効率の悪さ、米国は日本の1.20倍、中国は2.72倍…エネルギー効率を消費量とGDPの関係から検証
エネルギーの消費動向の流れを知る
エネルギーは主に日常生活の営みや経済活動のために消費され、社会、経済の維持には欠かせない存在。その消費量とGDPとの間にはどのような関係があるのか。資源エネルギー庁が2023年6月に発表したエネルギー白書から、日本と諸外国の実情を確認する。
今回スポットライトを当てるGDPとは「Gross Domestic Product」の略で、国内総生産のことを指す。具体的には一定期間内に該当国で生み出された付加価値の総額を意味する。
まずは単純に日本における実質GDPと各部門の消費エネルギーを同一グラフ内に示したものを作成する。GDPの値は2015年水準に換算している。なお実質GDPとは、インフレが起きても影響を受けないGDPのこと。また、伸び率が分かりにくいかもしれないので、日本においてエネルギー政策の大きな転換点となったオイルショック時(1973年)の値を100%とした時の、各値の推移も併記しておく。
・産業部門…第一次、第二次産業で消費されたエネルギー。ただし該当施設の外で、運送などに使われたエネルギーは「運輸部門」に属する。
・家庭部門…家庭が住宅内で消費したエネルギー。
・業務他部門…第三次産業で消費されたエネルギー。また第一次・第二次産業企業に属していても工場などから独立した事務所での消費の場合も該当する。
・運輸部門…人や物の輸送、運搬に消費したエネルギー。
オイルショックを転機に、特に産業部門では省エネ化が進み、エネルギー消費を抑えながらの経済成長が推し進められた。一方運輸部門・家庭部門・業務他部門は右肩上がりで伸びたものの、運輸部門は1990年代に入り省エネ化が叫ばれ、産業部門同様に省エネ効果が見えてくる。家庭部門は21世紀に入るとほぼ横ばいに推移しているが、これは主に家電での省エネ化の成果が出ているといえる。さらに2011年度以降はおおよそ下落の動きを示しているが、これは震災後の一般世帯ベースでの省エネ性向の加速化(電球のLEDへの置換や省エネタイプの家電の浸透)の表れといえる。
業務他部門は2007年度までは成長し続けており、該当する第三次産業の成長ぶりがよく分かる。その分、2007年度以降の金融不況に伴う下落ぶりも目立つものとなっている。なお1990年度に業務他部門が急上昇しているのは、算出方法の変更によるものである。また2020年度に家庭部門を除き大きな落ち込みが生じているのは、新型コロナウイルスの流行による経済の低迷によるものと考えられる。
諸外国との効率比較
日本の実情は以上の通りだが、一部で指摘されているように、日本のエネルギー消費量には無駄が多いのだろうか。それともスマートな経済活動によるエネルギー消費といえるのだろうか。GDPの産出量とエネルギー消費(供給)量で指標を計算し、それを主要国と比較したのが次のグラフ。日本を基準値の1とした場合、他国のGDP算出効率がどの程度のものかを掲載した結果である。この値が小さいほど、エネルギーを効率よく用い、価値を生み出していることになる。
日本は諸外国と比べ、(単純計算ではあるが)いかに少ないエネルギーで富を生み出すことに成功しているのか、その実態が分かる。為替レートの問題なども要因の一つだが、この値の低さは賛美されてしかるべきものといえる。またイギリスの低さが目にとまるが、これは産業構造の違いによるもの。
経年推移を見ると、日本では1990年代の時点でほぼ極限に近い水準にまで達し、それ以降は横ばいで推移していた。
それでもさらに今世紀に入ってからは少しずつ値を小さくしており、さらなる効率化を推し進めている。一方他国では漸次効率化が進み、例えばドイツでは1990年比で46%、イギリスでは53%もの効率化に成功している。日本は28%でしかないが、元々低い値だったのに加え、絶対値で見れば日本が他国を大幅に下回っていることに違いはない。
「世界規模で経済発展を遂げながらエネルギーの節約を推し進める」のであれば、日本やイギリス、ドイツのような高効率の国に無理にさらなる削減を求めるより、効率が悪い国の状態の改善をうながした方が、全体的にははるかに容易に、スマートな形で目標を達成できる。いわゆる二酸化炭素削減問題も似たようなもの。一律同じような絶対値による数字目標を掲げられたら、日本の苦労の度合いは他国とは比べ物にならない状況は、誰の目にも明らかである。
他国と比してエネルギーの効率化云々を語る・精査する場合、まずは現状を正しく認識し、公平な判断の上で行うよう求めたいところだ。
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