シリアで続くドローン戦争:ロシア、トルコ、米国、反体制派の乱戦
シリアでは8月半ばに入り、政府を支援するロシア、アル=カーイダを主体とする反体制派を後援するトルコ、クルド民族主義勢力を後押しする米国が入り乱れるかたちで、ドローンを投入した爆撃が再び激しさを増している。
イドリブ県での航空戦を繰り広げるロシア軍と反体制派
シリア北西部のいわゆる「解放区」では、8月16日、「決戦」作戦司令室がイドリブ県ザーウィヤ山地方のバイニーン村近郊の灌木地帯上空で、ロシア軍所属と思われる武装した無人航空機(ドローン)1機を撃墜した。
「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構と、トルコが全面支援する国民解放戦線(国民軍、Turkish-backed Free Syrian Army (TFSA))を主体とする武装連合体。
「決戦」作戦司令室の支配下にあるザーウィヤ山地方では、シリア軍とこの「決戦」作戦司令室の砲撃戦が続いており、ロシア軍は偵察用ドローンを派遣し、同地上空で索敵行動をとってきた。
だが、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、撃墜されたドローンは武装していたという。
その2日後の8月18日、ロシア軍はラタキア県フマイミーム航空基地に配備している戦闘機複数機で、「決戦」作戦司令室の支配下にある県北部のシャイフ・バフル村、マアッラトミスリーン市一帯、ハルブヌーシュ村を爆撃した。
爆撃は1時間にわたり続き、その回数は17回に及んだという。
トルコの影響下にある県北部に対してロシア軍が爆撃を加えるのは異例。
これに対して、「決戦」作戦司令室は、ザーウィヤ山地方に飛来したロシア軍のドローン3機を相次いで撃墜した。
ドローンが撃墜されたのは、カフルタハーリーム町近郊、サルマダー市西、ビダーマー町の上空で、いずれも「決戦」作戦司令室の支配地。
なお、反体制派に停戦を遵守させることを求められているトルコ軍も攻撃に晒されている。
トルコ軍は8月17日、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路でロシア軍との合同パトロールを実施した。
だが、アリーハー市とムサイビーン村を結ぶ区間で、トルコ軍の装甲車に向かってRPG弾が打ち込まれ、同車が損傷を受けた。
これまで、合同パトロール部隊への攻撃では、ロシア軍の装甲車が標的となっており、トルコ軍が狙われたのは異例。
トルコ軍による爆撃もにわかに激化
トルコの占領下にあるシリア北部一帯に目を向けると、シリア政府と北・東シリア自治局が共同統治を行う地域へのトルコ軍の攻撃がにわかに激化している。
シリア人権監視団によると、8月17日、トルコ軍のドローンが、ラッカ県北部のアブー・サッラ村近郊に展開するシリア民主軍の検問所を爆撃、シリア民主軍の兵士2人が死亡、複数人が負傷したのである。
トルコ軍のドローンはまた、同地を巡回するシリア民主軍の車輌に対しても爆撃を加えて、乗っていた兵士1人が負傷したほか、トルコ軍地上部隊とその支援を受ける国民軍も同地を砲撃し、兵士複数人が負傷した。
北・東シリア自治局はクルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)が主導する自治政体。またシリア民主軍は、クルド人民兵組織の人民防衛隊(YPG)を主体とする北・東シリア自治局の武装部隊で、米国の全面支援を受けていることは周知の通りである。
トルコ軍のドローンはさらに、アイン・アラブ(コバネ)市郊外上空にも飛来した。だが、同地に駐留するロシア軍部隊がこれを撃破した。
なお、シリア人権監視団によると、ロシア軍は、これに先だって8月15日にも、ハサカ県アームーダー市上空に接近してきたドローンと思われる飛翔体を撃破している。
ハサカ県で横暴な行動を続ける米軍
一方、シリア北東部のハサカ県では、米軍が横暴な行動を続けている。
国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、米軍の航空機複数機が8月17日、カーミシュリー市西のタッル・ザハブ村にあるシリア軍の検問所を爆撃し、シリア軍兵士1人が死亡、2人が負傷した。
シリア人権監視団によると、タッル・ザハブ村の検問所に進駐するシリア軍部隊が、ハサカ県やダイル・ザウル県に違法に駐留を続ける米軍のパトロール部隊の通行を阻止し、口論となり、その直後、米軍の航空機複数機が検問所を爆撃したという。
米軍航空機の攻撃を受け、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるハサカ市とカーミシュリー市では、8月18日に抗議デモが行われた。
デモに参加した住民らは、シリア軍との連帯を表明するとともに、米軍とトルコ軍の占領に反対を表明、その撤退を求めた。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)