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「女性は敵、赤ん坊は敵、妊婦は敵」イスラエル側の”真意”とバイデンの偽善 #ガザ

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ラザリーニ国連パレスチナ難民救済事業機関事務局長のX(旧ツイッター)

 パレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエル。この間、一般市民が避難している国連管理の学校を攻撃、女性や子ども等の非戦闘員を殺傷することを繰り返しています。イスラエル側は「ハマスのメンバーを攻撃した」と主張しますが、果たして本当にそうなのでしょうか。実際にはハマスの戦闘員か否かは関係なく、一般市民を含めガザの住民を殺すこと自体が目的となっているのではないかと国連に報告された調査でも指摘されているのです。そして、イスラエル軍によるガザ市民への攻撃には、米国製の兵器が多用されていることも判明しており、米国も国際人道法違反が問われ得る状況となっています。

*本記事は「志葉玲ジャーナル-より良い世界のために」から転載したものです。

〇相次ぐ国連の学校への攻撃

 米国の大手テレビネットワークCNNによれば、今月10日にガザ南部ハンユニス近くで、14日にはガザ中部のヌセイラトで、一般市民の避難所となっている国連管理の学校が攻撃され、避難者が死傷したとのこと。また、上記のものを含め、直近の10日間で8つの国連管理の学校が攻撃されているとラザリーニ国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)事務局長はX(旧ツイッター)に投稿。

 UNRWAによれば、昨年10月から今月6月末まででガザにある国連関連の施設が190棟が破壊または損壊させられ、これらの施設に避難していた避難民が少なくとも520人殺害されたとのことです。ガザでの被害者全体では、今年5月、国連は「完全に身元が確認された」とする死者が2万4686人で、その内、子どもが7797人、女性が4959人、高齢者が1924人、男性が1万6人とし、まだ身元が確認されてない死者が1万人以上いるとして、この時点で3万5000人以上が殺されたと発表*。つまり、女性や子ども、高齢者は身元が判明している被害者全体の約6割であり、非戦闘員の割合が極めて大きいと言えます。加えて、男性もハマスの戦闘員でない人々も多く殺されていることから、犠牲者のほとんどは一般市民だと見るべきでしょう。

*ガザ保健省は、最新(今月15日)の発表で犠牲者数は「3万8664人」としている。

〇市民の犠牲、ハマスは理由にならない

 一般市民の犠牲者が多いことについて、イスラエル側は「ハマス等のガザの武装勢力が一般市民を『人間の盾』にしている」と主張し続けています。要するに、市民の中にまぎれ、市民を盾にするハマス等が悪いとの責任転嫁をしているのです。しかし、今年6月に国連人権理事会に提出された独立した専門家らの調査報告書は、イスラエル側が政府レベルでガザの一般市民を殺害する意図を明確に持ち、実際にガザの一般市民を攻撃していると指摘。戦争中であっても、意図的に非戦闘員である一般市民を攻撃したり、或いは一般市民を巻き添えにしない予防措置を怠ることは、国際人道法違反の戦争犯罪となります。上述の報告書は、イスラエル軍のガザ攻撃は重大な国際人道法違反だと指摘し、ネタニヤフ首相含むイスラエル政府関係者らは法的責任を問われるべきだと結論付けています。

〇「女性は敵、赤ん坊は敵、妊婦は敵」

 この報告書をまとめた独立調査委員会が着目したのは、イスラエル政府関係者らがガザ市民を攻撃対象とする言動を大っぴらにメディアやSNS上で繰り返していることです。その中で例をあげれば、イスラエル政府の軍事・安全保障政策に大きな影響を与えているシンクタンク「ミスガブ国家安全保障研究所」のエリヤフ・ヨシアン氏の発言は特に酷いと言えるでしょう。同氏は、イスラエルのテレビ局に取材に対し、「イスラエルはガザ地区を平らにし、できるだけ多くの人を殺し、誰一人容赦なく、特に女性を標的にすべき」「女性は敵、赤ん坊は敵、妊婦は敵だ」だと断言したのです。また、以前も取り上げたように、イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏も、旧約聖書からの引用で、老若男女問わず、ガザの人々を皆殺しにすべきだとの演説をしていますし、同様の主張をイスラエル軍兵士への手紙の中でしています。

