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結婚の「年収300万円の壁」とは

島澤諭関東学院大学経済学部教授
(写真:イメージマート)

日本の場合、良し悪しは別として、婚姻が出生の前提となっている現実があります。これは厚生労働省「人口動態調査」により嫡出子の割合が2021年時点で97.7%あることからも確認できます。

つまり、子どもを増やしたければ結婚する若者を増やさないといけないのですが、残念ながら岸田内閣の「異次元の少子化対策」には、直接婚姻増につながる施策はありません。

男性の年収と有配偶率は総じてみれば比例しています(図1)。

図1 男性の個人年収と有配偶率の関係((出所)独立行政法人労働政策研究・研修機構「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状③―平成29年版「就業構造基本調査」より―」より筆者作成)
図1 男性の個人年収と有配偶率の関係((出所)独立行政法人労働政策研究・研修機構「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状③―平成29年版「就業構造基本調査」より―」より筆者作成)

婚姻を増やし、出生を増やすには、年収を上げるのが遠回りのようで近道なわけです。では、年収がいくらあれば、人々は結婚に踏み切るのでしょうか?

独立行政法人労働政策研究・研修機構「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状③―平成29年版「就業構造基本調査」より―」によれば、年齢別の平均有配偶率は、15~19歳では1.2%、20~24歳では5.8%、25~29歳では24.5%、30~34歳では49.6%、35~39歳では61.6%、40~44歳では65.3%、45~49歳では67.4%となっています。

下表によれば、年齢別の平均有配偶率を大きく上回る年収は、15~19歳、35~39歳、40~44歳、45~49歳では400万円台、20~24歳、25~29歳、30~34歳では300万円台となっています。

表1 男性の個人年収と有配偶率の関係((出所)独立行政法人労働政策研究・研修機構「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状③―平成29年版「就業構造基本調査」より―」より筆者作成)
表1 男性の個人年収と有配偶率の関係((出所)独立行政法人労働政策研究・研修機構「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状③―平成29年版「就業構造基本調査」より―」より筆者作成)

厚生労働省「人口動態調査」によれば、男性の初婚年齢は平均31.2歳、中央値28歳であること、出生数の84.9%が25~39歳までに集中し、父母が結婚生活に入ってから第一子出生までの平均期間が2.45年であることを勘案すると、出生の主力となる20~24歳、25~29歳、30~34歳世代で、年収300万円が「結婚の壁」となっていることが分かります。

同年代で年収が300万円に届かないのは、その多くは非正規雇用であり、厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」によれば、男性(産業計、学歴計)で20~24歳253.5万円、25~29歳280.8万円、30~34歳293.3万円となっています(なお、35~39歳でも293.1万円である)。

要するに、日本の少子化問題とは非正規雇用の問題であるともいえるでしょう。

現代の「身分制」とも指摘される正規・非正規雇用の在り方を見直すことなく、実質的な社会保険料の引き上げで「異次元の少子化対策」の財源を賄い、給付を施したとしても、結婚適齢期世代(20~24歳、25~29歳、30~34歳)には「独身税」として機能することになるのは確実で、少子化の改善にはつながらないのではないでしょうか?

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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