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女子のほうが多い学校の男子は成績が上がる

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 少子化のせいで全国の高校で共学化が急速に進んでいる。筆者の甥っ子も戦前からある地元の公立女子校が共学化し、そこへ進学した。当然、クラスの男女比は女子が多い。女子に囲まれ、彼はけっこう幸せそうに見える。

少子化で共学化が進む日本

 公立の進学校になった旧制中学も公立女子校になった多くの旧制高等女学校も共学になりつつあり、また私立高校も男子校や女子校が共学化し始めている。旧来の「伝統校」は男女別学が多かったが、公立私立を問わず少子化の波が押し寄せている、というわけだ。

 ところで、筆者が好きな女性写真家に梅佳代(うめかよ)がいる。彼女には男子小学生を被写体にした「男子」という一連のテーマがあるが、大阪あたりの男子小学生を女子目線の「いたわりと愛情」でリアルに撮影し、彼らの「おばかな生態」をちょっと残酷なまでに描写している。

 思春期が終わるまで、おおむね男子の成長は女子よりも遅い。体格的にも生理的にも思考も勉強さえ、女子に男子はかなわない。そんな時期が10年くらい続くわけで、川勝静岡県知事ではないが、少女たちは「おばか」な男子にときに呆れつつ、ときに軽蔑し、または憐憫の情で接し続けなければならないのだ。

 オランダのラドバウド大学の研究者が調べたところ、世界33カ国の8306校を対象にし、世界中の15歳の少年少女たち21万6117人の読解力(Reading Perfomance)を評価したテスト(PISA reading score、※1)で、男女比が女子が60%以上多い学校で男子の成績が有意に優れていることがわかった(※2)と言う。

女子比率が高いことに影響が

 研究者の目的は、教育におけるジェンダー的な利益不利益を探ることだった。読解力で評価したのは、コア・コンピテンシー(Core Competency、総合的な理解力や判断力)を推し量る指標になり、また理系科目よりも男女の違いが出にくい、という二つの理由からだ。

 もともと15歳の年代では、ほとんどの科目で女子のほうが男子よりも成績がいい。また、以前の研究から、男子のほうが教育環境によって成績が影響される傾向が強いことがわかっていた(※2)と言う。そうした環境の影響は男女比からもおよぼされていた、というわけだ。

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女子の割合が60%以上の学校では、男子の読解力の成績がそうでない学校の男子よりも上回った。男子のみならず女子のスコアもいいのがわかる。Via:Margriet van Hek, et al., "Do schools affect girls’ and boys’ reading performance differently? A multilevel study on the gendered effects of school resources and school practices." School Effectiveness and School Improvement, 2017

 調査をした研究者は、女子の集中力やモチベーションが男子の学習能力に影響しているのではないか、と考えている。また、男子の読解力を含んだ国語の成績について、理系科目ほど重要視されていないこともあるだろう。

 今回は読解力について比較したが、別の科目で調べてみればまた違った結果が出るかもしれない。男女別学と学習能力との関係はこれまであまり研究されてこなかったが、共学により男女が影響を与え合うのには意味がある、ということがわかったわけだ。筆者の甥っ子は来年、大学受験だが、女子の多い高校に通った成果が出るかどうかはわからない。

※1:PISA:ピサ、Programme for International Student Assessment、国際性と評価のためのプログラム。OECD(経済協力開発機構)の加盟国の15歳の生徒を対象にして読解力(Reading Perfomance)、数学(Mathematics Performance)、科学(Science Performance)、問題解決(Collaborative Problem Solving)といった科目を採点する。

※2:Margriet van Hek, Gerbert Kraaykamp, Ben Pelzer, "Do schools affect girls’ and boys’ reading performance differently? A multilevel study on the gendered effects of school resources and school practices." School Effectiveness and School Improvement, dx.doi.org/10.1080/09243453.2017.1382540, 2017

※3:Joscha Legewie, Thomas A. DiPrete, "School Context and the Gender Gap in Educational Achievement." American Sociological Review, Vol.77, Issue3, 2012

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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