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ロシアW杯4日目。日本はメキシコになるべきか? ブラジルの驕りと意外なプランBの不在

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ラジュンはセビージャ、グアルダードはベティス所属。うまいけど日本人にも到達可能だ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

マッチレビューではなく、戦術的な傾向や前評判との相違点、ジャッジなど大きな視点でのW杯レポートの3回目。観戦予定の全64試合のうち、大会4日目の3試合で見えてきたのは、メキシコ流サッカーの可能性と絶対的な優勝候補ブラジルの脆さである。

日本はメキシコになるべきではないか。ドイツ対メキシコ(0-1)の試合後強く思った。

今大会のことではない。将来目指すサッカーの方向性としてメキシコ流はありではないのか。メキシコ人と日本人は体格が似ているから、常にメキシコを日本になぞらえる見方はあった。“W杯優勝を目指すなら、本家がベスト8止まりのサッカーでは駄目”という意見もあろう。

しかし、だ。

FIFAランキング15位。アメリカが落選する厳しい予選を7大会連続で通過し、グループステージだって6大会連続で突破中。前回王者ドイツだって倒せるプレースタイルなのだ。まずはここを目指して、次にその先を夢見るべきではないか。今大会の日本の現実的な目標はグループステージ突破だと思うが、それができなかったらプレースタイルをまた変える、ということを繰り返してもしょうがない。

個の技術を組織に捧げるサッカー

メキシコのサッカーはロングボールを放り込んで一か八かに賭けるような、“作らないサッカー”(参考:前回の記事)ではない。

個の技術をきちんと生かすが、個を決定的な打開策とするのではなく、組織のために捧げる。あのテクニシャン、カルロス・ベラでさえクロースのマンマーク係として犠牲となるような、個が組織に仕えるサッカーである。ロサーノ、エレーラが光ってはいたが、仮に彼らがいなくても組織でカバー可能。日本にメッシやロナウド、グリーズマンはいないし、出現するのはいつになるかわからない。だが、将来、すでに名前を挙げたようなクラスの選手、グアルダードやラジュン、エクトル・モレーノ級のタレントなら輩出可能だろう。

ドイツ戦の決勝点はカウンターによるもので、同じやり方でチャンスの山を築いた。とはいえ、絶対的なアスリートがスピードでぶっちぎるタイプのカウンターではなく、“人よりボールの方が速い”という鉄則を生かして、ボールをタッチ数少なく動かして相手を置き去りにしてゴール前に殺到した。

ロサーノのゴールは、コンビネーションプレーで挙げたものとしては今大会最も美しいものだった。まさに機能美である。

ドイツを“下手にした”機能美と根性の守備

相手がドイツだったからカウンターに専念したが、このチームはボールをしっかり持てる。特に、足下でボールを少し動かし飛び込ませないようにして、ドイツの選手をボールウォッチャーにした技術は素晴らしい。

レーブ監督はスペイン風のパスサッカーを導入したことで知られ、ドイツのボール扱いの上手さは欧州有数なのだが、そんな彼らが下手に見えた。体をぶつけようとしても、フェイントでかわされパスをすいすいと繋がれるのを、大男たちは疲労した顔で見ているだけだった。

後半防戦一方になったのは確かである。

カウンターの好機を潰しているうちに足が止まり、クロース、キミッヒのマークが外れ、ロイス投入でサイドからのセンタリングの供給源が1つ増えたことで、危険なボールが次々とメキシコゴール前を襲った。だが、選手たちが集中し一致団結し、それでも足りない時は根性で次々と跳ね返す。胸の熱くなるような守りっぷりだった。

ああいう全力を出し切った日本代表、仮に敗れていたとしても絶賛されただろう姿を見てみたいとは思いませんか?

ブラジルは19分でスイッチを自らオフに

もう1つのサプライズ、ブラジル対スイス(1-1)の試合後感はまったく違った。胸は熱くならなかった。なぜなら、全力を出し切っての攻防ではなかったからだ。スイスは100%だったがブラジルは50%くらいか。

試合開始からブラジルはクリエイティブな個をフルに使い猛攻を仕掛けた。パウリーニョとカセミロで後ろを固めるあたりは、コウチーニョ、ネイマール、ジェズス、ウィリアンのタレント頼り=個への依存を思わせた。だが、個と個のクリエイティビティがあれだけ連係すれば、それはそれで“作るサッカー”と形容するしかないだろう。個で崩し個の連係で崩す意識がはっきり見えた。

しかし、19分に先制するとスイッチを切った。

チーム全体を後ろに下げ、別にカウンター狙いに切り替えたわけではなく、まるで体力温存を図っているかのようにアグレッシブさを封印した。ここからは両チームの守備的MFカセミロとベーラミが光る地味な展開。明らかに調子の悪そうなネイマールを前に残し、ジェズス、ウィリアン、コウチーニョまでもが懸命に守る。そうしてカセミロが奪ったボールを時々ネイマールに送り込むものの、ベーラミに奪い返されてまた一からやり直し。

サッカーを楽しみととらえるブラジルで攻撃タレントに守備をさせる、というのはチッチ監督の功績だろう。だが、1-0であれはやらせ過ぎだ。

キムリーニョなら即交代だったが…

後半同点に追い着かれても、チッチはシステムをいじることなく同ポジションでの選手交代を行い、ただラインを上げさせただけ。それでも普段なら点が取れるのだろうが、ネイマールはいないも同然で、実質的に10人での戦いでは無理。あれ“キムリーニョ”って名前だったらとっくに交代だったのだろうが、ネイマールだから90分間放置した。ある意味、覚悟の引き分けであり、ブラジルファンには欲求不満の残る試合だったろう。

コスタ・リカ対セルビア(0-1)はセルビアの良さだけが目立った。スコアは僅差だが内容的には大差。ブラジル同様、セルビアも先制後ポジションを下げた。だが、それはカウンターをほぼ唯一の武器とするコスタ・リカ相手には非常に有効なやり方だった。

コスタ・リカにはゴール前に張ってシュートを放つCFがいない。スペースを与えられてのカウンターならそれでも良いが、ペナルティエリア内を人の壁で固められるとアタッカー陣は埋没してしまった。若いチーム、セルビアの前線にはミリンコビッチ・サビッチというイブラヒモビッチを想わせるタレントがいる。早速、「レアル・マドリーが150万ユーロを用意」と報じられていたが、いくらバブル市場でもそれはない。まだ何もやってないのに。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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