「北欧の法の伝統を脅かす政治的な行為」と政府反論 ノルウェー石油裁判
市民の健康を保証する環境保護の義務が記されたノルウェー憲法に違反しているとして、ノルウェーの一部の市民や環境団体が、ノルウェー政府を訴えた。
詳細「憲法をめぐって異例の石油裁判が始まる「油田は環境破壊」 市民がノルウェー政府を訴える」
14日に裁判初日を迎えたオスロ地方裁判所。雪が降る中、裁判所前には傍聴を希望する人々の行列ができた。裁判の様子は国内外で報道されており、国営放送局NRKはほぼ全てを生中継でネットで伝える。
憲法違反だとして、新たな海域での油田開発を止めようとする裁判はノルウェーでは史上初。最高裁まで長引くだろうとされている。
興味深い点は、ノルウェー政府はパリ協定に賛同している。一方で、化石燃料に依存し続けることが、「どれだけ正しいか」を主張し続ける姿勢が、裁判を通してこれまで以上に明白に国内外に示されることだ。
フレドリク・セイェルステ政府弁護士は、ノルウェー政府が油田開発を続ける理由は、「EUがノルウェーの石油資源に依存しているから」だと反論(ノルウェーはEU非加盟)。
一部の国会議員や政府弁護士は、本来は国会で話し合われるべきはずのことが、裁判所という場所に持ち込まれたことに憤りをあらわにしている。
「もしこの裁判で環境派らが勝利すれば、今後他の石油事業にも影響がでる。多くの経済的損失と失業者をうみ、将来の国家事業を脅かすことになる」と批判した。
「政治的なパフォーマンス」、「裁判所をアメリカ化しようとしている」
国会を無視し、法廷で政治的な行為をしようとする環境派らの行為は、「政治的なパフォーマンス」であり、そのような劇場に巻き込まれることは迷惑だとも発言。
国会と法廷の境界線を越える行為は、「これまでの北欧らしい現実的な法の伝統」を威圧する行為であり、訴えた環境派市民を「アメリカ化された憲法活動家」と批判した。
「ノルウェーの裁判所をアメリカ化しようとしている」という政府弁護士の主張を聞いて、傍聴席は爆笑の渦に包まれた。
今回訴えたのは地元のグリーンピース、青年環境団体のほかに、高齢者が集まる団体も名を連ねる。「祖父母の気候活動」団体の代表として、原告席に座っていたのは、ケーティル・ルンド氏。19年間弁護士を務めた、ノルウェーの法の世界では有名な人物だ。
政府弁護士の「アメリカ化された憲法活動家」、「政治的なパフォーマンス」と言う発言にルンド氏は、大人げないと批判。
「対立する側をこのようにバカにして笑う行為は、私が19年間働いてきた最高裁では聞いたことがない」と言い返した。このやり取りは国営放送局などでも報道された。
注目度が高い裁判のため、行方が気になる人々が集まるイベントはオスロで毎日開催される予定。
政府弁護士は、政治を法の場の持ち込み、グリーンピースが国内でチラシ配布、裁判所前に氷のアート配置、SNSでビデオ拡散をする一連の行為を、「すべては政治的なキャンペーンであり、裁判所が巻き込まれた」と批判。
この日、グリーンピース・ノルウェー代表のグロウセン氏は、「私は批判されたこのチラシにも誇りをもっている。人々がこの裁判をきっかけに、法に興味を持つことになるとしたら、むしろ素晴らしいことだと思うが」と話した。
今後は証人喚問が続き、政府側は、ノルウェーの石油開発は人権を侵しておらず、環境破壊ではないことなどを証明する構え。
ノルウェーで市民環境派らが勝利すれば、他国での気候議論にも大きな影響を及ぼすだろうとされている。
他国での報道一例:
ロイター、ガーディアン、Financial Times、エコノミスト、BBC、Le Monde
Text: Asaki Abumi