改名、脚本家デビュー、禁断の性愛「卍」へ挑戦。「女優として30代に入って意識の変化がありました」
女性同士の性愛に焦点を当て、いまだ「禁断」といった背徳的なイメージの強い谷崎潤一郎の小説「卍」。
1928年に発表されてから、これまで何度も映画化されてきた同作が、令和のいま再びリメイクされた。
となると、これまで何度も映画化されてきた原作を、なぜいま再び描くのか?いま、改めて映画化する意味は果たしてあるのか?
そう疑問を抱くことはある意味、素直な反応かもしれない。
でも、いまだから「卍」なのかもしれない。むしろいまこそ「卍」ではなかろうか。
令和に届けられた「卍」を前にすると、そんな感想を抱く。
禁断はもはや過去で、「卍」という物語の世界が、いまという時代にひじょうにフィットしていることに気づかされる。
果たして、令和のいま「卍」と向き合った俳優たちは何を感じ、何を思ったのか?
W主演のひとり、小原徳子に訊くインタビューの番外編。
ここからはこれまでに収められなかったエピソードや今後についての話を続ける。番外編全三回。
30代に入って、待つだけではなく、
自分から動いてもいいのではないか、そうマインドが変わってきた
前回(番外編第二回はこちら)、脚本家デビューを果たしたことをきっかけに、改めて本格的にシナリオを学ぼうと現在脚本の勉強をしていることを明かしてくれた小原。
脚本作りにも本格的に取り組みたいという意思にはこんな思いもあるという。
「役者って、どちらかというと待つことが多いといいますか。
オファーをいただかないとなにもはじまらない。オーディションを受けても、結果待ちになる。
だからどちらだとしても待つ立場なんですよね。
ただ、やはり待っているだけではなにも始まらないところがある。
30代に入って、待つだけではなくて、もっと自分から積極的に動いて作品を生み出すことにかかわっていってもいいのではないか。
そういうマインドに変わってきているところがあります。
『いずれあなたが知る話』のように、自分で脚本を書いて、自分も出演して、自分が組んでみたいと思っている監督や俳優の仲間と一緒に作品を作る。こういった形のことにもっと取り組んでもいいかなと思っています。
そのためには自分のひとつの武器になるように、きちんと脚本を書けるようにならないといけない。そのためにいま一生懸命、脚本を学んでいます」
わたしが脚本を書き始めても、誰も興味をもってくれないと思っていたが……
そのように自身のマインドが切り替わったきっかけはあったのだろうか?
「そうですね。きっかけ、何だろうなぁ。
やはり前にもお話ししましたけど、30代に入るという、ひとつの節目があったと思います。
ひとつの節目を迎えたときに、じゃあ自分に何ができるかとなって、脚本を書きたい気持ちがあったことを思い出しました。
それこそ、高校生のとき、演劇部で当時から自分で物語を作ることをしてみたいという気持ちがあった。だから、ずっとしたいことではあったんです。
それが、コロナ禍というすべての活動がストップしてしまった期間に入って、奇しくも挑戦できる時間ができた。
ほんとうにタイミングが大きかったと思います。
あと、変な話ですけど、わたしが脚本を書き始めても、誰も興味をもってくれないとはじめは思っていたんです。
脚本家としてなんの実績もないわけですから、それは仕方ない。で、女優やっていて脚本も書くとなると、否定的に見られるところもあるのかなと思っていたんです。
でも、実際は、すごく好意的にみなさんが受け止めてくださった。『いま脚本を書いています』という話をお会いした監督にすると、『どんどんやったほうがいいよ』って応援してくださる方がほとんどだったんです。
その言葉で『わたしが書いてもいいんだ』と励まされたところがありました。
今回の『卍』のオーディションの時にも、井土監督にそういう話をしたら、『役者も脚本も一緒にやっていったほうがいいよ』と言ってくださって、すごくうれしかったです。
それから、役者も選ばれるのを待っているだけじゃない。自分で動いていく時代になってきている。
こういうことが合わさって本格的に脚本に取り組もうという気持ちを後押ししてくれた気がします」
いまという時代を生きている女性をリアルに描きたい
今後についてこう語る。
「これからどういう女性像を描いた作品を残していくのか大切な気がしています。
いまという時代を生きている女性をリアルに描きたい気持ちがあります。
そういう女性のリアルな物語がきちんと描ける脚本家になりたい。
そしてそういう女性のリアルな感情をきちんと表現できる役者になりたいです」
(※番外編インタビュー終了)
映画「卍」
監督:井土紀州
脚本:小谷香織
出演:新藤まなみ 小原徳子
大西信満 黒住尚生 明石ゆめか ぶっちゃあ(友情出演)/仁科亜季子
全国順次公開中
筆者撮影以外の写真はすべて (C)2023「卍」製作委員会