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近畿に異変!地元・兵庫からセンバツゼロ??  混乱の近畿大会を振り返る

森本栄浩毎日放送アナウンサー
報徳や大阪桐蔭、平安などの甲子園優勝経験校を撃破した天理は8度目の近畿王者に

今年の甲子園は、春が龍谷大平安(京都)、夏が大阪桐蔭と近畿勢の活躍が目立った。しかし新チームになって様相は一変する。大阪では4年連続センバツ出場中の履正社がPL学園に敗れ、常連の智弁和歌山も予選敗退と、近畿大会前から予兆はあった。それでも夏の覇者・大阪桐蔭やセンバツ連覇を狙う平安、選手権16強の近江(滋賀)などが予選1位で近畿に進出してそれなりの盛り上がりはあるだろうと思われた。しかし、レベルが高いはずの大阪、兵庫が大敗し、センバツ選考に大きな影響を与えることは必至の情勢になった。

大阪、兵庫の不振が深刻

優勝は天理(奈良1位)で、実に8回目の秋近畿の優勝。次いで立命館宇治(京都2位)。準決勝敗退は平安と奈良大付(奈良2位)。選出の当落線上となる準々決勝敗退は、大阪桐蔭、近江、北大津(滋賀2位)箕島(和歌山1位)であった。現実的にはここまでがセンバツの候補(近畿は6枠)になる。兵庫は3校全てが初戦敗退。大阪は和歌山とともに1勝で、近年近畿で苦戦続きだった滋賀は2勝。4強を奈良と京都が占める意外な顔ぶれとなった。以前から、大阪と兵庫が不振だった年は近畿全体のレベルが低いとされるが、印象としてはその感を拭えない。また、新年度の野球部員受け入れ停止で騒然となったPL学園(大阪2位)の動向が注目を浴び、センバツを懸ける近畿大会の意味が少しブレたようにも感じた。

PLに勝ったのに 近江涙

その影響を受けたのが近江だ。開幕戦でいきなりPLと対戦し、全国ネットでも取り上げられるなど、近畿大会1回戦の域をはるかに超えた注目度。その試合を3-2と会心の僅差勝ちでモノにして、大事な準々決勝で崩れた。

近江の小川はPLを2点に抑えて完投したが、立命館宇治には5回3失点と崩れた
近江の小川はPLを2点に抑えて完投したが、立命館宇治には5回3失点と崩れた

甲子園で完封勝ちしている小川良憲(2年)が、今夏からはほど遠い出来で、立命館宇治の中軸につかまり5回で降板。そもそも県大会から力みが目につき、腕が下がってシュート回転するタマが目立っていた。左打者に痛打されたのはこのためだ。打線の調子が今ひとつだったことや、上級生となって意識に変化が出たのか、夏はあれだけリラックスして投げていたのが、まるで別人だった。小川の不振が計算外だったとしても、チームとしてずるずると相手ペースに巻き込まれたのはいただけない。まさかPLに勝って満足したわけではないだろうが、近畿におけるセンバツを懸けた本当の戦いは準々決勝にある。スコアは2-6。中盤に突き放されてからは、残塁が多く、淡白な攻撃になってしまった。この試合にはいくつかの伏線がある。16校中、最初の試合で勝った近江は、対戦チームの試合をあとから見られるアドバンテージがある。相手の立宇治は、神戸国際大付(兵庫1位)と乱戦を展開し、終盤に3連続押し出しなどを得て、11-7で勝っていた。この試合で主戦の山下太雅(2年)は10四死球を与える乱調で、投手力には大きな不安がある。また、滋賀2位の北大津も初戦突破を果たしたため、滋賀から8強2校となれば、予選上位の近江が有利と見るのが一般的だ。このような理由から、PL戦とは違ったモチベーションで試合に入った可能性がある。

