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浦和の堅守を支える右サイドバック、栗島朱里。4シーズンぶりの開幕戦勝利を牽引した影のファインプレー

松原渓スポーツジャーナリスト
開幕戦勝利を飾った浦和(対ノジマ戦、2018年3月21日/栗島は背番号6)(写真:松尾/アフロスポーツ)

【開幕戦勝利】

 3月21日(水)、全国各地でなでしこリーグが開幕した。

 関東圏は久々の雪に見舞われた中、浦和駒場スタジアムで行われた一戦は、ホームの浦和レッズレディース(以下:浦和)がノジマステラ神奈川相模原(以下:ノジマ)を迎え、2-0で勝利。浦和が開幕戦で勝利するのは4シーズンぶり。2014年以来のタイトル奪還に向け、幸先の良いスタートを切った。

 試合後、選手たちはサポーターと共に勝利の凱歌である「We are Diamonds」を歌い、余韻に浸った。

「トップチームが(勝った後に)歌っていて圧倒されていましたが、今日、初めて自分たちがサポーターの皆さんと一緒に歌って、感動しました。何回でも味わいたいですね」

 この試合で先制点を決めたFW吉良知夏は、今シーズンから始まった新たな習慣をそう振り返り、ビッグクラブの一員である誇りをにじませた。

 浦和は昨シーズン、リーグ戦を3位でフィニッシュ。3連覇を達成した日テレ・ベレーザと2位のINAC神戸レオネッサに勝てず、タイトル奪還のために避けて通れない”リーグ2強”の牙城を崩すことはできなかった。

 心機一転、今シーズンはチームを率いて2年目となる石原孝尚監督の下、より攻撃的なスタイルで優勝を目指す。

 このノジマ戦では、4-4-2の2トップにFW安藤梢とFW菅澤優衣香が並び、さらに、昨シーズンまでトップでプレーしていた吉良が左サイドハーフで起用された。

 石原監督は、

「もう少し(戦い方が)安定してきたら、FWタイプの選手を4〜5人、(同時に)出したいと思っています」

 と、さらなる攻撃のオプションも明かしている。

 その背景には、FW白木星(あかり)やFW清家貴子をはじめ、ゴールに飢えたストライカーたちが、控えに多くいることが挙げられる。また、気の利いたポジショニングで攻守のバランサーになれるMF佐々木繭の加入も、攻撃的なチャレンジを後押しする。

 この試合、立ち上がりはノジマが粘り強い守備で主導権を握ったが、浦和の守備は安定しており、失点する気配はなかった。

「立ち上がりの10分、15分は、ノジマは奪って前に出ることが狙いだと思っていました。シンプルに狙いがはっきりしている分、相手が優勢になる可能性もあると考えていたんです。ただ、時間とともに相手も攻めなければいけなくなるので、その時間帯が来るのを待っていました。試合が落ち着くまでの間にカウンターから失点しないという点では、(試合運びが)安定してきたと思います」(石原監督)

 浦和は前半16分に吉良、20分にMF柴田華絵がゴールを決めて主導権を取り、その後はノジマの勢いをうまく牽制しながら3点目を狙い、無失点で試合を締めくくった。

 90分間を通して浦和の安定したゲーム運びを支えていたのが、前線からのハードな守備だ。球際のコンタクトや五分のボールへのスライディングなど、一つひとつの局面で「勝ち」へのこだわりが強く感じられた。

 昨年、ドイツから7年半ぶりに浦和に復帰したベテランの安藤がチームに示してきた「戦う姿勢」が、チーム全体のスタンダードになった印象だ。その要因を選手たちに聞くと、特に示し合わせたわけでもないのに、同じ答えが返ってきた。

 

「普段の紅白戦から、バチバチ戦っていますから」。

 浦和の登録メンバーは、1部最多の28名。当然、ベンチ入りの競争も厳しく、紅白戦には、試合本番さながらの緊張感と激しさがあるという。競争の中で積み重ねた日々の鍛錬の成果が、開幕戦のピッチに現れていた。

【ピンチの芽を摘んだ栗島】

 この試合、守備で特に効いていたのが、右サイドバックのDF栗島朱里(あかり)だ。

 1対1で相手をガツンと潰したり、タッチライン際を単独で突破するような派手さはないが、的確なポジショニングでピンチの芽を摘み、安定感のあるボールタッチでゲームを作れる。

