ロシア「AIボットファーム」の偽アカウント968件を米国などが摘発と発表
ロシア「AIボットファーム(工場)」の偽アカウント968件を米国などが摘発した――。
米司法省などは7月9日、ロシアによるAIを使った偽情報拡散のためのボットファームが判明したとして、関連する2件のドメイン名と、968件のソーシャルメディアアカウントの摘発を発表した。
司法省によれば、この「AIボットファーム」はロシア国営メディア「RT」副編集長がAIを使った専用ソフト開発を主導し、政府の資金提供を受け、ロシア連邦保安庁(FSB)諜報部の職員が組織的な主導をしていたとしている。
「AIボットファーム」は米国のほか、ポーランド、ドイツ、オランダ、スペイン、ウクライナ、イスラエルなどを標的に偽情報の拡散をしていたという。
この「AIボットファーム」はXを舞台に展開されており、Xはこれらのアカウントを停止したとしている。
●"本物らしい"ペルソナ大量作成
米連邦捜査局(FBI)と米国防総省サイバーナショナルミッションフォース(CNMF)が、カナダのサイバーセキュリティセンター(CCCS)、オランダの総合情報保安局 (AIVD)、軍情報保安局 (MIVD)、国家警察 (DNP)が、7月9日に発表した「共同サイバーセキュリティ勧告」の中で、そう述べている。
今回の摘発で焦点が当てられているのは、偽情報生成・拡散までをワンストップで担うとされるソフト「メリオレーター」だ。実名は明らかにされていない「RT」の副編集長が開発を主導。アカウントの量産、コンテンツ生成、拡散までの機能を持つという。
「メリオレーター」のアカウントの設定機能では、居住地、政治的イデオロギー、バイオグラフィーなどを作成。さらに、生成・拡散機能として下記のようなものがあるという。
「AIボットファーム」はどのような偽情報を拡散したのか。
今回の発表で取り上げているのは、ミネソタ州ミネアポリス在住としたボットアカウント事例だ。ロシアのプーチン大統領が、ポーランド、ウクライナ、リトアニアの特定の地理的地域は、第二次世界大戦中にナチスの支配から解放したロシア軍からの「贈り物」であるとの主張を語る動画を投稿していたという。
また、これとは別の米国居住者と称するボットアカウントの例では、ウクライナ軍の外国人戦闘員が公称よりも大幅に少ないと主張するビデオを投稿していたという。
FBIのクリストファー・レイ長官は、そんなコメントを出している。
●「選挙の年」のAIと偽情報
世界で重要選挙が相次ぐ「選挙の年」に生成AIの急速な高度化が重なり、ディープフェイクスなどを使った偽誤情報の拡散によるリスクが指摘されてきた。
オープンAIは5月、中国、ロシア、イランなどの外国勢力が、同社の生成AI「チャットGPT」などを使った、欧米や日本などの世論に影響を与えることを狙う「影響工作(IO)」キャンペーンの実態を報告書にまとめている。
報告書では、ロシアの「ドッペルゲンガー」、中国の「スパモフラージュ」などの影響工作ネットワークでのチャットGPTなどの使用実態の一端を明らかにした。
※参照:「原発処理水」非難、中ロの影響工作にチャットGPT、そのインパクトとは?(05/31/2024 新聞紙学的)
「選挙の年」を巡るAIによる偽誤情報拡散の実態が、徐々に明らかになってきている。
(※2024年7月10日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)