元慰安婦の「ICJ提訴」爆弾発言で吹っ飛んだ文在寅政権の「解決策」
文在寅大統領は昨日(19日)、青瓦台(大統領府)に政権与党の「共に民主党」の幹部らを招き、懇親会の席で日韓関係正常化への支援を求めたようだ。
大統領の専売特許でもあり、独占している外交問題で議員の協力を仰ぐのは珍しい。それほど追い込まれているのであろう。支援を仰いだ理由については「韓米日関係の重要性を勘案して」のことのようだ。
日米韓3か国の協力関係を重視するバイデン政権の誕生により悪化一途を辿っている日本との関係改善の必要性を迫られていることが手に取るようにわかる。そのことは鄭義溶外相の18日の「必要あれば米国の助力が得られる」との発言からも読み取ることができる。
文大統領が李洛淵代表ら与党執行部に具体的にどのような協力を求めたのかは定かではないが、およそ察しは付く。
日韓関係は元慰安婦問題や元徴用工問題の処理が大きな障害となっていることは誰もが認めるところである。文大統領は懇親会の席で「当事者の意見を排除し、政府同士で合意するには困難がある」と述べていた。また、「単純な金の問題ではなく、当事者が認めなければならない。政府が(賠償)金を肩代わりすれば解決するというなら、すでに解決したのではないか」として「当事者がそうした方式を解決として納得することだ」と述べていた。
この発言について青瓦台広報官は「文大統領は政府間で合意を見ても、被害者の同意が重要であるとのこれまでの原則を繰り返しただけだ」と説明していた。ならば、この発言は日本に向けて発信したということになるが、果たしてそれだけだろうか?
与党に協力を求める趣旨、文脈からしてむしろ与党執行部に対して「我々が検討している解決案を元慰安婦や元徴用工ら当事者が納得して、受け入れるように今後説得にあたってもらいたい」と言っているように聞こえなくもない。何よりも、文大統領が韓国政府による「肩代わり案」について言及したのは後にも先にも今回が初めてである。
政府与党を中心に文政権はこれまで様々な解決策を模索してきたが、最終的には①韓国政府が賠償金を立て替え、元徴用工らの賠償権利(債権)を購入することで日本企業の資産現金化を防ぎ、その後については日本側と協議する案と②日本企業が一旦、賠償に応じれば、後に韓国政府が(賠償金)全額を埋める案の二つをたたき台にして日本と折衝することを検討していた。
(参考資料:韓国国会に再提出された「徴用工問題解決案」とその世論調査結果)
韓国裁判所の判決は不当であるので判決には従わないとの立場から日本は両案とも受け入れる意向を示していないが、それでも韓国内での議論を一歩前進とみなし、これをたたき台にさらに韓国が歩み寄る姿勢を示せば、折衝、折り合いも可能との受け止め方が菅政権内にあったのは紛れもない事実である。
ところが、ここにきて、文政権にとって思わぬ誤算が生じた。元慰安婦の李容洙(イ・ヨンスさんが16日にソウルで記者会見を開き、慰安婦問題の解決を国際司法裁判所(ICJ)に付託するよう求めたことである。
李さんは大統領に対して「菅義偉首相を説得し、ICJで問題を解決すべきだ」と主張したわけだから、日本との対話による解決を目指していた文大統領にとっては悩ましい問題となった。
(参考資料:慰安婦問題 日本は国際司法裁判所に提訴して勝てるか?)
周知のように文大統領は何かにつけ、「被害者中心」を強調してきた。その被害者が、それも中心的な存在である李さんがICJへの付託こそが「被害者中心的な解決である」と内外に向けて訴えたわけだから、文政権独自の「解決策」は無に帰したも同然である。
李さんの訴えに韓国外交部の当局者は「被害者おばあさんらの意見をもう少し聴取したい」と述べ、「慎重に検討する」方針を明らかにしたことで一部ではこの記者会見を日本にプレッシャーを掛けるため、あるいはICJ提訴に戦術転換するための場との見方も出ているが、日本は自民党を中心に早くからICJに提訴するよう求めていたので何の圧力にもならない。実際、これまでは日本がICJへの提訴を呼び掛けても応じなかったは韓国側であった。
文大統領は日韓の懸案を首脳外交よる政治決着での解決を願望しているが、李さんの「爆弾発言」に続いて米ハーバード大ロースクールのジョン・マーク・ラムザイヤー教授の「慰安婦は売春婦だ」と論じた論文に国民の怒りが沸騰していることもあって身動きが取れず、まさにお手上げの状態にあるようだ。