを予約したことが増益につながったからだという。

 トランプ氏は、その“不満発言”とは裏腹、大統領でいることで大枚を得ていたし、サウジアラビア政府からもお金を得ていたことになるのではないか。

 ちなみに、トランプ氏は、事業を通じて外国政府から利益を得ることは憲法違反であるという理由から、昨年6月、メリーランド州とワシントンDCがあるコロンビア特別区の司法長官や約200人の民主党議員から提訴されている。

 また、米下院情報委員会の民主党議員たちは、トランプ氏のサウジアラビアとの金銭的つながりが、カショギ記者殺害に関するトランプ氏のサウジアラビア政府擁護という対応に影響を与えている可能性があると考え、調査に乗り出そうとしている。

 提訴や調査の行方が注目されるところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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