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漂白剤は新型コロナウイルスの“特効薬”ではない

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

漂白剤やワインビネガーは新型コロナウイルスの“特効薬”ではない――。

新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大が続く。昨年末の中国・武漢の感染公式発表から1カ月で、感染者数は1万人を突破。世界保健機関(WHO)「非常事態」を宣言した。

急拡大に伴うデマや根拠のないうわさの拡散も止む気配がない。

※参照:中国コロナウイルスでフェイク拡散:それは“ビル・ゲイツの陰謀”ではない(01/26/2020

世界30カ国の38のファクトチェック団体は、国際ファクトチェッキングネットワーク(IFCN)と連携し、1月24日から新型コロナウイルスにまつわるデマなどの洗い出しに取り組み、29日までに86のケースを確認したという。

特に目につくのは、ワクチンや治療薬がまだ存在しない新型コロナウイルスの「治療薬」「治療法」と称する様々なデマだ。その中には、人体に有害だとして、10年前から政府機関が警告している「漂白剤」も含まれている、という。

WHOの2月2日付の発表では、すでに世界の感染者数は中国以外でも日本や米独仏など23カ国、計1万4,557人(うち中国1万4,411人、全体の99.%)に上る。

さらにグローバルな拡大が続けば、デマやうわさの発信源、拡散地域も広がっていく可能性がある。

●「万能の特効薬」

「これは致死性のウイルスを死滅させる」

米国で1月24日深夜にツイッターに投稿された書き込みには、「がんは消え、糖尿病も消え、自閉症も消えた、関節炎も消えた」との触れ込みのユーチューブ動画が添付されていた。ただ、この動画は、ユーチューブがすでに削除している。

米国のファクトチェックサイト「ポリティファクト」や「デイリービースト」、「ビジネスインサイダー」などによれば、このツイートが取り上げていたのは、「MMS(ミラクル・ミネラル・ソリューション)」などと呼ばれ、「万能薬」として長くネット上で販売されてきたものだ。

米食品医薬品局(FDA)は新型コロナウイルスの感染が明らかになる5カ月前の2019年8月、この「MMS」と類似品についての警告を発表。「MMS」を服用することで「深刻で命にかかわる可能性の副作用がある」と指摘している

販売業者は虚偽の危険な効用を掲げている。MMSをクエン酸と混ぜることで、抗細菌、抗ウイルス、抗バクテリアの液体となり、自閉症、がん、エイズ、肝炎、インフルエンザなどの治療薬になる、という。だがFDAは、いかなる疾病の治療においても、これらの製品が安全かつ効果がある、とする研究結果は把握していない。

FDAの警告によれば、「MMS」は28%の亜塩素酸ナトリウムを含んだ水溶液で、レモンやライムジュースなど、クエン酸と混ぜて服用するように、と説明されているという。そして、これらを混ぜると、強力な漂白作用のある二酸化塩素となり、通常は殺菌や繊維の漂白など工業用途に使われるものだという。

米食品医療品局(FDA)のサイトより
米食品医療品局(FDA)のサイトより

FDAは、「MMSの服用は漂白剤を飲むということ」と指摘。

「MMS」の服用により、嘔吐、猛烈な下痢、脱水症状による命にかかわる低血圧、急性肝不全などの症状が報告されている、という。

「MMS」について、FDAは2010年に最初の警告を発表したが、なおネット上での販売は続いているという。

●ワインビネガー、漢方薬、アルコール

「ワインビネガーに新型コロナウイルスの解毒効果がある」――トルコでは、フェイスブック傘下のメッセージアプリ「ワッツアップ」でそんな情報が拡散しているという。

トルコのファクトチェック団体「テイット」は、その内容を検証。

論文データべース「パブメド」の検索やトルコの臨床微生物学・感染症協会への取材などから、新型コロナウイルスに対するそのような効果は確認されていないとし、「誤り」と判定している。

酢(ビネガー)に関連する流言は、中国にもある。

香港の英字紙、サウスチャイナ・モーニング・ポストは、燻製ビネガーに漢方の「板藍根」を混ぜたものの服用が新型コロナウイルスによる肺炎治療に効果がある、とする流言について、中国国家衛生健康委員会が否定した、と報じている。

台湾ファクトチェックセンターも、「武漢肺炎はSARSウイルスの強力な進化型としてSARIと命名、このウイルスには酢酸が効果あり」とのうわさを検証。

SARSと新型コロナウイルスは別物、とのWHOの発表などからその前半を否定。さらに、専門家への取材からビネガーの効果も否定している。

同センターはこのほか、「新型ウイルスは高温に弱く、56度30分で死滅する。医療用アルコールの殺菌も効果的」とのうわさも検証

専門家への取材から、コロナウイルスに高温やアルコール除菌が効果があるのは事実としながら、室内の除菌などの用途で、感染した患者への効果はない、と判定している。

●マスクの正しいつけ方

マスクの着用法についての間違った情報も、スリランカ、フィリピンのフェイスブックユーザーの間で拡散している。

AFPによると、これらの国で流通する表裏が青白2色のマスクの着用法について、「自分が罹患している場合は青を外、予防に使う場合は白が外」が「正しい着用法」とする病院名が入った画像が1月22日にフェイスブックに投稿され、890回以上も共有されたという。

だが、香港大学公共衛生学院教授の司徒永康氏によると、これは防水加工が施された青い面を外側、吸湿性を持つ白い面を内側にすることで、外部からの飛沫の侵入と、内側からの細菌・ウイルスの拡散を防ぐことになる、という。

●感染の拡大とともに

WHOの2月2日の発表によれば、中国の感染者は1万4,411人で前日の2月1日から2,590人の増加。中国での感染者数の増加は1月28日以降、28日(1,796人)、29日(1,460人)、30日(1,739人)、31日(1,984人)、2月1日(2,102人)と毎日1,500~2,000人という規模で急増している。そのうちの60~70%が武漢のある湖北省の感染者だ。

中国国家衛生健康委員会の2月2日の発表では、感染者数1万4,380人(2月1日深夜現在)とWHOの発表と多少のずれがあるが、感染の疑い例1万9,544人、感染が確定した人との濃厚接触13万7,594人が経過観察中だとしている。

また、中国国外でも、日本の20人を含めタイ(19人)、シンガポール(18人)、韓国(15人)、オーストラリア(12人)と二桁の感染者がいる国も広がっている。

冷静な情報判断が、さらに重要になってくる。

(※2020年2月2日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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