阪神タイガース「TORACO DAY」はチーム一のイケメン・熊谷敬宥の決勝打で劇的なサヨナラ勝ち
■TORACO DAYにピッタリの二人
鮮やかなサヨナラ劇だった。
延長十一回裏、2死二、三塁から試合を決めたのは、チーム一のイケメンと評判の熊谷敬宥選手だった。八回に糸原健斗選手の代走で出場し、この日の2打席目。代わったばかりの中日ドラゴンズ・山本拓実投手の150キロをみごとに右中間に弾き返した。
試合後の矢野燿大監督が「今日はTORACO DAYで、一番顔のいい敬宥が決めてくれたというのは、ファンのみなさんも喜んでくれると思います」とコメントしたように、まさにうってつけのヒーローが、サヨナラ勝利でTORACO DAYを飾ってくれた。
さらに一緒にお立ち台に上がった同点打(八回)の中野拓夢選手も、女性ファンから「かわいい」と非常に人気が高い。まるで脚本が書かれていたかのようなこの二人のヒーローに、ネットでも「最高やな」「TORACOにはたまらん」「TORACO DAYにピッタリの二人」「TORACO大歓喜メンバー」と大いに沸いていた。
■9年目を迎えたTORACO DAY
TORACO―。それは元気でかわいくオシャレも応援も楽しむ、阪神タイガースの女性ファンの名称だ。
タイガースの女性向けイベントであるTORACO DAYは今年で9年目。一昨年はコロナ禍でユニフォームを配布しただけにとどまり、昨年はトラひげマスクを配ったり自宅からリモートで参加できるメニューを作ったりなど、コロナ禍でもできることを最大限に取り入れて行った。
そして入場制限が撤廃された今年、ようやく本来の形に近いイベントを開催することができた。
初年度からTORACOチームの中心となって活躍してきた内町有里さんと、今年から加わった上村菜穂子さんに今年のTORACO DAYについて聞いた。
■実は2020年にすでに作られていたTORACOダンス
今年の目玉は、なんといっても「TORACOダンス」だろう。タイガースの球団歌である「六甲おろし」をアップテンポにアレンジしたRemixバージョンに乗って踊るのだが、6月20日に選手が踊った動画が球団SNSに投稿されるや、爆発的にバズッた。すると我も我もと、「TORACO」や「TORACOダンス」のハッシュタグを付けたダンス動画が続々とSNS上にアップされた。
球界では北海道日本ハムファイターズの「きつねダンス」が話題になっている。しかし、実はこの「TORACOダンス」は2020年にすでに制作されていたものだったと、内町さんは明かす。
「若い世代にちょっとでも興味をもってもらえたらと動き出したんですが、一昨年は動画の撮影も済んで、あとはリリースするだけというところまで完成していたんです」。
しかし「出すタイミングのときに自粛が始まったりもあって…」とコロナに邪魔をされ、お蔵入りになっていたのだ。ということは、タイガースはいち早くダンスに着目し、取り入れていたということだ。決して後追いではなく、むしろ先陣を切っていたのだ。
しかし内町さんは「きつねダンスの相乗効果で注目されたというのもあると思いますよ」と謙虚に語る。
■選手が踊るTORACOダンス
選手によるダンス動画は見応えがある。糸井嘉男選手から始まり、西勇輝投手や佐藤輝明選手ら総勢26選手がリレーしていく形式のものだが、それぞれの選手のカラーが出ていておもしろい。
実際に撮影、編集を行った上村さんは、なかなか苦心したようだ。まず選手にTORACO DAYやTORACOダンスの意図を説明し、納得した上で踊ってもらったという。
「選手のみなさんも理解して、『TORACOのためだったら』と快く踊ってくれました。かなり恥ずかしがっていましたけど(笑)でも、ほぼ一発OKだったんですよ」。
ただ、振り付けを教えるのはなかなか至難だったと思うが、そこは上村さんが「わたしもめちゃくちゃ恥ずかしかった」と、自身が歌いながら踊って見せ、それを選手に真似てもらった。
