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入山禁止の山で遭難した人への批判:コロナ感染拡大の中での怒りの心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(写真:アフロ)

■入山禁止の栃木の山で遭難 川崎の25歳、ヘリで救出

ゴールデンウイーク中には毎年のようにニュースになる、山での遭難事故ですが。

〜団体職員の男性(25)が遭難し、知人を通して日光消防署に救助を要請した。栃木県防災ヘリが出動し、約1時間半後に救出された。男性は足に軽い凍傷を負ったという。

〜新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で、先月25日に予定されていた開山が延期され、立ち入り禁止になっていた。〜

〜足を滑らせて靴が脱げ、靴がないまま1時間ほど残雪の中をさまよい歩いた〜

男性は反省の言葉を述べているという。

出典:入山禁止の栃木の山で遭難 川崎の25歳、ヘリで救出 5/3(日)朝日新聞Y!

今回は、ただの山岳遭難事故ではなく、コロナで自粛下での登山禁止の山での遭難でした。世間は怒っています。お怒りは当然です。

先日、4月25日長野で発生した山岳事故では、遭難者に新型コロナ感染の疑いがあり、救助者も自宅待機する事態となったばかりです。

山岳に関する4つの団体も、登山自粛の要請をしています。その中での遭難事故でした。

■ネット上の声

「コロナパニックで社会的負荷(特に医療現場への負荷)を一人一人が減らす努力をすべき時に、何と身勝手な事か。『モラル無し』と言われても仕方ない」。

「違反者には全額費用負担させるべき。滑って靴が脱げるなんて、登山靴を履いた時にはありえない」。

「数日間、鉄格子の中で反省する時間を」。

「こういう人が定期的に出てくるから登山家全体が叩かれる」。

「今回の人は反省するのは当然なんだけど、実費の負担はすべきだと思う」。

「この時期の2,000m超えの山に向かうにしては、山を舐めすぎ」。

「戒めの為にも氏名公表などの大きな制裁を科して欲しい」。

「同じ山に登るものとしてこの人にはもう二度と山に登った欲しく無いですね」。

「全く酌量の余地なし。禁止の事したのだから犯罪者扱いでいい」。

「ありとあらゆるルールを無視するようなやつは、救助する必要も無い」。

「非常事態宣言がでているのに、県境し、公共交通機関を利用し、入山禁止の山に入り、救助を要する。最低です」。

「本当の山好きは皆この時局に迷惑をかけまいと我慢している」。

コロナで外出自粛を破っている怒り。遭難で救助者に迷惑をかけ、費用がかさむ怒り。罰を受けていない怒り。

自然をなめている(と感じられる)怒り。自分は我慢しているのに、という怒り。そして、登山愛好家としての怒りがあるようです。

それぞれのお怒りは、ごもっともです。

■怒りとは/正義とは/怒りの活用法

怒りの感情は、「二次的感情」と言われています。

たとえば今回なら、「ルールは守れ」とか「みんな頑張っているのに」とか「一人だけずるい」とか「登山者全体が悪く言われるのではないか」といった思いが、怒りの感情を生みます。

怒りの感情は、強烈なエネルギーになります。

処罰感情も生まれます。人の感情として当然です。

ただ冷静に考えれば、違法行為でも、ルール違反、マナー違反でも、その程度に応じた制裁が加えられます。

外出自粛要請を無視し、登山禁止の山に登ったことは良くないことですが、刑務所に入れるようなことではないでしょう。救助しないこともありません。

誰かが窓から泥棒に入ろうとして、窓枠につかえて動けなくなったらどうでしょう。明らかに犯罪者ですが、救助をします。その人が怪我をしていたら治療します。それが、私たちの社会です。

ネット上のお怒りの中には、ご自身が山を愛するからこその怒りもありました。強い怒りのその背景に「悲しみ」を感じる投稿もありました。

テレビに登場する正義の味方は、悪を憎み、正義を愛し、弱者を守り、悪者に怒りの攻撃をします。しかし、正義の味方は敵を倒すと共に、悲しみも持っていると思います。

ウルトラマンもウルトラセブンも、怪獣を倒して人類を守りますが、でも悩みを抱えるストーリーもあります。怪獣や宇宙人はただそこにいるだけだけど人類の脅威になっていたり、実は人類登場の前から地球にいたりして、正義の味方も悩みます。

正義の味方を名乗っても、何の躊躇も悲しみもなくなると、それは危険なことにならないでしょうか。

数年前の山岳遭難事故で、救助に当たった県警職員が、救助された人を叱りつけるシーンが、テレビで放送されたことがあります。

山をかなり甘く見た遭難事故です。もう少しで死者が出るところでした。県警職員は、安全を確認し、その場で待機している時間帯に、説教、叱責をしました。

私には、その叱責説教は、官憲が偉そうに頭ごなしに市民を侮辱しているのではなく、山を愛し市民の安全を守る立場の人間が、深い悲しみと共に湧き上がった怒りの感情のほとばしりに感じられました。

あとで県警の関係者に聞いたのですが、テレビ放送後にも特にクレームは来なかったそうです。救助された人も、後日県警を訪問し、謝罪しました。

コロナ騒動の中で、みんな疲れたり、イライラしたりしています。大勢の人が我慢している中で、ルール違反者も後をたちません。今回の怒りも、多くは正当な怒りです。

そただの怒りの感情を、個人にだけ向けても仕方がありません。

怒りで人生を台無しにする人もいれば、怒りがエネルギーになり、大きなことを成し遂げる人もいます(怒りを良い方向に生かす方法:コロナ離婚、コロナ退職を防ぐアンガーマネジメントの心理学:Yahooニュース個人有料)。

コロナ禍での怒りのエネルギーを、社会の混乱ではなく、社会の一致と効果的な感染予防活動につなげたいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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