憲法をめぐって異例の石油裁判が始まる「油田は環境破壊」 市民がノルウェー政府を訴える
14日よりノルウェー初の石油裁判が始まる。石油開発を進めるノルウェー政府。市民には健康を守る自然環境の維持が保証される権利があるとする、ノルウェー憲法112条に違反しているとして、地元の環境団体らが政府を訴えた。
パリ協定と、市民の健康と環境の保護が記された「憲法」をめぐって、政府が一部の市民に訴えられたのは史上初となる。
裁判所がどのような判断を下すのか興味深いケースだとして、地元では大きな注目を集めている。
初の事例であることから、最終的には最高裁が合憲性を判断し、結果がでるまでには数年かかるともされている。
訴えたのは8000人以上の若者メンバーでなるノルウェー国内最大規模の自然と青年(Natur og Ungdom)団体と環境団体グリーンピース。この動きを一部の国内外の人々や団体が支援。ノルウェー市民全員を代表しているわけではないが、「市民 対 政府」という図式で争われることになる。
市民の約半数はこれ以上の新たな領域での油田開発には反対という世論調査がいくつも出ているが、世論は分裂している。ノルウェー国会では右派・左派ともに大政党らが油田開発に賛成だが、両派の小政党からの反発が強い。国会で決めるはずの油田開発の行方が、裁判所に持ち込まれたことに、一部の国会議員は不満をあらわにしている。
環境団体らが政府を訴えることにしたきっかけは、政府が昨年の夏に第23回探鉱ライセンスラウンドという、新たな油田採掘計画を発表したため。13社に与えられたライセンスが意味するのは、現在は油田開発が一切されていない新たな海域での探鉱・開発だ。
環境派らはノルウェーでの油田開発をすぐにでも「全停止」させようとしているわけではなく、今回の裁判ではこの第23回探鉱ライセンスラウンドにおける採掘を止めようとしている。
パリ協定をノルウェー政府は事実上は守る気がなく、政治家は市民や未来の世代に対する責任と義務を怠っているとして環境派らは抗議している。
裁判で環境派らが勝利することは難しいのではという意見もある。一方で、この裁判が長引き、国内外で注目を集め続けることは、油田開発を進めたい派にとって長期的にはマイナスの効果をうむだろう。
グリーンピース代表のトゥルルス・グロウセン氏は「世界中で環境のために行動する者たちにとって、今日は大きな意味をもちます。新たな石油資源開発がパリ協定とノルウェー憲法に違反していることは明らかです」とプレスリリースで語る。
自然と青年団体の代表であるイングリ・ショルヴァール氏は、「どこの政府にも人々に健康的な環境を保証する義務があります。石油開発がもたらす最悪な結果を肌で感じることとなるのは、若い世代、私たちの子どもたちです。これは未来を守る闘いであり、同じ目的をもつ人々にも有意義な武器となることを願います」。
今回のバレンツ海での新領域での石油開発においてライセンスが与えられた13社は、ノルウェーのスタトオイル社のほかに、英国、米国、ドイツ、ロシア、スウェーデン、オーストリアの石油会社が名を連ね、日本の出光興産も含まれる。
ノルウェーにおける石油・天然ガス開発は1960年代より始まった。油田の発見が相次ぎ、現在では世界第3位の天然ガス輸出国、世界第8位の石油輸出国となっている。
2016年では石油・天然ガス・コンデンセート(液体炭化水素)の輸出だけで、国内の商品輸出量の47%を占めた。
国内での電力供給は水力発電でまかなえることから、世界有数のエネルギー輸出国に。将来の石油収入の減少に備えて、石油基金が設置されている。
Text: Asaki Abumi