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朝倉未来よりも勝っているのは「根性」。斎藤裕の発言の真意と闘いの行方──。『RIZIN.25』迫る!

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
朝倉未来とフェザー級王座を賭けて闘う斎藤裕(写真:SLAM JAM)

「動画はけっこう見ました。(斎藤裕の)直近3試合を10回ずつくらい。意外に下から寝業ができないことも分かったし、打撃のクセも見抜きましたよ。動画を見ると自分のクセも分かります。そこを分析してくれたら面白い試合になるんじゃないかな。

(自分は)左のローキックから入りやすいので、そのことを斎藤選手に伝えておいてください」(朝倉未来)

「左のローキック…インローですか。分かりました。左の蹴りが得意なのは過去の試合を見てもわかります。ありがとうございます、とお伝えください。そんなことを言ってたんですか。面白いですね」(斎藤裕)

11・21大阪城ホール『RIZIN.25』が目前に迫ってきた。

(提供:RIZIN FF)
(提供:RIZIN FF)

大会のメインエベントは、初代RIZINフェザー級王座決定戦・朝倉未来(トライフォース赤坂)vs.斎藤裕(パラエストラ小岩)。

決戦10日前となる11月11日、両雄が公開練習を時間差で行っている。

「レベルが違うから対策は必要ない」

午前11時、東京・港区にあるトライフォース赤坂に朝倉が姿を現した。

『RIZIN.25』にともに参戦する白川陸斗(志道場)とのマススパーリングを公開した後、メディアの取材に応じる。

「コンディションはバッチリです。体重も、今朝量ったら71キロ。あと5キロですから順調。

動画は見てクセはチェックしましたけど、レベルが違うので対策は特にしていません。打撃、組み技、寝業のすべてにおいて俺が上回っているので。強いて言うならノーモーションの右のパンチ。踏み込みと同時に来て、さらに伸びてくる。いいものを持っています。そこは気をつけます。

後は打たれ強い相手なので、あまり力まずに流れの中で倒せたらいいかなくらいの気持ちで闘います。まあ、普通にやれば倒せるとは思うんですけど、力みすぎて3ラウンド目を拮抗した状態で迎えたくないですから。

ベルト云々よりも、さらに強くなっている自分を見せたい。こんなところで負けるわけにはいかない」

公開練習を終えて撮影に応じる朝倉未来。左は『RIZIN.25』で朴光哲と対戦する白川陸斗(写真:SLAM JAM)
公開練習を終えて撮影に応じる朝倉未来。左は『RIZIN.25』で朴光哲と対戦する白川陸斗(写真:SLAM JAM)

「心が乱されることはありません」

午後2時には東京・江戸川区、パラエストラ小岩に斎藤が登場。

元修斗世界バンタム級王者・上田将勝(パラエストラ東京)とグラップリングスパーを披露した後、言葉を発した。

「(朝倉の)試合はずっと見てきているので、いまになって改めて見直すことはありません。相手に集中するのではなく自分に集中しています。

試合の展開がどうなるかはわかりませんよね。ただ、チャンスは逃したくないので主導権は握るつもりでいます。

(朝倉から)いろいろと言われているみたいですが、リングの中での闘いがすべてなので気にしていません。それで心が乱されるようなこともないですよ。これまで練習でも試合でも格闘技には真剣に取り組んできました。やってきたことに自信を持って当日は試合に臨めると思います」

報道陣からの質問に時折、笑みを浮かべながら答える斎藤裕(写真:SLAM JAM)
報道陣からの質問に時折、笑みを浮かべながら答える斎藤裕(写真:SLAM JAM)

会見では、こんな質問も飛んだ。

朝倉未来と比して、自分が勝っているのは何だと思うか?

僅かに間を置いて斎藤は答えた。

「根性です」と。

いきなりの問いかけに何と答えようか迷ったのかもしれない。だが敢えて技術面には触れず、メンタル面を強調した。

こういう時は、日頃の想いが口を突く。

おそらくは、どんな展開になっても心だけは折らせない。そして訪れたチャンスは絶対に逃さないと決意を固めているのだ。

8月10日、ぴあアリーナ『RIZIN.23』での摩嶋一整戦。1ラウンドは劣勢を強いられた。だが、諦めずにそこを耐え2ラウンドに相手の隙を突き逆転勝利を収めた。これは、かなりの自信になっているはずである。

「諦めない心=根性」なのだろう。

少年院での生活を経験した後、アウトサイダーで勝ち続けたことでRIZIN参戦のチャンスを掴み、一気にのしあがった朝倉。

野球少年が格闘技に憧憬を抱き、長い時間をかけて修斗で経験を積み、ようやく華やかな舞台に躍り出た斎藤。

ふたりのカラーは大きく異なる。バックボーンも性格も違う。

だが互いに格闘技に対して真摯で、心もカラダも打たれ強い。

「アウトサイダーvs.修斗」の対決は、技術戦ではなく心の削り合いになるのではないか。

濃厚なる900秒の闘い、凄絶な判定決着の予感が漂う。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストに。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターも務める。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。仕事のご依頼、お問い合わせは、takao2869@gmail.comまで。

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