Yahoo!ニュース

【コラム】ハリス副大統領指名ではなく公選を、バイデン大統領は「被告」として国際刑事裁判所へ

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
2024年 米独立記念日祝賀イベントでバイデン氏(左)とハリス氏(写真:ロイター/アフロ)

 この秋の米国大統領選での進退が注目されていた米国のバイデン大統領ですが、報道されているように、本日、大統領選からの撤退を表明しました。後継には、副大統領であるカマラ・ハリス氏を支持すると表明したとのことですが、ハリス氏は人気が無く、勢いに乗るトランプ氏に勝てるかは、かなり厳しいと言えます。米国の大統領に誰がなるかは、パレスチナ情勢やウクライナ情勢、そして日本を含めた全世界に影響するので、トランプ氏に勝てる候補を民主党が立てることは非常に重要です。また、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザでの虐殺への加担したバイデン大統領は、ホワイトハウスを去り、オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所に「被告」として行くべきです。

〇ハリス氏含めた新たな候補者選びを

 有色人種で女性の初の米国大統領―バイデン大統領が後継にハリス副大統領を指名したことは、夢のある話ではあるのですが、米国や世界全体のことを考えれば、民主党は公正かつ透明で、有権者の意志を反映した次期大統領候補選びを行うべきです。最新の世論調査だと、ハリス氏はトランプ氏と支持率で拮抗していますが、ややトランプ大統領が優勢というかたちです。今後、ハリス氏の支持率が上がる可能性もありますが、逆に落ちる可能性もあります。だからこそ、ハリス氏も含めた候補者選びを、公のかたちで行うべきでしょう。

〇トランプ氏が勝てば地球沸騰化がさらに進む!

 米国に誰がなるかは、世界の情勢や未来に大きく影響します。その一つが地球温暖化対策です。既に猛暑や干ばつ、水害等の異常気象が日本を含む世界各地を襲い、「これは地球温暖化ではなく、地球沸騰化」と国連のグテーレス事務総長が危機感をあらわにしたように、温暖化は近年、急速に進んでいます。

 それにもかかわらずトランプ氏が大統領になれば、電気自動車の推進をやめ、「掘って掘って掘りまくる」の発言のように温室効果ガス(GHG)排出源である石油や天然ガス、石炭等の化石燃料の採掘を大規模に行うとし、中国に次いで世界第2位のGHG大量排出国である米国の太陽光や風力等の再生可能エネルギーへの転換が遅れる可能性が高いです。また、そうした米国の姿勢が、もともと温暖化対策には後ろ向きな自公政権の姿勢にある種の「お墨付き」を与え、温暖化対策がさらに遅れる恐れも否めません。トランプ氏より温暖化対策に熱心な民主党の候補だ大統領になり、米国や日本含む先進国各国、そして中国やインド等の新興国の温暖化対策を牽引していくことが、全世界的な利益になると言えます。

〇ロシア勝利で「力の支配」に

 ウクライナ情勢では、トランプ氏はウクライナへの軍事支援に後ろ向きであり、これがロシアのさらなる増長を招く可能性は極めて高いと言えます。トランプ氏は「自分が大統領になれば24時間で戦争を終わらせる」と豪語していますが、その中身は全く無く、現実には不可能でしょう。

 またウクライナに大幅な譲歩を迫り、無理やり停戦させれば、ロシアの「力による現状変更」を認めることになり、それは国際社会が「法の支配」より「力の支配」の下にあるという状況を加速させ、世界情勢の不安定化がさらに進む恐れがありますし、それは日本の安全保障にとっても、他人事ではありません。トランプ氏が大統領となれば、日本においても防衛費はさらに増大し、改憲の動きも加速することは、ほぼ確実でしょう。

ロシア軍による攻撃を受けた集合住宅 消防士達が遺体回収作業を行っていた ウクライナ中北部ボロディアンカで筆者撮影
ロシア軍による攻撃を受けた集合住宅 消防士達が遺体回収作業を行っていた ウクライナ中北部ボロディアンカで筆者撮影

ロシア軍の攻撃で死亡した母親を埋葬する少年 ウクライナ中北部ブチャにて 筆者撮影
ロシア軍の攻撃で死亡した母親を埋葬する少年 ウクライナ中北部ブチャにて 筆者撮影

〇ガザ情勢も悪化

 パレスチナ情勢では、そもそもバイデン大統領が露骨にイスラエルを支持し、同国への兵器の支援を行ってきました。その後、米国内の若者達の抗議を受け、イスラエル支持の姿勢はトーンダウンしましたが、最近も、イスラエルへの500ポンド爆弾の移転を再開する等、結局は、イスラエルへの支持・支援は変わらないということを内外に示したかたちです。しかし、避難所となっている国連管理の学校に執拗に攻撃する等、イスラエル軍が行っていることは明確な国際人道法違反です。仮にイスラエルが主張するようにそこにハマスの戦闘員がいたとしても、大勢の民間人を巻き込むことがないよう配慮するのが、国際人道法に定められたことであり、イスラエルがそうした配慮をしていないことは、今年6月に国連人権理事会に提出された独立調査委員会による報告書も指摘していることです。こうした戦争犯罪をイスラエルが繰り返していることが明白な中で、同国への軍事支援を行っていること自体が、国際人道法違反だとの指摘もあります。つまり、バイデン大統領も国際人道法違反の法的責任を問われ得る立場にあるのです。「法の支配」という観点からは、バイデン大統領は訴追され国際刑事裁判所で裁きを受けるべきだと言えます。

 他方、仮にトランプ氏が大統領になれば、さらにガザ情勢は悪化することが避けられないでしょう。なぜなら、トランプ氏はバイデン大統領以上にイスラエル支持の立場であり、彼の強固な支持基盤であるキリスト教右派もイスラエル支持であるからです。イスラエルのネタニヤフ首相が口先では「停戦交渉をする」と言いながら、ずるずるとガザ攻撃を引き伸ばしているのも、「トランプ氏の大統領再選」を待っているからという面もあるのではないでしょうか。


〇全世界のための米国大統領候補を

 既に述べてきたように、トランプ氏が大統領になることでの、世界への悪影響はかなり大きいものとなると言えます。だからこそ、民主党及び米国の有権者には、より確実にトランプ氏に勝てる候補を選び、そしてその候補を次期米国大統領にしてもらいたいものです。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

志葉玲のジャーナリスト魂! 時事解説と現場ルポ

税込440円/月初月無料投稿頻度:月2、3回程度(不定期)

Yahoo!ニュース個人アクセスランキング上位常連、時に週刊誌も上回る発信力を誇るジャーナリスト志葉玲のわかりやすいニュース解説と、写真や動画を多用した現場ルポ。既存のマスメディアが取り上げない重要テーマも紹介。エスタブリッシュメント(支配者層)ではなく人々のための、公正な社会や平和、地球環境のための報道、権力や大企業に屈しない、たたかうジャーナリズムを発信していく。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

志葉玲の最近の記事