バルサが逃した「267億円の男」 フィーゴ・ショックを思い起こさせるネイマールの移籍と負の連鎖
バルセロナが、揺れ続けている。
現在、リーガエスパニョーラで暫定首位に立っているのはレアル・ソシエダで、2位にはアトレティコ・マドリーが位置している。この夏に補強を敢行しなかったレアル・マドリーが4位に、バルセロナは前節アトレティコに敗れて13位まで順位を落としている。
昨季のバイエルン・ミュンヘン戦の「2-8」に、リオネル・メッシの退団騒動、ジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長の辞任。次々に降りかかる問題に、バルセロナがクラブとして対応しきれていないのは明らかだ。
■クライシスの本質
「バルサの唯一の危機はスポーツ的側面にある」とはバイエルンに敗れた後のバルトメウ前会長の言葉だ。その危機は、会長のクビをもってしても、乗り越えられないところまで肥大してしまっている。
バルセロナのクライシスを語る上で、まず思い起こさなければならないのは2017年夏のネイマールの移籍だ。
バルセロナはネイマールの契約解除金を2億2200万ユーロ(約267億円)に設定していた。だが「200%残留する」という当時スポーツ部門の副会長ジョルディ・メストレの言葉も虚しく、契約解除金を準備したパリ・サンジェルマンがネイマールを攫(さら)っていった。
「ネイマール・ショック」の影響は計り知れなかった。バルセロナは彼の穴を埋めるためウスマン・デンベレ、フィリぺ・コウチーニョ、アントワーヌ・グリーズマンの獲得に3億4500万ユーロ(約414億円)を支払っている。パニック・バイ的に獲得してきた選手たちは、いまもなおメッシ中心のチームで確固たる居場所を見つけられずにいる。
また、バルトメウ政権では幾度となく監督とスポーツディレクターの交代が行われた。ルイス・エンリケ、エルネスト・バルベルデ、キケ・セティエン、ロナルド・クーマンが指揮を執った。アンドニ・スビサレッタ、ロベルト・フェルナンデス、ペップ・セグラ、エリック・アビダルが補強に携わった。
ジャン=クレール・トディボ、ジェイソン・ムリージョ、サミュエル・ウンティティ、ジェリー・ミナ、リュカ・ディーニェ、ジュニオール・フィリポ、アンドレ・ゴメス、アルトゥール・メロ、アルダ・トゥラン、マウコム、パコ・アルカセル、ネルソン・セメド、コウチーニョ、デンベレ、グリーズマン、フレンキー・デ・ヨング...。先述した指揮官とスポーツディレクターの要望で、クラブは1000億ユーロ(約1200億円)以上を補強に費やした。その中には、すでにバルセロニスタの記憶から消えてしまった選手さえいる。
■禁断の移籍の衝撃
ネイマールにメッシの後継者としての期待が懸けられていたのは確かだろう。そのネイマールの移籍で、バルセロナというクラブのストラクチャーが破壊されてしまったのかも知れない。
これと非常に似ているケースがある。「フィーゴ・ショック」だ。
ルイス・フィーゴは2000年夏にバルセロナからレアル・マドリーに移籍した。会長職に就いたフロレンティーノ・ペレスが、彼の獲得を求めていた。契約解除金1万ペセタ(約6100万ユーロ/約72億円)が支払われ、当時の史上最高額で「禁断の移籍」が成立した。
バルセロナはフィーゴが抜けた後、2000-01シーズン、01-02シーズン、02-03シーズンで無冠に終わっている。3年にわたり、タイトルから見放され続けた。2003年夏にジョアン・ラポルタが会長選で当選するまで、バルセロナは暗黒期の只中にいた。
フィーゴの移籍は、宿敵の存在を強大化するという意味で、ネイマールのそれより強烈だった。だがバルセロナが会長選をきっかけにフィーゴ・ショックから立ち直っていったのは、現状と重なるところがある。バルセロナは来年1月24日に会長選を行う予定で、ビクトル・フォント、ジョルディ・ファレ、トニ・フレイシャ、ルイス・フェルナンデス・アラ、ペレ・レイラ、アグスティ・ベネディトが立候補を表明している。
バルセロナはメッシが現行契約を2021年夏までとしている。次期会長のミッションは、メッシの残留、新監督の選定、魅力的なスポーツプロジェクトの提示だろう。ショックから抜け出して、再建できるかーー。バルセロナの忍耐と胆力が問われている。