公務員の定年延長に欠けている議論
人事院勧告を受け、政府が公務員の賃金を60歳時点で一律7割に引き下げた上で、定年を65歳に延長するとの方針を固めたと報じられています。
また、その動きに対して自民党の行政改革推進本部からは、一律の引き下げについては再検討を促す声も上がっているようです。
なぜ定年延長に際して賃金が下げられねばならないのか。そもそも「一律で7割に引き下げ」という水準は高いのか安いのか。そして自民党内の一部は何に対して反対しているのか。いい機会なのでまとめておきましょう。
終身雇用なので“定年”という人為的ゴールが必要
日本は終身雇用制度という仕組みが存在し、一度正社員として雇ってしまうとよほどのことが無い限り会社は従業員を解雇できません。そのため「ある年齢に達したらもう雇わなくてもよいですよ」というゴールが必要となります。それが定年制度というわけです。
一方、年金支給開始年齢の引き上げに伴い、現在では企業は60歳以降の従業員に対し、
・定年制度を廃止
・65歳まで定年を延長
・65歳までの継続雇用制度導入
のいずれかを選択し、65歳までの雇用をあてがうことが義務付けられています。
とはいえ、単純に今払っている給料をあと5年間払い続けるというわけにはいきません。日本企業の多くは年功給であり、50代は実際の働きぶり以上に受け取れるボーナスステージであるためです。その一方的な延長は企業に重い負担となってしまいます。
そこで、多くの企業では60歳の時点で年功給を廃し、実際の労働に見合った賃金水準に見直すことになります。これが、定年後の再雇用で60代の賃金水準が大きく下がる理由です。
民間企業では、再雇用に伴い従来の5割程度に賃金が引き下げられるケースが一般的です。そういう意味では「一律の7割引き下げ+定年延長」という公務員の改正案はかなりの好条件と言えるでしょう。
一律の引き下げ自体が同一労働同一賃金に矛盾する
では、自民党内から上がっている反対論は、その破格の条件に対してのものなのでしょうか。実は行政改革推進本部が再検討を求めているのは、そもそも一律での賃金見直しは、政府が成長戦略の柱として掲げる同一労働同一賃金の理念と矛盾したものだから、という理由からです。
「○歳で一律○割下げる」というのは年齢で処遇を決める年功序列的発想そのものです。それに対して「出来る仕事内容に応じて個別に処遇を判断する」というのは、職務内容で処遇を決める同一労働同一賃金の考えに基づくものです。
特に60代ともなると、スキルや職歴の個人差が大きく、とても一律の処遇基準はあてはまりません。それまでの賃金を100%保証される人もいれば、3割程度に見直されるのが妥当という人もいるでしょう。
いたずらに大盤振る舞いをしてみせるよりも、「同一労働同一賃金とはこういうものですよ」という風に民間に手本を示すことこそ、公務員の人事制度改革に求められるミッションではないでしょうか。