試合順が微妙に作用

最初に試合をしたチームが不利な条件もある。それは試合順だ。近江は準々決勝の最初の試合で敗れた。残る3試合は翌日に行われる。これはあとから試合をする方が、ライバルチーム(この場合は同県チームか、当落線上チームを指す)の結果がわかっているので、気持ちを整理しやすい。1回戦が終わった段階で、選出が確定的だったのは、大阪桐蔭だけしかない。その大阪桐蔭は1回戦の最後に登場(日高中津=和歌山3位に10-0でコールド勝ち)した。すでにPLと府3位の大商大堺は敗れている。これまでのセンバツで大阪勢が出場しなかったことがないから、勝ちさえすれば予選1位の桐蔭が選考漏れすることはない。奈良大付と箕島(和歌山1位)の試合は双方、微妙な立場だった。

奈良大付の坂口は、キレのいいタマをコーナーに決め好投した。甲子園でも躍動しそう
奈良大付の坂口は、キレのいいタマをコーナーに決め好投した。甲子園でも躍動しそう

奈良大は今回も含め、出場4回連続で初戦突破しているが、これまで準々決勝が大きなヤマになっていた。去年も県1位の智弁学園が敗れたあとの試合だっただけに、勝てば立場を逆転できたが、チーム全体が硬くなって大敗していた。今年も県1位の天理が勝っていたから、先に負けると大いに不利だ。果たして今年の試合も先制される苦しい展開。昨年はここで力尽きていたエースの坂口大誠(2年)の踏ん張りが、終盤の粘りを呼び込み、3-2でサヨナラ勝ちを演じた。奈良大にとって幸いだったのは、今大会で当たった相手に強打線のチームがなかったこと。ただ、これまでの不運続きを考え合わせれば、この程度はそれほどの幸運でもない。近畿4強にふさわしい実力を備えている。一方の箕島は県勢3校で唯一の初戦突破になり、大敗だけは避けたかったところ。具体的には、近江より悪い印象を残さなければよかったわけで、箕島がこの日の試合内容を問われることはないだろう。準々決勝の内容だけをとれば、序列はおのずとはっきりする。

強豪もひとつ間違えば落選危機!?

すでに立宇治が4強に進んで追い詰められた平安は、序盤から頼みの高橋奎ニ(2年)が、北大津の積極打法につかまって大苦戦。北大津は近江が敗れているため、立場を逆転するには願ってもない展開となった。平安は守備も乱れ、明らかに動揺していた。しかし地元の大声援を受けて6回、突如目覚める。4本の長打を絡めて追いつくと、終盤に地力を発揮して6-4でうっちゃった。

平安の原田監督は、「センバツに出るのは3年生の先輩に対する感謝」と選手たちを鼓舞した
平安の原田監督は、「センバツに出るのは3年生の先輩に対する感謝」と選手たちを鼓舞した

平安の原田英彦監督(54)は、「5回のグラウンド整備の時間に『先輩に感謝せんでいいんか』と檄を飛ばしてようやくチームがひとつになりました」と明かした。お互いのプレッシャーと欲とが微妙に試合内容を左右し、平安は九死に一生を得た。最後に登場するのは、実力派の1位同士。天理が1年生左腕・森浦大輔の活躍で、大阪桐蔭を翻弄した。天理は、主戦投手の故障で、背番号1は本来外野の齋藤佑羽(2年)が背負う。報徳学園(兵庫2位)との初戦は齋藤が先発したが、森浦の救援を仰いで流れを渡さなかった。この2校だけ、土日の連戦になり、前日からの流れで森浦を起用した橋本武徳監督(69)の眼力は確かだった。9回に詰め寄られた場面は冷や汗を流しただろうが、全体的には3-2というスコア以上の完勝。この両校が実力的には双璧だった気がするが、天理は敗れていれば落選濃厚な状況だったことを考えると、対戦相手や試合順など、近畿大会における組み合わせのウエイトは非常に高い。

