Yahoo!ニュース

ノルウェー内閣改造で「移民大臣」新設。歴史上、最も移民・難民に厳しい政権へ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
Photo:Justis- og beredskapsdepartementet

15日、アーナ・ソルバルグ首相(保守党)が率いる政権が、2013年の政権交代以降、初の大規模な内閣改造を発表した。移民・難民政策に大きな影響力をもつ役職に、極右とされる進歩党のトップが脇を固めるかたちとなり、ノルウェー政治の歴史上、かつてないほど移民・難民政策に厳しい内閣構造となった。大臣は首相を含め、18人から、あらたに19人となる。

新設の「移民・社会統合大臣」には、農業・食糧大臣であったシルヴィ・リストハウグ氏(進歩党、冒頭写真 左)が就任する。同氏は、ここ数か月で難民申請者に対して、厳しい発言を繰り返していた。国営放送局NRKのラジオでは、移民や難民に否定的な発言をすることが、「非人間的だ」と捉えられやすいノルウェー社会の風潮に対して「善意の暴政」と生放送で発言し、大きな注目を浴びた。

現政権のナンバーツーであり、財務大臣を務めるシーヴ・イェンセン氏(進歩党)は留任する。移民・難民政策においても影響が大きい、国家予算の鍵を握る。同氏は進歩党の代表でもある。

親と離れ、単独で難民としてノルウェーにやってきた子どもはトラウマも抱えており、支援対策には大人以上のケアが必要とされる。子ども・平等・社会統合大臣であったソールヴァイ・ホルネ氏(進歩党、冒頭写真 右)は留任するが、社会統合部署は新設のリストハウグ氏が担当。ホルネ氏に負担部分が大きくなっていた業務が減り、難民の子どもの対応を引き続き受け持つ。

移民・難民の国境を取り締まる法務・危機管理大臣、アンネシュ・アーヌンセン氏(進歩党、冒頭写真 中央)は留任。同氏も難民受け入れ体制には厳しいことで知られている。

法務・危機管理大臣と子ども・平等・社会大臣は、これまで課題が急増した難民対策を分担していたが、その役割の一部が新設の移民・社会統合大臣の担当となる。

留任する地方自治大臣、ヤン・トーレ・サンネル氏(保守党)は、国内各地における難民受け入れ施設を担当。同氏、留任する保健・ケアサービス大臣ベント・ホイエ氏(保守党)、法務・危機管理大臣アーヌンセン氏、子ども・平等・社会統合大臣であったホルネ氏。この4名は、12月2日に記者会見を開いており、難民受け入れ体制を強化したことが、申請者数減少につながっていると、満足そうに笑顔で報道陣の前に立った。

記者会見で時に笑顔をみせる大臣たちPhoto:Asaki Abumi
記者会見で時に笑顔をみせる大臣たちPhoto:Asaki Abumi

今回の内閣改造で、現地メディアが最も注目しているのは、新設された「移民・社会統合大臣」のリストハウグ氏だ。かつての内閣には「移民」省はなかった。同氏が移民・難民に非常に否定的であることは、これまでの発言でも明白であるため、今後はさらにエスカレートした言動が予想される。

また、新たに大臣の仲間入りをしたペール・サンバルグ氏は、進歩党の支持者以外にとってはショッキングなニュースであったかもしれない。進歩党の中でも、カール・ハーゲン氏と共に、サンドバルグ氏は、政治家としては驚きの言動を繰り返す「進歩党の声の拡声器」として知られている。5月の進歩党の全国総会では、難民問題が国内で議論される中、「良い旅を 海の冒険」(GOOD JOURNEY/SEA ADVENTURE)と書かれたTシャツを着用し、意図的と思われるあからさまなメッセージに、大きな批判を浴びた。

今回、移民・社会統合大臣のリストハウグ氏の代わりとして、「漁業大臣」となったサンドバルグ氏。移民や難民を否定する発言では知られているが、国の漁業について発言したことはほぼない。漁業大臣となって、養殖ノルウェーサーモンなどのPRを世界各地ですることとなる。サーモンやサバの輸出入で日本とも交流が深い役職でもある。同氏が漁業大臣となることは、左派勢力からは「冗談か」という声がSNSで広がっている。漁業大臣と進歩党の副代表という、ふたつの顔をもつこととなるが、メディアでは移民・難民問題と漁業についての発言を、どう切り分けていくのかが注目される。

ソールバルグ内閣は、保守派で移民・難民問題を懸念している人々にとっては、安心できる顔ぶれともいえる。しかし、保守派の中でも、進歩党の過激な発言には眉をひそめる政治家も多い。特に現内閣は、過半数を占めるために自由党とキリスト教民主党と協力体制を歩んでいるが、キリスト教民主党の代表とサンドバルグ氏は、これまで激しい口論を繰り広げており、現地では語りぐさとなっている。

北欧各国では極右政党が支持率を伸ばしており、「移民に寛容な北欧」という国際社会のイメージは、今や崩れかけている。ノーベル平和賞授与式が開催されるノルウェーは、「平和の国」とも讃えられやすい。石油資源で余裕があることから、国際社会において平和活動で主導的な役割をとるべきだという認識も、政治家や国民の間では強い。

受け入れ制度強化は必須ではあっただろうが、移民や難民が来にくくなる国づくりを、笑顔で満足そうに発表する閣僚が率いるノルウェーは、今も国際社会の平和のお手本となれているのだろうか。いずれにせよ、進歩党メンバーによるびっくり発言は、これからさらにメディアを賑わせていきそうだ。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

鐙麻樹の最近の記事