米大統領選で急浮上、「ハリス氏攻撃」の焦点とは?
米大統領選で急浮上した、「ハリス氏攻撃」の焦点とは?
ジョー・バイデン米大統領が7月21日、1カ月後の民主党全国大会を前に、大統領選から撤退し、候補としてカマラ・ハリス副大統領を支援すると表明した。
1952年のトルーマン元大統領、1968年のジョンソン元大統領以来という、きわめて異例な現職大統領の選挙戦撤退の正式表明。
そして、劇的な展開が続く今回の大統領選の、新たな局面を受けた情報の拡散は、バイデン氏の「撤退表明」直後から始まっていた。
大統領選の新たな標的となったハリス氏に的を絞った攻撃のキーワードは、「隠ぺい」「左翼」「移民」だ。
トランプ氏の支持団体は、バイデン氏が「撤退」をXで表明してから1時間後には、ハリス氏に焦点を当てたキャンペーン動画を公開した。
攻防は、すでに過熱の様相を見せている。
●ハリス氏攻撃に一斉に動き出す
トランプ氏のスーパーPAC(特別政治活動委員会)「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」は、21日午後2時47分(米東部時間)、そんなナレーションのついた、ハリス氏に照準を当てた30秒の選挙動画をXに公開した。
バイデン氏はその61分前、午後1時46分に「再選を目指すつもりだったが、私は撤退し、残りの任期を大統領としての職務を全うすることのみに専念することが、党と国にとって最善の利益であると信じている」とXに投稿。
さらに午後2時13分、大統領候補としてのハリス氏への支持を投稿している。
これ受けてハリス氏も同日午後4時31分に、「大統領の推薦をいただき光栄に思う。私はこの指名を獲得し、勝ち取るつもりです」とXに投稿した。
トランプ陣営が選挙動画を公開したのは、バイデン氏が選挙戦撤退を明らかにしてから61分後、後継候補としてハリス氏支持をしてから34分後というタイミングだった。
動画にはハリス氏の映像とともに、「国境危機」「狂乱インフレ」「持ち家のアメリカンドリームは死んだ」のテロップが映し出される。
「ジョー・バイデンの左翼的な政策実績は、すべてカマラ・ハリスによるものだ。 唯一の違いは、彼女はジョーよりもさらにリベラルで能力が低いことだ。 彼女は国境管理を任され、我々は史上最悪の不法入国者の侵入を目の当たりにした!!!」。ドナルド・トランプ・ジュニア氏は同日午後2時58分に、トランプ前大統領のソーシャルメディア「トゥルースソーシャル」にそう投稿した。
トランプ氏自身も午後3時19分、「トゥルースソーシャル」に「悪党ジョー・バイデンは我が国史上、圧倒的に最悪の大統領だ。(中略) 左翼が今誰を擁立しても、同じことの繰り返しになるだけだ」と投稿している。
●「団結」から「対決」
今回の米大統領選は劇的な展開が続く。
直近で選挙戦の様相を大きく変えたのは、7月13日の土曜日夕方に発生したトランプ氏銃撃事件だった。
銃撃直後の壇上のトランプ氏を映した報道写真は、同氏の力強いイメージを印象づけ、週明けから開かれた共和党全国大会の熱狂的な雰囲気がテレビ放映された。
大統領選候補への指名受諾演説で、トランプ氏が掲げたキーワードはそれまでの対決姿勢ではなく「団結」だった。
米ニューヨーク・タイムズの報道によると、共和党全国大会では、民主党内の「バイデン降ろし」の高まりから、「反ハリス」のプラカードや動画の準備をしていたという。
だが、トランプ氏銃撃事件を受けて、民主党内の圧力が一時弱まったことから、トランプ陣営はむしろバイデン氏の選挙戦継続に期待。「反ハリス」のキャンペーンを見合わせた、という。
バイデン氏の撤退と後継候補としてのハリス氏の登場により、改めて「反ハリス」の展開が始まったようだ。
●ハリス氏めぐる陰謀論も
ハリス氏をめぐっては、カリフォルニア州司法長官や検事時代の業績なども、選挙戦の論点として取りざたされる。
一方でハリス氏をめぐっては、2020年大統領選からつきまとう陰謀論もある。ジャマイカとインド出身の両親を持つ同氏の出生に絡めて、副大統領、および大統領に就任する「適格性」を疑問視する陰謀論だ。
AP通信などによると、大統領だったトランプ氏が2020年8月の記者会見で、質問に答える形でこの陰謀論に触れたことがきっかけだという。
AP通信やロイター通信などが繰り返しファクトチェックを行い、公開された出生証明書も検証した上で、カリフォルニア州オークランド生まれのハリス氏には、副大統領、大統領就任の適格性がある、と結論づけている。
だが、今回のバイデン氏撤退表明とハリス氏支持を受けて、すでにこの陰謀論を改めて取り上げる投稿も出始めている。
●続く急展開
米大統領選では、左右の分断も背景にした偽誤情報や陰謀論の氾濫も目立つ。
※参照:「別人を容疑者特定」「演出」「闇の国家」トランプ氏銃撃直後から広がった情報汚染とは?(07/18/2024 新聞紙学的)
その背後では、AIの高度化を取り込んだ外国勢力による動きも指摘される。
※参照:ロシア「AIボットファーム」の偽アカウント968件を米国などが摘発と発表(07/10/2024 新聞紙学的)
重層的な情報戦は、さらに加速しそうだ。
(※2024年7月22日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)