兵庫は大敗

大阪の苦戦もさることながら、今大会の兵庫勢はさらに不振だった。大阪兵庫の6校でトータル1勝6敗など、長く近畿大会を見ているが初めての珍事だ。報徳は相手(天理)との力関係から苦戦を予想していたが、神戸国際大付と津名(3位)は、五分と見ていた。国際はどうも京都開催が苦手なようで、12年前もあっさり初戦敗退。立宇治との試合は暴投、失策、押し出しなどで失点(11)の半分以上を献上して自滅した。潜在能力の高い投手が複数いて、夏への期待は高まるが、払った代償は小さくない。津名は、本格派の潮崎彰成(2年)が、箕島の速攻に遭ってペースを握れず、後手に回った。終盤の粘りは見事で、もう少し早く盛り返せていれば違った結果になったかもしれない。

気合を入れて天理に挑んだ報徳は、無念のコールド敗退。兵庫の1,2位はいずれも2ケタ失点の完敗となった
気合を入れて天理に挑んだ報徳は、無念のコールド敗退。兵庫の1,2位はいずれも2ケタ失点の完敗となった

報徳は、天理相手に中盤まで互角に渡り合った。エースの主島大虎(1年)もよく投げたが、要所でのミスが分岐点となって、まさかのコールド負けを喫した。内容的に浮上するとすれば津名しかないが、相手の箕島ですら線上になるので、これを飛び越えることはできない。兵庫のセンバツゼロは90年前、大正13年の第1回大会(名古屋市開催)と昭和57年の54回大会の2例だけ。この試合内容で選出となると、近畿大会軽視の非難を免れず、選考委員も頭が痛い。

大阪は聖域 兵庫の救済はあるのか

近畿は大会出場校の数に比してセンバツ出場枠が多い。16校中6校が甲子園切符を得られる。ただし大阪と兵庫は甲子園の地元感が強いので、2府4県の出場校の立ち位置は微妙に違う。今回、準決勝進出が、京都と奈良で占められた。近畿の4強は「出場確定」に当たるので、必然的に残る4府県中、2県からは出場校が送り出せないことになる。今回は残る4府県に大阪も兵庫も入っているからややこしい。よほどのことがない限り、初戦敗退組を引き上げるのは無理を伴う。兵庫は3年前も3校全てが初戦敗退。このときは21世紀枠で洲本が選ばれ、辛くも地元枠を死守した。今回の状況はそれよりも悪い。ちなみに大阪が同じような状況に陥ったこともあった。12年前の近畿大会は、同じ京都で行われ、大阪の近大付、東海大仰星、大産大付が揃って初戦敗退。それでも予選1位という理由だけで近大付を選出した。このときの理論武装が、「センター返しを徹底していた」等わけのわからない内容で、選出漏れしたチームのベテラン監督から異議が出た。なぜ「センバツに大阪を外すことはできない」と正直に言えなかったのか。このときをもって、「センバツにおける大阪は絶対」と理解するに至った。しかし過去2度の「ゼロ」を経験している兵庫は、一段落ちる。それは昭和56年の近畿大会とそれを受けての翌年の選考(当時近畿は18校で7枠)で証明された。そのときと今回は酷似している。現状、選出校は4強を確定として、大阪桐蔭までの5校が確実。

箕島はこれまでから京都開催で相性がよく、尾藤強監督(中央)の父、公氏最後の甲子園も京都開催で掴んだ
箕島はこれまでから京都開催で相性がよく、尾藤強監督(中央)の父、公氏最後の甲子園も京都開催で掴んだ

残る1枠を箕島と近江、北大津の滋賀勢で争うことになる。準々決勝の試合内容を最重視するこれまでの選考経緯に照らし合わせると、先述の通り箕島が最も有利。ただ、滋賀はここ2年選考漏れしていること。6校になってから同一県複数校が8強に進出して、選出されなかったことがないこと。近江が初戦で勝ったPLは実力校であることなどが考慮されると逆転の可能性もある。ここまでの候補は8校。そこに兵庫が1校も入ってこない。残された道は21世紀枠と神宮枠。21世紀枠の県推薦校は姫路南に決まった。ここから近畿の推薦校に登りつめないとスタートラインにすら立てないし、神宮枠など絵に描いた餅になりかねない。それほど今回の兵庫は窮地に立たされている。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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