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NiziU韓国デビュー 現地専門家はこう見る「固定観念を変える挑戦になる」

画像はイメージ 筆者作成

10月30日18時。NiziUが韓国での正式デビューを果たした。デビュー曲「HEATRIS」の音源が公開されたのだ。

はたして彼女たちの挑戦は、韓国ではどう見られているのか。

デビュー前日の29日、現地で大衆音楽評論家/音楽コラムニストとして活動、KBSラジオのレギュラー番組のほか多くの媒体で執筆するキム・ユナ氏に韓国語でじっくりと話を聞いた。

NiziUが韓国デビュー曲で伝えたいこととは? 所属事務所による公式リリース全文紹介

――まずはざっくりと、韓国では今のNiziUがどう見られているのか。その点からお聞きしたいです。

「韓国全体のお話をしましょうか? 私の個人的な印象にしましょうか?」

――まずは個人的な印象を。

「今年のはじめに、日本と韓国で彼女たちに二度インタビューをしました。韓国の『TVING』というサブスクのプラットフォームで放送された『K-POPジェネレーション』というドキュメンタリーの第4話で‘What the K’というテーマでした。NiziUとLE SSERAFIMはそのテーマにぴったりなグループでしたね。

まずはメンバーたちが、韓国メディアには韓国語で話したいという意志が非常に印象的でした。これはLE SSERAFIMのサクラ、カズハも同じことでした。二人は100%韓国語で話しましたね。NiziUに関して言えば、深い話はどうしても日本語になってしまう面はありましたが(注キム・ユナ氏は日本語も話せる)、その熱意は印象的でした。

いっぽう、NiziUのメンバーたちが話していた内容について印象的だったのが、こういった点でした。

メンバー同士がとても仲が良い話

各自がこのチームを通して若き日の思い出を作っていきたいと考えている点

ファンとの交流を通じて成長していく希望

もっと良い人になりたいと願っていること

なぜなら、それらは韓国人のアイドルたちと大きな違いがなかったからです。現場にいる彼女たちは『韓国と日本』や『K-POPとJ-POP』の違いはあまり意識することなく今の時間を過ごしているんだな、という印象でした。

最近、韓国のK-POPアイドルたちは『自分が一番輝く瞬間を、自分を愛してくれる人たちと共有したい』という話をよくしますが、これにも共通するものがあるなとも感じました。とても魅力的でしたよ。

合わせて、日本での取材を通じて彼女たちの日本での人気の高さも実感しましたよ。ファンの年齢層が非常に幅広いことに驚きました。若い女性はもちろん、男性、おばあちゃんやおじいちゃんまで応援していますよね」

――韓国でのデビュー曲「HEARTRIS」のティーザー(先行公開動画)はご覧になりました?

「見ました。TWICEの初期のかわいらしさと、最近の『ティーンクラッシュ』の中間にいるように感じましたね。STAYCやKep1erにも近いというか。30日に楽曲が完全に公開になったものを見なければなりませんが、ティーザーを見る限り、K-POPのかわいいラインを懐かしく思っているファンを刺激しつつ、最近のトレンドを衣装などで活かそうとする考えが見えますね」※インタビューはフルバージョンのMV公開前日に行われた。

――韓国全体での印象はどういったところでしょう。彼女たちの日本での認知度をぐっと高めたオーディション番組「Nizi Project』は韓国では放映されなかった。これはよく聞く話です。

「もちろん、NiziUは韓国の業界の中では知られている存在ですよ。私自身も噂でNiziU、そしてパク・ジニョン氏(J.Y. Park)が日本でかなり人気を博していると聞きました。パク氏自身がアイドル級の人気で、本も出したんでしょう? ただ一般的にはそのプログラムでデビューしたグループがどのように活動しているのか、どれくらい人気があるのかは、あまり知られていない状態です。仮に日本でデビューしてすぐに韓国でデビューしていたら話題性も違ったかな、という印象はあります。新型コロナの影響もあったでしょう。3年待ったのは、少し残念に思うところです」

――お話の通り、日本では大いなる人気のあるグループが「認知度はこれから」という地・韓国でデビューします。心配はやっぱりありますよ。まずは韓国の歌唱、ダンスのレベルの高さです。確かに彼女たちはJYPのシステムのなかで育成されてきた。ただ、実際に韓国の目の肥えた音楽ファンからどういう評価を受けるのだろう。そこは気にかかるところです。

