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ポストコロナ時代のアトピー性皮膚炎患者のQOL回復に向けて

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【ポストコロナ時代のアトピー性皮膚炎患者のQOL回復】

長らく世界中で猛威を振るっていた新型コロナウイルスのパンデミックがようやく終息し、人々の生活は徐々に以前の姿を取り戻しつつあります。アトピー性皮膚炎患者にとっても、制限のある生活から解放されるこの時期は、QOL(生活の質)の回復に向けた重要な節目といえるでしょう。

パンデミック下では、感染への不安やストレス、医療アクセスの制限などにより、多くのアトピー性皮膚炎患者がQOLの低下を経験しました。ポーランドの研究グループの調査では、特に軽症および中等症の患者で、QOLの低下や不安・うつ症状の悪化が見られたそうです。

しかし、ポストコロナ時代を迎え、これらの問題も徐々に解消されていくことが期待されます。感染リスクの低下により、通院や対面診療がしやすくなり、治療の継続や適切なフォローアップが受けられるようになるでしょう。また、外出や人との交流が増えることで、ストレス軽減やメンタルヘルスの改善にもつながるかもしれません。

【ニューノーマルにおけるアトピー性皮膚炎治療の在り方】

一方で、パンデミックを経験したことで、医療提供の在り方自体も変化しつつあります。オンライン診療(テレメディスン)は感染リスクを避ける有効な手段として定着しつつあり、アフターコロナの時代にも一定の役割を果たし続けるでしょう。

日本でも、初診からのオンライン診療が特例的に認められるようになるなど、規制緩和が進んでいます。ただし、オンライン診療には課題も多く、対面診療の代替としては限界があります。ポストコロナ時代は、対面診療とオンライン診療のバランスをとりながら、患者さんに最適な医療を提供していくことが求められます。

【アトピー性皮膚炎患者のセルフケアとメンタルヘルス】

ポストコロナ時代を健やかに過ごすためには、患者さん自身によるセルフケアも欠かせません。手洗いや保湿など、パンデミック下で習慣づけたスキンケアを継続することは、症状管理に役立つでしょう。

また、長期にわたる自粛生活の影響で、ストレスやメンタルヘルスの問題を抱えている方も少なくないかもしれません。無理のない範囲で、外出や運動、人との交流を再開し、リラックスできる時間を作ることが大切です。

皮膚の状態やメンタルヘルスに不安を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。心身の健康をサポートしてくれる専門家に相談することで、ポストコロナ時代をより良い状態で過ごせるようになります。

新型コロナウイルスのパンデミックは終わりを迎えましたが、その影響は私たちの生活に色濃く残っています。医療者と患者さんが協力し合いながら、アトピー性皮膚炎患者のQOL回復と健やかな暮らしを実現していきたいと思います。

参考文献:

Sieniawska, J.; Lesiak, A.; Ciążyński, K.; Narbutt, J.; Ciążyńska, M. Impact of the COVID-19 Pandemic on Atopic Dermatitis Patients. Int. J. Environ. Res. Public Health 2022, 19, 1734.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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