「選手のキャラクターや性格によってさまざまで、照れている選手もいればノリノリの選手もいるっていうので、そこはすごくよかったかなと思っています」。
たしかに個性が表れていて、見ていて飽きない。表情などアレンジを加えている小野寺暖選手のような、なかなかのエンターテイナーもいる。
「TORACO!」「TORACO!」と繰り返されるコールも“中毒性”があって、一度聴くと頭の中から離れないのがいい。
本当に楽しい動画だが、ただ撮影や投稿のタイミングは考慮したそうだ。チーム状態のいいときにと空気を読みながら進めたという。勝負の世界に生きる選手たちの邪魔になっては元も子もない。そういう配慮には、とくに心を砕いた。
その甲斐あってTORACOダンスは選手にも大好評で、当日、バックスクリーンのビジョンに流れたときは、選手もベンチから見入っていた。
選手にとってもTORACO DAYは当たり前の、あるべきイベントになってきている。
■TORACOシートの復活
もう一つ、内町さんが喜ぶのは「TORACOシート」の復活だ。一塁側アルプス席に特典付きの専用シートを設けるのだが、今年は800席がすぐに完売したという。
「3年ぶりだし、まだコロナ下で、どれだけ需要があるか正直わからなかったので気持ち少なめに販売したら、心配することなく10日で完売しました。お待ちくださっていたんだと思いましたね」。
今年の特典は「TORACO巾着」で、TORACO柄に選手の名前と背番号が入っている。開けた瞬間、「かわいい~」と声が上がった逸品だ。
たしかにTORACOシートを待ち望む声は、昨年も多く聞いた。今年は「復活して嬉しい」「特典のグッズがいつもかわいくて、全部持ってます」など、TORACOたちも声を弾ませていた。
■恒例の“道連れ作戦”
さらに毎年好評のものは継続されている。ファンクラブ会員の女性が女性(非会員も含む)を誘ってくると、どちらにもプレゼントがもらえるという、いわゆる“道連れ作戦”だが、これをきっかけに実際ファンクラブに入会したという女性は多い。
今年のプレゼントが、これまた秀逸だ。TORACO柄に選手の顔写真が入ったバッグなのだがレジャークッションにもなり、応援ボードとしての役割もある。これまでもタオルやランチョンマットなどあったが、いずれも掲げて応援に使えるというのがポイントだ。
今年のバッグ&レジャークッションも「めちゃくちゃいい!」「こういうバッグってなかなかない」とTORACOたちも大喜びだった。
■マストの「ちゅきちゅきポーズ」
フォトパネルブースも人気コーナーの一つだが、今年は選手のポーズに注目が集まっていた。この「ちゅきちゅきポーズ」は上村さんが「絶対に選手にしてほしかった。SNSで若い子に流行っているポーズを勉強したんです」と探し出したものだ。
指を閉じたピースを頬に食い込ませるポーズだが、おそらく梅野隆太郎選手、糸原健斗選手、大山悠輔選手、中野拓夢選手たちは初めてしたポーズに違いない。
案の定、「すっごくかわいい」「選手がこういうポーズしてくれるの、めっちゃ嬉しい」という声が多く、その反響に上村さんも白い歯をこぼした。
■今年のTORACOユニはギンガムチェック
そして近年のTORACO DAYといえば、なんといってもオリジナルユニフォームだ。今年も3候補の中から投票で選ばれたが、黄色のギンガムチェックにピンクのボタンが差し色として効いている。
ファンだけでなくTigers Girls、球場やイベント、売店のスタッフもTORACOは全員、このユニフォームを着た。晴れ上がった青空に黄色が映えて、スタンドを見渡すととても鮮やかだった。
2019年から全員プレゼントとして配布するようになったが毎年大好評で、「これが欲しくてTORACO DAYは欠かさず来ている」という女性も大勢いた。中には「フォトブースの選手の写真も、TORACOユニを着てほしい」と要望する人もいた。それもちょっと見てみたい気はする。
■球場外周ステージも復活