「そうですかね? 彼女たちの魅力が発揮されれれば、しっかりとした反応が得られると思います。そんなに否定的には思わないです。去年の終わりにNiziUのツアー公演を見に行ったのですが、パフォーマンスは非常に良かったですよ。

ただ、確かにご心配される点が分からないわけでもありません。日本人メンバーも参加した『Produce 101』のようなサバイバル番組で、韓国側ではそういった反応が続いていたからです。

そういった固定観念はすぐに変わるものではありません。しかし、私はここ数年で少しずつ変化が起きていると思うのです。例えば、最近の『MISAMO』や、『Kep1er』の日本人メンバーそして、『XG』を見るに驚くことが多いです。最近、K-POPで活躍している日本人メンバーは、自分自身の魅力と優れたスキルでアピールすることが当然であり、そういった姿でファンから愛され、一人のプロフェッショナルとして成長していますよね。これはK-POPの典型的な成長ストーリーに乗ったメンバーにも共通して見られる特徴です。特にそれが強く感じられるのは、LE SSERAFIMの咲良とカズハ、Billlieのツキ、RIIZEのショータロー、などです。これがK-POPの日本人メンバーたちの変化だと思うのです」

キム・ユナ氏 本人提供
キム・ユナ氏 本人提供

―NiziUについてもうひとつの「心配事」が、韓国人メンバーが一人もいない点です。韓国でバラエティ番組に出演した際、一人ネイティブスピーカーがいて、話をリードしたほうがいいんじゃないかと。

「確かにこれまでのK-POPグループは、メンバーの中に日本人を一人入れたり、タイ人を一人、英語が得意なメンバーを入れたりして、その国に行って親しみやすくコミュニケーションを取るという手法を取ってきました。今でも各種の外国語教育がヴォーカルやダンスと同じくらいに重要なものだと見られています。これはK-POPの一種のテクニックのようなもので、第1世代から非常に多くの試みがありました。実際に、外国で活動していくにあたり、一番簡単で速い方法です。

だから、おっしゃる点については十分に理解できる部分です。しかし、今から韓国のメンバーを加えるわけにはいかないですよね。NiziUに関してはまだデビューしていないのでわかりませんが、最近LE SSERAFIMの咲良さんがバラエティに出ているのを見て、本当に凄いと思いました。一言で言って上手い。言語だけが重要なわけではなく、本当にセンスとフィーリングでバラエティをこなしていました。

――「知っている兄さん(アヌンヒョンニム/ケーブルテレビ「JTBC」)」ですよね。確かにあの番組での咲良、カズハはすごかったです。いっぽう、そこには韓国語が元々堪能なチェウォン、ウンチェ、ユンジンらがいて、日本人の二人がいたから活きたのでは。そうも思いました。

「そうですよね。ただ、この時の咲良さんの姿を見て気づくところがありました。最終的には『韓国語をいかに上手く話すか』よりも、韓国語でどれだけ親しく韓国の人々とコミュニケーションを取ることができるか。そこがむしろキーポイントではないかと思うのです。

確かに、韓国のアーティストが逆に日本に進出する時のことを考えても言語は『最重視するもの』であり続けています。日本語で歌えるだけではなく、日常会話もできるレベルでなければならないと。BoAさんが代表的な例ですよね。またSHINeeは日本人メンバーがいなくともキーのように日本語が流暢なメンバーがいて、現地でのコミュニケーションにも問題がない。

ただ、そういった固定観念も近頃の日本人メンバーの姿を通じ、変わっていくのではと思うのです。加えて、バラエティ番組出演というのはあくまでサブ的なもので、やっぱり音楽番組やステージでどういったパフォーマンスを見せるのか。韓国ではそこが重要だと考えます」

――ではここから始まるNiziUの韓国での活動、どういったラインが韓国では「成功」とみなされるでしょうか?

うーん、難しいですね。逆にお聞きしたいですよ。どう思いますか?

