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「ミスは怖い?」「怖くない」明治大学、早稲田大学戦を振り返る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
一丸の勝利。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 明治大学ラグビー部は12月6日、東京・秩父宮ラグビー場で早稲田大学との伝統の早明戦を34―14で制した。加盟する関東大学対抗戦Aの2季連続18度目の優勝を果たし、早稲田大学の13季ぶり全勝優勝を阻止した。

 田中澄憲監督、ナンバーエイトでこの日マン・オブ・ザ・マッチの箸本龍雅キャプテン、バックスリーダーでこの日スタンドオフ、センターでプレーの森勇登が会見した。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

田中監督

「厳しい試合でしたけども勝つことができてほっとしています。これも早稲田さんに明治らしさを引き出してもらったから。これから選手権に向けて成長していきたいです」

箸本

「試合前から『明治スタイル』『明治らしさ』にフォーカスして取り組んできました。対抗戦優勝という結果はメンバー23人じゃなくチーム全員が評価される結果。試合に出ていないメンバーを負けた気持ちにさせたくないという思いでこの試合に入りました。

 いままで試合の入りが悪かった。この課題を修正し、いい入りができて、そのなかでこういう結果になった。ここがスタートラインと言っていいくらいだと思っている。どのチームよりも成長しないと優勝できないという自覚を持って取り組んでいきたいです」

「今季はコロナでなかなか試合ができていなくて、1試合、1試合で課題が見つかっていて。きょうの試合で言えば、一昨日くらいにメンバー全員で早慶戦(11月23日の早稲田大学対慶應義塾大学戦)を観て流れを一通り確認したことがあります。いままでのなかで一番準備できた試合。そのなかでもやり切れてない部分があって、まだまだ伸びしろがある。選手権まで準備するところまで準備して、課題を克服して、1試合、1試合しっかり戦っていきたいです」

――「明治スタイル」とは。

箸本

「縦に強いラグビー。迷ったらコンタクト。そこを前面に出していこうと、逆にそれを出せないと、勝てない。自分たちの強みを理解して発揮しようとした」

――試合前の円陣で笑顔を浮かべていたような。

箸本

「『ミスは怖い?』と皆に聞きました。誰も怖いとは言わなくて。何でかっていうと、『準備してきたからだよね。不安要素をなくしてきたから、怖くないよね』と。『思い切り出し切るだけだから、グラウンドに立てる立場に誇りを持って、自信を持って戦おう』と話しました」

 序盤こそ早稲田大学が攻め立てるも、明治大学の箸本が好守を連発。ピンチを脱すると、相手ボールラインアウトのミスを契機に一気に攻め上がる。前半16分、敵陣ゴール前での連続攻撃から箸本がトライを決めた。直後のゴール成功で7―0。

 続く20分には自陣22メートル線上のドロップアウトから一気に攻め上がり、箸本の突破を契機にウイングの石川貴大がトライ。こちらも直後のゴール成功でスコアは14―0となった。

――序盤から好カウンターラックやジャッカルでピンチを摘み取っていた。

箸本

「相手ボールキックオフから始まる。キックで敵陣に行きたかったんですが、相手もいいランナーがいるので自陣に戻されてしまって。自分も敵陣に行きたい、と気を張っていて、『絶対に取り返してやろう』『チーム前に出してあげよう』という思いが、あのプレーに繋がった」

――自身の先制トライと自身の突破をきっかけにした2つ目のトライによって精神的優位に立てたか。

箸本

「自分が獲ったから、とかではなく、いままで先制されてからのラグビーしかできていなくて、今回、結果的に先制できて感じたことは、先制点を取ると気持ちが楽に運べる、自分たちのラグビーがしやすくなるということ。先制点は大事。これから意識して取り組んでいきたいです」

――2本目のトライのきっかけは、ドロップアウトから大きく蹴らずにクイックリスタートで突破したこと。判断の背景は。

'''「クイックでスタートしたのは、ただ蹴るというの(選択肢)もあったんですけど、早稲田の隙突いたら

いたら…と。隙があったのでチャレンジして…」'''

