ジダンとレアル・マドリーが逃した「大きな魚」は?レギロン、アクラフ、ジョレンテ...渦巻く複雑な感情
逃した魚は大きかったのかも知れない。
今夏、マルティン・ウーデゴール(前所属レアル・ソシエダ)、アルバロ・オドリオソラ(バイエルン・ミュンヘン)、アンドリュー・ルニン(オビエド)のレンタルバックを決めたレアル・マドリーだが、補強を敢行しなかった。
昨年の夏には、ロドリゴ・ゴエス、エデル・ミリトン、ルカ・ヨヴィッチと若い選手を獲得した。しかし、この夏のマドリーは補強ゼロ。それはおよそ40年ぶりの出来事だった。
一方、フロレンティーノ・ペレス会長は売却に専心した。新型コロナウィルスの影響による財政圧迫と、2022年の完成を目指す新サンティアゴ・ベルナベウのための「貯金」が主な目的だった。
事情が事情だ。仕方ない側面はある。だがペレス会長はカンテラーノを次々に売却した。
売却候補の筆頭はアクラフ・ハキミとセルヒオ・レギロンだった。マドリーはアクラフを移籍金4000万ユーロ(約48億円)でインテルに売却。ボルシア・ドルトムントにレンタル加入していた2シーズンで、アクラフは12得点17アシスト(出場時間6000分)を記録した。【3-5-2】のウィングバックを求めていたアントニオ・コンテ監督が、インテルで彼を欲しがったのは当然だろう。
レギロンは移籍金3000万ユーロ(約36億円)でトッテナムへの移籍が決まった。マドリー側には4000万ユーロ(約48億円)の買い戻しオプションが付けられている。「ジダンとは話さなかった。クラブと話し合い、それをベースに決断が下された」とレギロンが語るように、レギロンとジネディーヌ・ジダン監督の関係は決して良好ではなかった。
何の因果か、今季のマドリーはサイドバック不足に苦しんでいる。ダニ・カルバハルが負傷で長期離脱を強いられた後、代役のナチョ・フェルナンデス、オドリオソラが次々に負傷した。右ウィングが本職のルーカス・バスケスが右サイドバックに据えられた。これはマドリーとジダン監督の想定外だったに違いない。
■選手の放出
サイドバックだけではない。
中盤に関しては、オスカル・ロドリゲスを移籍金1350万ユーロ(約16億円)でセビージャに売却した。また、昨年夏には、マルコス・ジョレンテを移籍金3000万ユーロ(約36億円)でアトレティコ・マドリーに放出している。彼らはルイス・エンリケ監督の下、スペイン代表デビューを飾った。
マドリーはセルヒオ・ラモス(34歳)、カリム・ベンゼマ(32歳)、トニ・クロース(30歳)、マルセロ(32歳)、ルカ・モドリッチ(35歳)と主力の高齢化が進んでいる。2020-21シーズンはコロナ禍で過密日程が避けられない。現在の不安定な戦いぶりとそれは無関係ではないだろう。
一方、FIFAの教育研究機関でサッカー関連調査機関の『CIES Football Observatory』によれば、マドリーは最もカンテラーノを5大リーグに輩出しているクラブだという。マドリー(43選手)、バルセロナ(32選手)、リヨン(31選手)がランキングの上位を占めている。
ラ・ファブリカ(マドリーのカンテラの愛称)は廃れていない。そもそも、マドリーは選手の価値を高め、売れるタイミングで売るクラブである。ただ、逃した魚が「大きかった」と感じるのは、後々、その選手が成長する時だ。ゆえに、マドリー出身の選手の活躍は、ペレスとマドリディスタに複雑な感情を抱かせるものなのである。