――韓国社会では分かりやすい数字での結果が日本より求められるので、いずれ音楽番組の1位は獲ってほしいですよ。そして仮にここ数年のガールズグループの「ガールズクラッシュ(女性が憧れる、主張できてカッコいい女性像)」の流れをちょっとでも変えられたら、「NiziUすごい」となるんじゃないかと。それも日本っぽい、とも言っていいかわいらしさで。個人的にはNiziUが韓国デビューするのなら「K-POPのガルクラの流れを変えるダークホースになると面白い」という見方をしてきました。

「私は…韓国で『ああ、NiziUという良いグループがいるね』と世間話で出てくるという点でも、すごくいい成果だと思うんですよ。

まず、韓国内ではガールズクラッシュ隆盛の時代にも変化が出てきていますよね。2018年以降にデビューした『第4世代』と比べて、最近では強烈なガルクラは少なくなっている。確かにDreamcatcherが同じコンセプトを維持していますし、LE SSERAFIMのようにパフォーマンスを重要視するチームは、強いサウンドを入れてきていますが。

とはいえ、2023年のK-POPのトレンドは『イージーリスニング』にあります。聞きやすい音楽、心地よい音楽、プレイリストに適した音楽、そしてポップな音楽です。New Jeansが流れを変えたと言われています。流れが変わってきている点は、NiziUにとってはプラスでしょうね」

――日本人だけのグループが韓国デビューするのは初めて。どうなるのか、予測がつかない点が多いです。

「NiziUは『K-POPとJ-POPの境界線にあるグループ』ではありますが、韓国の一般層のなかでは『日本のグループ』という確固たるアイデンティティがあります。この”強み”もまた、いままでにない活かし方ができると思うんです。

最近の韓国のMZ世代は、外国文化を受け入れる時『何が何でも日本文化』『とにかくアメリカのもの』といったやり方はしなくなってきています。『これすごくいいんだけど、日本のものだったの?』『あ、この歌手はイギリスの人なんだね』という風に、好きなものをその国籍より先に認識する人が増えているんです。

K-POPの話をする人々の中でも、一つのグループを丸々好きになるより『この曲がいい』『このメンバーが好き』といった好み方が増えてきています。だからNiziUも『この楽曲がいい』といったアプローチをしてもらえるよう考えた方が、成功の確率が高まるのではないかと思います。なぜなら『日本のグループ』あるというアイデンティティは確固たるもので、変わらないからです。いっぽう、韓国の市場に対するアプローチ方法は変えられます。

別の言い方をすると『日本人グループ』ということを打ち出しすぎたり、J-POPやK-POPに固執したりすると困難になりうるでしょう。さらに今、韓国と日本は文化的に非常に自由で平和に交流していますが、まだ政治的な面や他の面で少し気まずい部分もあり、国民の感情という面で反対する意見も存在はすると思います。

だからこそ、彼女たちの提供するコンテンツが良く、韓国のより多くの人たちの好みを正確にキャッチして、良いものを完成度高く見せること。それを考えることが、韓国での最も早い成功への道ではないかと考えます」

――状況はどんどん変化している。日本で見る側も固定観念を変えていかなければならない。そういうお話とも受け取りました。

「もうひとつ、NiziU(ニジュー)の韓国デビューについてのご心配について話したいことがあります。いま、K-POPはローンチされた瞬間から、韓国だけでなく世界中の多様なファンに出会うのが基本でしょう。韓国だけを考慮するのはもしかしたら以前の考え方かもしれません。既に活動中のK-POP歌手の多くは、デビューから音楽、ダンス、プロモーションまで全てを世界規模で計画しています。

ただし、それでも多くのK-POPグループがいまでも韓国市場での反応も非常に重視しています。無視しているわけではありません。韓国を活動の基盤としているケースが多いのも事実です。その韓国市場では、最近『高レベルの標準化』が囁かれています。つまりは全てのグループの『パフォーマンスの実力が高すぎる』。これは長所であり、難点でもあります。『新人なのに新人らしくない』というグループもとても多い。どんな歌手であれ実力のベースがなければ成功にチャレンジすらできない。そういったことが最近は常識になっていますね」

日本のデビューから3年を経ての韓国正式デビュー。その間にK-POPを取り巻く状況は変わった。ファンの意識が変わり、トレンドが変わり、日本人メンバーを巡る視点も変わった。それはJ.Y. Park氏が2020年当時に想像した姿と一致するだろか。NiziUの韓国での姿は、日本にいながら韓国社会の変化をダイナミックに感じる、そういう機会にもなるのではないか。そんなことを思った。固定観念に縛られてそれを見るのは、ちょっともったいないのだ。

関連記事:NiziUが韓国デビュー前に語っていたこと 「J.Y. Parkの教え」「自分たちの強み」 =インタビュー全文翻訳

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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