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「舞いあがれ!」インサイダー取引で懲役3年 ヒロインの兄をそこまで追い込んだ理由

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「舞いあがれ!」より 写真提供:NHK

「横山裕さんが表現してくれたからこそ、ここまで深みのあるキャラになりました」

朝ドラこと連続テレビ小説「舞いあがれ!」第19週ではヒロイン・舞(福原遥)の兄で投資家の悠人(横山裕)がインサイダー取引で裁判になるという衝撃的な展開となった。朝ドラでは主人公の身内が悪さをしてもなんとなく見過ごされがちだったが、悠人は自分のしたことにきちっと向き合い責任をとる。ここまでして描きたかったこととはなにか、制作統括・熊野律時チーフプロデューサーに聞いた。

投資も立派な仕事です

――悠人が投資家になったときいつか損失を被るという予想はしましたがまさかインサイダー取引をしてしまうとは驚きでした。

熊野「視聴者の皆さんの多くは、リーマンショックで悠人が失敗するだろうと予想していましたが、そこはうまく切り抜けて、むしろ、岩倉家を助けました。悠人は岩倉家のなかでいち早く大きな成功を手に入れましたが、父・浩太(高橋克典)や家族との関係性を築くことではうまくいっていません。彼が一度立ち止まって、家族と向き合い、父の言っていたことを考える機会になる大きな失敗として、インサイダー取引を描きました。悠人は、投資の世界でまじめに努力を積み上げて来て、こんな失敗は絶対にしないと思っていたはずで、それがお客さんになんとか応えようとする真面目さゆえ、焦って間違った方向にハマってしまった。そこまでしてようやく自分がやってきたことや家族との関係を問い直すことになるのです。投資も立派な仕事ですし、悠人は正しいと思うことを懸命に行ってきて、でも失敗してしまった。何がいけなかったのか深く考えることで、ここから悠人は変わっていきます」

「舞いあがれ!」より 写真提供:NHK
「舞いあがれ!」より 写真提供:NHK

失敗したときにどういう決断するか

――失敗ということをどう捉えていますか。

熊野「『舞いあがれ!』では登場人物たちが失敗もすれば成功もして、それらが絡み合うようにしながら前に進んでいくことをいろいろな形で繰り返し描いてきました。元をたどると、祥子(高畑淳子)の『失敗は悪いことではない』という言葉からはじまっていますが、失敗したときにどういう決断するか、誰と関わっていくことで、立ち直れるか、そういうことを見極めることが大事なのだと思います」

――番組の企画は2年くらい前から立てるそうですが、そのとき、2023年、投資がこれだけ注目される時代になると予測していましたか

熊野「まさかそんなことになるとはわからないでやっていましたが(笑)、キャラを作るにあたり、“仲間と共にものづくりをすることを大切にする父親”と対称的な存在を考えたら、お金を第一と考える存在であろうと。そこで金融、投資の世界に身をおいている人物を考えました。主人公の舞は父親と対立しないで、むしろ夢を共有している分、兄が正反対の世界に向かうようにしようと。実際、町工場で働く方たちに取材したとき、父の仕事に反発してまったく違う世界に向かう方もいると聞きました。浩太(高橋克典)も悠人も、まじめに自分の目指す道に向かって努力をしていることには変わらないけれど、手段が違い過ぎて、互いに理解しあえない。でもやがて、父の言っていたことの本質に気づいていくことになると物語としては面白いと考えました」

――悠人役の横山裕さんの演技はいかがですか。

熊野「悠人を通して描きたいことを具体的かつ的確に表現してくれました。行き違いのなかに滲む、本当はわかりあいたいという思いです。悠人は表現することが難しいキャラで、ともすればややドライというかキツイ言い方になってしまうけれど、根底には家族への思いがちゃんとありますし、投資という仕事も彼なりの考え方でここまで真面目にやってきました。彼なりに苦しんでいるけれど表面に出せない切なさなど、ひじょうに繊細な部分を横山さんが表現してくれたからこそ、ここまで深みのあるキャラになりました」

連続テレビ小説「舞いあがれ!」

総合:月~土 午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00 ※土曜は1週間の振り返り

BSプレミアム・BS4K:月~金 7:30〜7:45

出演:

福原遥、横山裕、赤楚衛二、山下美月、長濱ねる、鈴木浩介、哀川翔/永作博美、高畑淳子

作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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