特殊な結晶を使い、光を1分間閉じ込めて停止させることに成功
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「光を1分間停止させることに成功?」というテーマで動画をお送りしていきます。
2013年7月、ドイツのダルムシュタット大学の研究チームは、物質中で光を1分間停止させるという記録を達成しました。
その研究では、3本の光の線のイメージを最大1分間、結晶の中に保存することに成功しました。
●光の透過、吸収、反射
真空中での光の速さは1秒間に約30万キロメートルで一定です。
しかし、物質中での光の速さは物質の種類により異なり、真空中より遅くなります。
なぜ、物質中の光は進むのが遅くなるのでしょうか?
物質は原子から成りたっています。
そして、原子は原子核と電子から構成されています。
原子核はプラスの電荷、電子はマイナスの電荷を持っています。
光は電磁波であり、物質中を通るときに電荷を持つ電子を振動させます。
物質中の光は電子と干渉しながら進むので、真空中より遅くなります。
光が物質中を透過するのはガラスなどの透明な物質の場合です。
光を通さない不透明な物質の場合、光は物質に吸収または反射されます。
光が物質に吸収される場合、光は物質中の電子に吸収されます。
光のエネルギーは電子がより高い軌道に移動するために使われます。
その後、電子はエネルギーを熱として放出して元の軌道に戻ります。
光が物質に反射される場合も光はいったん物質中の電子に吸収されエネルギーの高い軌道に移動します。
しかし吸収した光をすぐに再放出し、元の軌道に戻ります。
どの波長の光を吸収、反射、透過させるかは物質の種類によります。
例えば、銀(Ag)の場合、目に見える波長の光(可視光線)は全て反射します。
したがって金属光沢がありますが色は無色です。
金(Au)の場合、緑色より短い波長の光が金属中の電子に吸収され、それ以上の波長をもつ黄色光を中心に反射されるため、このような黄金色に見えます。
ダイヤモンドの結晶では、炭素原子が電子を共有し合うことによって強く結合しています。
この状態の電子を動かすには可視光線ではエネルギー不足です。
したがって、可視光線はダイヤモンドには吸収されずに結晶中を通過するため、透明に見えます。
光の吸収の場合は、光は物質中に吸収されて再び放出されることがありません。
光の停止時間は無限大です。
光の反射の場合は光は物質中で一瞬停止し、再び反対方向に同じ速度で進みます。
この時、光の停止時間はゼロであると見なせます。
●今回の実験のメカニズム
今回の研究の目標は物質中で光が停止している時間をゼロや無限大ではなく、有限な値にすることで、光を吸収した物質中にデータを一時保存し、その後そのデータを取り出すという行為を可能にすることです。
研究チームはある特殊な結晶を用いて実験しました。
その結晶は通常では不透明ですが、レーザー光線を当てると透明になるという性質をもっています。
実験の手順としては、次のようになります。
まず、結晶にレーザーを当てて透明にします。
透明になった結晶に捕獲対象の光を照射します。
最初のレーザーを消して結晶を不透明にします。
その結果、光は結晶の中に閉じ込められます。
結晶が不透明になっているので、光が外に出られず、結晶中で身動きもできない状態になっています。
結晶の中に閉じ込められた光のエネルギーは結晶の電子のスピンのエネルギーに変換されます。
スピンとはよく粒子の「自転」のようなものと例えられるパラメータです。
この時、元の光が持っていた情報(今回の実験では3本の横線)も、結晶中に保存されています。
そして再びレーザーを当てて結晶を透明にすると、電子の状態が元に戻り、元と同じ情報を持った光として結晶から再放出されます。
結晶から出てきた光から画像を復元すると、60秒間保存されていた光からでも3本の線が再現されました。
これにより結晶中に1分間も情報が保存できていたことが示されました。
また2021年には、中国科学技術大学の研究チームが光の情報を1時間以上保存することに成功したと発表しています。
この分野の研究の発展が伺えます。
●これらの研究はどのように役立つか
これらの研究成果によって、量子コンピュータのメモリの性能が大きく向上する可能性があります。
量子コンピュータは、物質やエネルギーの最小単位である「量子」の持つ性質を利用したコンピュータです。
現在の量子コンピュータには、事実上計算を行う「演算装置」しかなく、量子情報を記憶する装置が存在しません。
量子の情報は外部環境からのノイズにより壊れやすくなっています。
そのため量子状態を保存する量子メモリは現在のところ保存時間が短く、実用レベルに達していません。
光も光子と呼ばれる量子からできています。
光を1分間停止させる技術は量子メモリとしてそのまま応用できます。
さらに量子メモリの実現は、長距離量子ネットワークの創造につながります。
長距離量子ネットワークとは量子テレポーテーションを利用した量子コンピュータのネットワークのことです。
量子リピータと呼ばれるデータの中継を行う機器には数十秒以上の光の保存時間が必要になります。
量子メモリが実現すると、量子コンピュータのインターネットが誕生します。
量子ネットワークでは絶対盗聴できない通信の究極の安全性が保障されるといいます。
ということで今回は、将来の量子技術の確立にもつながる、光を使った興味深い実験とその成果について紹介しました。