 明治大学はこの日、キックを用いず果敢に攻め続け、結果として陣地の取り合いでも上回った。

田中

「明治と言えばフォワードですが、強い時ってバックスもいい仕事をしていると思います。うちにはバックスでもいい選手が(スポーツ推薦制度によって)来てくれますので、そこで『バックスはパスしないで縦だけ行っとけ』では、やっている本人たちも面白くないじゃないですか。どう? 勇登?」

「バックスもいい選手が揃っていて、きょうもゴール前アタックでもフォワード、バックスが連係したアタックを準備してきました。まだ完璧じゃないけど、出せて、トライにも繋げられた。そこは、よかったと思います」

田中

「…そうなんです」

――よほど自陣の深い位置でない限り、ボールを持てばキックよりもランとパスを多用していたような。

「自陣からだと脱出するんですけど、中盤からの不用意なキックをなくした。継続してアタックした方が明治は強い」

――長期欠場中の山沢京平副将がベンチにいました。

「ハーフタイム中なんですけど、『あんま不用意なキックはしなくていいよ』とはアドバイスしてくれました」

――フォワードが相手の芯からずれて半歩でも前に出ていた。

箸本

「ずらしてレッグドライブというとことはチーム全体的に大事にしていて。この試合だから意識…ということは全くなかった。何がよかったかは早くコミュニケーションを取って、ラックからいち早く3人組くらいでセットしたこと。今週、その改善をおこなっていたことが、いままでしているところを前面的に出せた要因かなと」

 21―7とリードして迎えた後半も、交代選手の好プレーに支えられて勝ち越しを許さなかった。攻防の起点となるスクラムでは終始、優勢だった。

――リードして迎えた後半から齊藤大朗選手を投入。好ラン、同13分のトライなどで光りました。

田中

「最近メンバーが戻ってきたのもあるんですけど、大分、固まってきまして、15人ではなく23人で戦えるチームに少しずつなってきている。リザーブメンバーは(先発が)疲れたから出すではなく、いつでも出せる力を持っている。守っても仕方がないので、どんどん出す。きょうはフロントローもそうですが、(積極的に)メンバー交代をしていった」

――スクラムは優勢だった。

箸本

「今年の早稲田のスクラムは強いと認識していて。リスペクトして準備しました。『強いから押せるだろう』という準備の仕方はしていなくて、『ここを大事にしないと押されるよ』と危機感を持って練習できていた。チャレンジャーのマインドが強かったと思っています」

田中

「去年の1~3番(最前列)が4年生。今年はリザーブを含め新しい選手。1試合、1試合成長していると感じます」

 明治大学は昨季、対抗戦を制しながら大学選手権では2連覇を逃している。相手はこの日ぶつかった早稲田大学。今季の大学選手権で再戦する可能性は、両軍が決勝に進んだ時に限られる。

 さかのぼって11月1日の慶応義塾大学との対抗戦では12―13で落としているが、指揮官がかねて「試合を通して成長する」と語っていたように一歩ずつ進化している。

――去年の大学選手権決勝で敗れた悔しさは、どのような力になっているか。

箸本

「それは僕個人の悔しさなので、それはチームに広める必要はないと思っていて。僕個人の悔しさは僕自身のプレーに活きているだけで。今年のフォーカス、今年のチームは今年のチーム。1人ひとりの持つマインドに対し、僕の悔しさを影響させる必要はないと思っています」

――11月1日の慶應義塾大学戦で負けて、自分たちを見つめ直した。

箸本

「グラウンド内、外を両方、見直した。私生活から取り組みました。具体的に言うとトレーナールーム。ストレッチした道具がいくつか出しっぱなしになっていたり、充電するものが充電しっぱなしになっていたりとか、小さいことがおろそかになっていたので。ラグビーの戦術だけではなく、そういうところ(私生活)が(プレーの質に)繋がると明治は信じている。明治が強くなってきた時に大事にした部分が薄れていたので、そこから見直して、隙のないチームを作り直していこうと話しました」

 大学選手権では19日の準々決勝から登場。日本大学と福岡工業大学の勝者と戦う(東京・秩父宮ラグビー場)。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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