今年は球場外周のステージも復活し、Tigers GirlsとともにTORACOダンスを踊って盛り上げたのは、「なこなこチャンネル」のなこなこカップルさんだ。登録者数137万人を誇るカップルYouTuberの二人は兵庫県出身で、大のタイガースファンでもある。ファーストピッチセレモニーをはじめ、グラウンドのイベントにも登場し、TORACO DAYを大いに盛り上げていた。
ゲストを招いたのも久々のことで、一気に華やいだ。
また、instagramのフォロワー数が6ケタという川口葵さんと高梨優佳さんもSNSでTORACOダンスの動画を事前に公開し、花を添えていた。
■TORACOによるヒーローインタビュー
今年は試合後にTORACOによるヒーローインタビューも行われた。「選手の間で流行っていることは何か?」という質問に、中野選手は「打ったときの塁上でのうなぎポーズ」と答え、「暑さに負けない秘訣」を訊かれた熊谷選手は、「めちゃくちゃクーラーに当たること」と悪い顔で答えて、爆笑を起こした。ただ、隣の中野選手からはオフマイクで「あかん。それ、一番あかんやろ」とツッコまれていたが…。
初のヒーローインタビューを終えたTORACOもそのお母さんも「すごく喜んで帰られた」と、上村さんも嬉しそうに見送っていた。
■9年間の実績
内町さんたちが積み重ねてきた9年だった。
「TORACO DAYにはチケットの完売力がある。ほかの日程と比べても売れているんです。本当に顕著に、ほかの普通の日曜日や別のグッズプレゼントデーと比較しても売れているので、TORACO DAYだから買ってるんだな、認知されているのかなっていうのが、数字でも見えるようにはなってきています」。
8月23日には京セラドーム(対横浜DeNAベイスターズ戦)でも開催されるが、同12日~14日のお盆期間に次いで売れゆき好調だという。
女性ファンに聞いても「毎年楽しみ」「TORACOグッズがかわいい」「初めて来たけど、めちゃくちゃ楽しくて、これからはTORACO DAYには必ず来る」とすっかり浸透し、TORACOたちにとって応援の一部になっているのがわかる。
■10年目へ向かう
来年、TORACO DAYは10年目の節目を迎える。初年度の2014年に生まれた子どもは、もう野球を始める年齢になっている。ずっと携わり育ててきた内町さんも、TORACO DAYの成長に感慨深げだ。
「高校生だったTORACOも30歳手前になっていますよね。この9年でどんどん広がってきていると思う。若い世代たちの子どもたちが大人になったときにも楽しんでもらえるようなイベントを、今後も続けていけるようにしたいですね。ファンクラブ会員さんもお母さんが娘さんを連れてきたり、その逆もある。これからもたくさんの女性の方に来てもらいたいし、また、お友だちや家族の方も連れてきてもらえたら嬉しい」。
SNSでも「TORACO関連のハッシュタグを付けた投稿が格段に増えた。最初のころは検索してもなかなか見つからなかったけど」と、どんどん変化してきたことに充実感を漂わせる。
■初めて球場に足を運ぶきっかけに…
初めて関わった上村さんは「めちゃくちゃ楽しかった」と振り返り、「来年の10周年に大きな波に乗れるように、また企画していきたいなと思っています」と笑顔を見せた。
「なかなか来るきっかけのない人に来てもらうためのイベントという位置づけでは、すごくいいイベントだなと思う。わたしたちにとっても、自分たちの企画したことに対してファンの方からの反応が直にあるのって久しぶりでもあるので、すごく嬉しかった」。
球場でたくさんのTORACOの笑顔を見ることができ、SNSでも「検索ばっかりします(笑)。見つけたら嬉しくて」と、その反応を実感した。
「今後もこれまでのように、初めて来たいという人たちも買えるような状況にしたいので、それを考えて日程も組みます。初めて来て、そこからハマッてくれることが一番なので」(内町さん)と、どんどん新規ファン拡大に腐心していく。
10年目となる来年のTORACO DAYが早くも楽しみだが、8月23日の京セラドームのTORACO DAYもお忘れなく。
(撮影はすべて筆者)