〇米国が渡した爆弾で避難者を攻撃

 問題は、ガザ攻撃において戦争犯罪を繰り返しているイスラエル軍に対し、米国が軍事支援を行っていること、実際に米国産の兵器でガザの人々が殺されていることです。上述のCNNの報道によれば、避難所となっている国連管理の学校への攻撃で、ガザ南部ハンユニス、ガザ中部ヌセイラトのどちらの現場からも、米国製の爆弾、GBU-39のものと思われる破片が発見されたとのことです。ハンユニスの学校では、少なくとも27人が死亡、53人が負傷。ヌセイラトの学校では、少なくとも22人が死亡したと報じられています。GBU-39は爆撃用の米国製爆弾としては、比較的小型な250ポンド(=約113キログラム)の爆弾ですが、それでも人口密集地で使用すれば、巻き添え被害は避けられません。まして、一般市民が集中する避難場所への攻撃は論外です。

ロイター通信は、先月29日付の記事で、米国は昨年10月以降、イスラエルへ2000ポンド(約907キログラム)爆弾14000発、500ポンド(約227キログラム)爆弾65000発、ヘルファイアミサイル3000発、バンカーバスター(地中貫通爆弾)1000発、空中投下小径爆弾2600発、その他の弾薬を移送したと報じています。

 これらの兵器の中でも、2000ポンド爆弾は、爆発の中心から半径365メートルが致命傷を負う「致死範囲」、半径800メートルまでが重傷を負うという、大型で強力な爆弾であり、上述の独立調査委員会の報告書でも、これが人口密集地で使用されたために、大勢の一般市民が死傷したと指摘されているものです。CNNは衛星写真から、ガザ攻撃の最初の1カ月程の間に約500発もの2000ポンド爆弾がガザで使用されたと分析、「ベトナム戦争以来の大規模な空爆」と評しています

〇バイデンの偽善、爆弾提供を再開

 こうした兵器をイスラエルに渡したバイデン大統領自身も今年5月9日、CNNキャスターのエリン・バーネット氏のインタビューに対し、これらの爆弾が人口密集地で使用されていることが一般市民の被害を拡大させていることを認めています(関連記事)。バイデン政権はガザでの被害を懸念しているとして、今年5月以降、2000ポンド爆弾と500ポンド爆弾のイスラエルへの移送を停止しましたが、イスラエル政府や、バイデン再選を支援する大口献金者でもある実業家のハイム・サバン氏らイスラエル支持派から抗議されたこともあってか(関連情報)、500ポンド爆弾については今月10日、イスラエルへの移送を再開することを表明しています。

 上述の様に、今月に入って繰り返されているイスラエル軍による国連管理の学校への攻撃で、1回あたり数十人の避難民達を死傷させているのが、米国産の250ポンド爆弾。単純な重量で言えば、500ポンド爆弾の半分です。これまで米国がイスラエルへ渡した爆弾が民間人の被害拡大につながっていることを認識していながら、しかも、ここ最近もイスラエルが国連の学校への攻撃を繰り返している中で、さらに強力な爆弾を引き渡そうとするのならば、バイデン大統領の責任は極めて重いと言えます。

〇問われる法的責任

 それが戦争犯罪に使われることを認識していながら、イスラエルへ爆弾を渡すことは、それ自体が、法的責任が問われ得ることです。アムネスティ・インターナショナルのアニエス・カラマール事務局長は昨年12月時点で次のように、米国の責任を指摘しています。

「ガザにおける前例のない民間人の死亡者数と破壊の規模に直面して、米国および他の政府は、国際法違反を犯したりそのリスクを高めるために使用される可能性が高いイスラエルへの兵器の供給を直ちに中止しなければならない。故意に違反を幇助することは、国際人道法の尊重を確保する義務に反する。違反行為に使用される兵器を供給し続ける国家は、これらの違反への責任を問われる可能性がある

 これまで繰り返されてきた、そして現在も行われている戦争犯罪の数々に関して、もはや批難だけでは十分ではありません。イスラエル政府関係者やバイデン大統領自身への制裁や法的な責任の追及が行われるべきですし、そうした声がもっと大きくならなければ、ガザでの虐殺を止めることはできないのかも知れません。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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