魚をあげるのではなく、釣り方を教える。ではなく一緒に釣って、料理して、食べる。
設立3年未満くらいのベンチャーNPO経営者の方々から、時折、ご相談を受けることがあります。僕がNPO設立した2000年前半とは環境が劇的に変わり、NPOなどで起業しようとした場合のサポートも存在します。
志を同じくする仲間と切磋琢磨しながら、また、経験者の助言を受けながらビジョンやミッションを洗練させたり、ビジネスモデルを構築したり。さらには、マーケティングやファンドレイズ、システムの設計、広報媒体制作など、それぞれの課題に特化した機会の提供などもあります。
昔より恵まれているといったことは思いませんが(必要に応じて僕もお力をお借りしているので)これだけたくさんの方々が応援してくれるのは、間違いなくよい環境です。それぞれの専門性やNPOサポートの経験を蓄積した機会が提供されるなかで、なぜわざわざ僕のところにご相談に来られるのかなと、ふと思ったので振り返ってみると、多様な悩みのなかでもかなり短期的な資金調達(明日のご飯)や人材採用(明日の仲間)が多いように感じます。
昨今は、企業のCSRや個人(プロボノなど)が率先して協力をしてくださいます。大変助かっています。そんなNPOを応援する側のひとの話でとてもよくでてくるのが「魚をあげる(与える)のではなく、釣り方を教える」論です。
論なのかはよくわかりませんが、よく耳にします。一生涯応援し続けるわけにもいかないので、自分で魚を釣れるように、つまり持続的な活動ができるように方法論なり、ノウハウなりを付与したいというものです。大変重要であり、ありがたいものであり、納得できるものです。
一方、ご相談に来られる(設立からという意味で)若き経営者はとてもお腹が空いていて、今日明日、一ヶ月、半年、一年くらいのご飯の見通しが立っていません。魚の釣り方を覚えて、というのはケースによっては数日や数ヶ月ですが、中長期的な展望から入っていくことも少なくないと思います。
設立まもなく、まだ資金も潤沢どころか回ってない状況、つまり、とてもお腹が空いている状態で、釣り方を覚える重要性を理解しつつ協力者と共に成長していくのは、意欲がありながらも空腹と戦う消耗戦です。むしろ、魚の釣り方を教えてくれることのありがたみを感じます。
彼ら/彼女らがもう一方で求めているのが、海に向かい、魚を釣って、さばいて、焼いて、お酒でも飲みながら、お腹が満たされて余裕が出てきたところで未来を語る仲間なのではないかと思います。しかし、彼らは「一緒に魚を釣ってよ」ましてや「いまだけでいいので魚をいただけませんか?」とは言いません。言えません。
それは魚の釣り方を教えていただけることの重要性を理解しているからであり、嫌われたり、がっかりされるのが怖いからです(ときに怖くないタイプもいるかもしれませんが)。例えば、自らの専門性を活かして、または、これまでの経験を活かしつつ、専門ではなくても一緒に突破していく気持ちで
「俺、助成金10本書いてみるわ。採用されるかわからないけどとにかく書いてみるよ」
「人材採用について、思い当たる友達に直接話をしてみるよ。 よければココに連れて来るからあってみてよ。採用可否は任せるよ」
「とりあえず、親友にこのNPOの会員になってもらったよ。俺の顔に免じて(笑)」
「このプロジェクトはぜひやろう。クラウドファンディングで資金調達してみるので、一緒に申請しよう」
「イベントの集客、とにかく知り合い10人連れていくね」
「経理関係に必要な領収書や請求書、Excelに入力しとく」
といった言葉をかけたら、おそらく泣いてしまう経営者はたくさんいます。仕組みやデザイン、幅広く情報訴求するためのプレスリリース、効果的な資金調達と運用などなど、きっちりしていかなければならない項目はたくさんあると思います。というか、ほとんどすべてかもしれません。
それでもなお、そこはそこで応援しながら、目の前で必要なリソース集めや実務について、限られた時間であっても傍でともに汗を流してくれるひと。心の奥底では求めているのではないでしょうか。言いたいけど、言えないかもしれない。
ここで応援者/協力者から「俺が(も)やるから頑張ろう」の一声、一助を提供できる人材もまた大変、大変貴重です。まだまだ本業を持ちながら、個人で、また所属企業を動かしてNPOに協力しようとされる方は多くないかもしれません。それでも、NPOを経営していると、たくさんの志あるひとたちに出会います。そのような出会いがより大きな力になるために、いま一歩踏み込んだ行動が求められています。