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チェルシーGKケパは交代拒否、”罰金”2850万円は高いか?

小宮良之スポーツライター・小説家
リーグカップ決勝で交代を拒否し、物議を醸したチェルシーGKケパ(写真:ロイター/アフロ)

 サッカー選手は、ピッチでどう振る舞うべきか?

 例えば、ウルグアイ代表FWルイス・スアレスは思うようにプレーできず、ゴールへの意欲が思いあまって、相手ディフェンダーに噛みついてしまうことがある。これは反則で、あってはならない。批判の対象ともなるだろう。

 もっとも、現場ではそれほど重大事に受け止められない。それだけぎりぎりのところで戦っている。選手同士は、その認識があるのだ。

 問題視されるのは、行為にあざとさやエゴが含まれたときだろう。

 ブラジル代表のネイマールがスペイン国内で愛されなかったのは、審判を欺いてファウルを取るために大袈裟に倒れたり、自らの技を誇るために不必要に股抜きを仕掛け、挑発したからだった。

「あいつは卑怯なダイバーだ」

 選手たちの間で、そういう話が流れるようになった。相手を愚弄するようなプレー。それは一部のファンを除いて、挑戦的、スペクタクル、とは受け入れられない。

 トッププレーヤーは、紳士のように振る舞う必要があるのだ。

スペイン代表GKケパは交代を拒否

 プレミアリーグ、リーグカップ決勝。マンチェスター・シティ戦で、チェルシーのスペイン代表GK、ケパ・アリサバラガが取った行動が批判を浴びている。

 試合は0-0のまま、まもなくPK戦に突入というときだった。負傷した様子のケパが治療を受け、その間にベンチは動いた。イタリア人マウリツィオ・サッリ監督はセカンドGKウィリー・カバジェーロの投入を決断し、交代を命じている。終盤に二度目の治療だったし、カバジェーロが古巣との対戦で、アドバンテージを持っていた。ところが、ケパは交代に猛抗議し、拒否したのだ。

「ケガの状態は問題なく、プレーできるという主張だったのだが・・・」

 試合後にケパ本人は説明しているが、それは異様な光景だった。

 当然、サッリは強く交代を命じた。しかし、ケパは従わない。審判団は戸惑い、監督の隣で交代を待っていたカバジェーロは呆然とするしかなかった。

「サッリがケパをベンチに下げなかったことに、むしろ驚いた」

 元チェルシーのジョン・テリーが語ったように、引きずり下ろされても仕方ないような行為だった。

 結局、ケパはPK戦でサネの蹴った一本を止めたものの、試合は敗れている。

3000万円の“罰金”は高いか?

 後日、クラブはケパの週給22万5千ユーロ(約2850万円)を返納することを規律違反の罰とした。当然だろう。むしろ穏便な処置で、サッリが命令を曲げていなかったら、もっと大ごとになっていたはずだ。

「いかなる罰も受ける。とんでもない過ちを犯してしまった。ファンに謝りたい。この経験から学びたいと思う」

 ケパも冷静になったのか、殊勝に語っている。

<ピッチでの指揮官に対する犯行は、いかなるときも許されない>

 それはプロのサッカー界では不文律である。交代のとき、監督が差し出した手を無視するだけで問題視される。選手がベンチで怒りを爆発させ、監督に面と向かって罵詈雑言を吐いたような場合、ケダモノのように扱われる世界だ。

「ケパとはとことん話をした。すでにクラブにも、チームメイトにも謝罪している。誤解が生じ、間違った行動をしてしまったね」

 そう語ったサッリは、大人と言えるだろう。チェルシーでは過去の監督たち(ルイス・フェリペ・スコラーリ、ジョゼ・モウリーニョ、ビラス・ボアス、アントニオ・コンテ)が選手と反目し、チームを去っている。同じ轍を踏まなかったということか。

直後のトッテナム戦、ケパはベンチ

 もっとも、後味の悪さは残る。糺すべき規律もあるだろう。

「ケパが次の試合でプレーするか? プレーするのでも、ベンチに座るのでも、大事なのはその準備をしておくことだ」

 サッリは言っていたが、直後のプレミアリーグ第28節、トッテナム戦はGKにカバジェーロを先発起用。ケパはベンチだった。試合は勝利を収めている。

「我々は一つのグループ。25人の個人ではない。カバジェーロは準備ができているし、経験もある。ケパはチームに対し、自らが犯した過ちの対価を支払う必要があった。これはチーム全体へのメッセージにもなる。しかし、この件はこれで終わりだ。ケパは我々とともにある」

 指揮官として、”示し”をつける必要があった。マネジメントとしては成功だろう。結束は強まり、競争力も上がった。

 ただ、ケパは今後もしばらくは“執行猶予”扱いされる。二度としてはならない暴挙だろう。万が一でも繰り返した場合、その振る舞いは彼自身のキャリアを壊す。

小鳥をさえずらせる大会で優勝したケパ

 ケパはスペイン、バスク地方の小さな港、オンダロアで生まれ育っている。人口9千人弱、謹直さが尊ばれるような土地柄で、プロのGKを多く輩出。ケパ本人も、温厚で忍耐強い人物で知られる。練習態度も、実生活も実直。例えば、ヒワ(すずめ科の小鳥)を手なずけ、美しくさえずらせる大会で優勝したような経歴を持っている。

 一方、GKとしては常に危機感を持ち、向上心も人一倍強かった。名門アスレティック・ビルバオ育ちだが、トップチームでプレーする環境が与えられなかったとき、積極的に2部への期限付き移籍を志願。そこで活躍を遂げたことで、アスレティックでポジションをつかめるようになった。

 いわば、這い上がってきたGKと言える。不屈さを持っている。そのとき、自分を信じられるエゴは味方になったはずだが・・・。

 強すぎるエゴは、プロサッカーの世界では悪になる。

 それは教訓と言えるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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