 また、技術的なミスもそうだが、判断のミスが少ない。危険な場面は常に顔を出し、ノーファウルで冷静に対処する。

攻守に効いていた栗島朱里(写真左、右は猶本光/対ノジマ戦、2018年3月21日(C)松尾/アフロスポーツ)
攻守に効いていた栗島朱里(写真左、右は猶本光/対ノジマ戦、2018年3月21日(C)松尾/アフロスポーツ)

 たとえば、2点リードで迎えた65分。相手コーナーキックの場面で、ノジマのMF高木ひかりにゴール正面の至近距離から頭で合わせられたシュートは決定的だったが、栗島がゴールの中からボールをかき出してピンチを救っている。この場面では、GK池田咲紀子が飛び出したことを確認し、いち早くゴールにカバーに入った危機察知能力の高さが光った。

 もっと印象的だったのは、74分のプレーだ。

 浦和の左コーナーキックを、ノジマのGK久野吹雪がキャッチした際、浦和は攻撃に人数をかけており、唯一、自陣に残っていたのが栗島だった。

久野はカウンターを狙い、手薄になった浦和の最終ラインの背後を狙ってライナー性のフィードを送った。栗島は、ボールの落下地点に走りこんでいたノジマのFW川島はるなのマークにつくために左サイドに向かったが、ボールは途中で味方選手の足に当たり、軌道が変わってピッチ中央に流れた。

 そこに、ノジマのMF田中萌(めばえ)がタイミングよく走り込んだ。浦和の選手たちは懸命に守備に戻るが、間に合わない。ここで、栗島は1対2の状況を迎えた。

「下がって、みんなが戻ってくるまで(ノジマの攻撃を)遅らせようと思ったんです。でも、(雨でピッチが濡れて)ボールが意外と滑っていたし、相手との距離感もあったので、これは行くしかない、と」(栗島)

栗島は、首を振ってボールの軌道が変わったことを確認すると、自陣ゴール側から反転。その勢いのまま、ボールに向かって走りこむ田中に向かって進路を防ぐようにスライディングした。

 この場面で、栗島がスライディングに行かなければ、そのまま田中に中央突破される可能性があり、行ってもボールに触れなければ、フリーで前方に走っていた川島にパスを通され、GKと1対1に持ち込まれる可能性が高かった。どちらもリスクはある。判断する時間は1秒もなかったはずだ。

 ここで、ピッチコンディションや相手のスピードなど、状況を一瞬で把握した栗島の計算と予測は正しかった。一歩早くボールに追いついて、ボールをブロック。痺れるプレーに、スタンドから拍手が湧いた。

 その危機察知能力の高さには、元ボランチだった経験が生きている。

 栗島は、もともとボランチが本職で、年代別代表でのプレー経験もある。サイドバックにコンバートされたのは、ケガ明けの2015年。戦術理解度の高さもコンバートの決め手となり、新しいポジションにスムーズにフィットした。

 サイドバックとして4シーズン目を迎える今シーズン、栗島はどのようなテーマを自分に課しているのか。

「まずは守備で、右サイドから相手に突破されないようにすることです。それと、今シーズンは攻撃面でもっとチャレンジしたい。サイドバックのポジションで、監督から求められていること以上の結果を残していきたいですね」(栗島)

 この開幕戦では早速、攻撃面でも「結果」を残している。

 前半16分に、先制点に至る流れを作ったのが栗島だ。タイミングよく右サイドを駆け上がってDF長船加奈のサイドチェンジを引き出し、吉良の先制点をアシストした。

 シュートを打てる場面で、あえて吉良へのパスを選択したように見えたが、栗島は試合後、こんな風に告白している。

「あれはシュートだったんです。それが、自分でも予想つかないところに行っちゃって……。記録上は、シュートになっていないと思いますけど(笑)。(吉良)知夏さんが決めてくれて良かった!」(栗島)

 最後は、結果オーライ!と言わんばかりに、お茶目に締めくくったが、攻撃面でもチームに貢献できた喜びは、しっかりと表情に表れていた。今シーズン、栗島のゴールが見られる日も、そう遠くないだろう。

 浦和は次節、3月24日(土)、アウェイのニッパツ三ツ沢球技場で日体大FIELDS横浜と対戦する。中2日のタイトなスケジュールだが、開幕スタートダッシュを成功させるためにも、重要な一戦になる。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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