王者対決は延長で浦和学院に軍配~龍谷大平安vs浦和学院
「強豪と当たったら駆け引きで上回らないといけないんですが、上回れませんでした」。龍谷大平安(京都)の原田英彦監督(54)は、声を絞り出した。両校看板の守備陣が美技を連発し、わずかの隙も見せない大熱戦となった。
鉄壁の守りが火花散らす
主戦左腕2枚に堅守。直近の優勝校で、センバツ前は沖縄で調整と、この両校は共通点が多い。試合も立ち上がりから全くの互角で、好機では、お互いの鍛え抜かれた守備力がエースを盛り立てる。ここまで期待外れの試合が多かっただけに、ファンの視線は釘付けとなった。とりわけ6回の両軍の美技は、「さすが」と唸るほかなかった。6回の浦和学院(埼玉)は、2死3塁から7番・荒木裕也(3年)の打球は三遊間へ。三塁が抜かれたが、追いついた平安遊撃の城ヶ原和宜(3年)がバックハンドで止め、得点を許さない。その裏は、平安の好機を浦学の守備陣がつぶす。1死3塁で平安エースの高橋奎ニ(3年)の緩いゴロを三塁手の諏訪賢吉(2年)が本塁へ正確な送球。生還を阻止した。
浦学・江口は尻上がりに
試合は高橋と浦学の江口奨理(3年)の投手戦となった。先攻の浦学が終盤はやや押し気味ではあったが、回が詰まるごとに後攻の平安が精神的には優位に立てる。
江口は、「ピンチでよく守ってくれた。絶対、ゼロで抑える」と、7回以降は安打すら許さなかった。9回裏も、2三振と投ゴロで平安打線を圧倒すると、スコアレスの延長に突入した。
浦学 森監督が仕掛ける
「9回に江口がすばらしいピッチングをしてくれて、勇気をもらった」という浦学の森士監督(50)は、延長で最初の好機となった11回2死2塁の場面で思い切った手を打つ。打者の荒木が追い込まれてから、2度にわたって二塁走者の山崎滉太(3年)をスタートさせた。森監督は、「右打者にインコース勝負が多かったんで走らせた。そうすればサードがベースに寄るから三遊間が空く。盗塁になっても、捕手が慌てるかもしれない」と勝負手の意図を明かした。2度目のスタートで荒木が振り切ると、打球は三塁手のすぐ横を抜けた。平安はここで左翼手がもたつき、次打者にも打たれて決定的な2点が入った。「延長に入って、もう少し積極的にいってもいいかな、何か仕掛けたいと思っていた」と話す森監督を思い切らせたのは、他でもない、選手たちだった。「逞しくなったし、感動した試合だった」と余韻に浸った。
平安はこれで「変われる」か
惜敗した平安の原田監督も、決して悲観はしていない。「打てなかった(3安打)のは予想通り。でも守りは予想以上だった」と選手の頑張りを褒めた。
大会前から優勝した前チームと比較され、自身も「組織がなっていない」と物足りなさを口にしていた。「甲子園入りしてからも寝坊する選手がいたり、役割も責任感もあったもんじゃない」と手厳しかったが、「この試合をきっかけにしてくれれば」と前を向いた。11回を投げきった高橋も、「(打たれた球は)コントロールがまだまだ甘いし、自分の投球をもっと磨いて夏に帰ってきたい」とキッパリ。春の連覇は初戦で消えたが、指揮官は、「これが(チームが)変わるきっかけになれば」。苦い敗戦は必ず良薬になるはずだ。
敦賀気比と仙台育英はエースが完封競演
3日目は優勝を争うチームが相次いで登場した。
第1試合では、昨夏4強の敦賀気比(福井)が、初出場の奈良大付を完封で下した。主戦の平沼翔太(3年)は、被安打1の10奪三振。ジャスト100球の無四球で付け入る隙を与えなかった。打線は、奈良大付の坂口大誠(3年)から3点しか奪えなかったが、内容的には全く危なげない完勝。平沼は、「ずっと調子が上がってこなかったが、監督から『肩を無理やり上げすぎている。自分の投げやすいところから投げたら』と言われ、良くなった」と東哲平監督(34)の好指導に感謝した。
第2試合で神村学園(鹿児島)を6安打完封した仙台育英(宮城)の佐藤世那(3年)も負けてはいない。「平沼が完封したので、自分も、と思っていた」とライバル心をのぞかせ、「お互い『勝ったら当たるな』と言っていたので、次は楽しみ」と次戦での激突に思いを馳せる。2回戦の敦賀気比と仙台育英は、今大会の優勝争いを左右する一戦になりそうだ。福井と宮城、甲子園の優勝空白県の期待を背負った戦いでもある。