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東京新聞の『ニュース女子』批判に逆ギレする長谷川幸洋氏―問われる報道人としての資質

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
「身内」の東京新聞からも批判される長谷川幸洋氏(左)

DHCシアターが制作し、東京MXテレビが今年1月2日に放送した情報番組『ニュース女子』の内容が、沖縄の基地反対運動について著しく事実と異なり、偏見に基づくものであったとして問題にされている件で、同番組の司会を行っていた東京・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が今月6日、ラジオで反論。『ニュース女子』に長谷川氏が出演していたことを東京新聞が「深く反省する」という見解を紙面で明らかにしたことについて、「言論弾圧」とかみついた。だが、その一方で、長谷川氏は『ニュース女子』で語られた事実関係については明言を避けた。

◯東京新聞も『ニュース女子』を批判

今年1月2日に放送された『ニュース女子』は、沖縄の米軍基地反対運動について、「基地反対派の暴力で抗議活動が行われている現場までに近づけない」「基地反対運動には日当が支払われており、デモ参加者は仕事でやっている。日当の資金源は不明」などを番組の中で主張したが、これらはいずれも事実と異なるか、根拠薄弱で事実を曲解させるものであった(本記事末尾に関連情報)。

この『ニュース女子』については、同番組の司会をしている長谷川幸洋氏が、論説副主幹を務める東京新聞も特報面で批判記事を3回も掲載。さらに関連するコラムもこれまでに5回掲載、そして、今月2日には同紙の深田実・論説主幹が

「事実に基づかない論評が含まれており到底同意できるものでもありません」「他メディアで起きたことではあっても責任と反省を深く感じています。とりわけ副主幹が出演していたことについては重く受け止め、対処します」

出典:東京新聞 2017年2月2日 朝刊

との見解を紙面で明らかにした。

◯論点を誤魔化し、「言論の自由」と逆ギレ

これに対して、当の長谷川氏は反省するどころか、猛反発。生出演したニッポン放送のラジオ番組『ザ・ボイス そこまで言うか!』の中で、東京新聞の姿勢を批判した。

「私が問題だと思うのは、確かにその『ニュース女子』の報道したというか、番組で取り上げた議論と、それから東京新聞の報道姿勢・論評は、これは違いますよ(中略)でもね、違うということで、それが理由に私に対して処分するということは、これははっきり申し上げて、『言論の自由』に対する侵害だと、私は思いますね」

「外のメディアで言ったことについても、『それは一体、何ていうことを言うんだ』ということで私を処分するなんていうことを、もし許してしまったらですよ、これから東京新聞の記者たちは、外で自由な発言できなくなっちゃう。東京新聞の報道姿勢に沿ったことしか言えなくなっちゃう。はっきり言って北朝鮮状態になっちゃうと」

出典:ニッポン放送『ザ・ボイス そこまで言うか!』2017年2月6日放送

確かに、所属する新聞やテレビ局、雑誌などの主流の論調にとらわれず、記者は自分の取材に基いて、「言論の自由」を行使すべきだ。だが、長谷川氏にそれを言う資格があるのかは、疑問である。深田・論説主幹がのべているように、最大の問題は『ニュース女子』の「事実に基づかない論評」であり、デマに基づいた情報で「テロリスト同然」と、米軍基地反対運動に関わる人々を誹謗中傷したことだろう。「言論」というもの、特に報道に関わる者としての「言論」は、あくまで事実に基づくものであるべきだ。取材もまともにせず、根拠薄弱なまま、強烈な悪意だけを吐き出す、『ニュース女子』の沖縄特集は、報道人としての「言論」の基準に達するものではない。そこを問わずして、何が「言論の自由」か。東京新聞の報道姿勢云々ではなく、その主義主張に関係なく、報道に関わる者としての矜持を持って、真面目に仕事をしている全ての記者達に、長谷川氏は汚いツバを吐きかけたようなものである。

◯「司会者だから」は通じない

ニッポン放送のラジオ番組『ザ・ボイス そこまで言うか!』の中で、長谷川氏は『ニュース女子』の内容について「責任はDHCシアターと東京MXテレビにある」として、「私は出演者・司会という立場で出ているので、この番組についてコメントするということは差し控えたい」としていたが、これも報道に関わる者として、あまりに無責任だ。報道番組において、番組の顔たる司会者=キャスターは、収録や生放送の前に、必ず放送台本を読む。場合によっては、放送直前であっても、内容の修正や差し替えなどが行われることもある。自分は単なる司会者で、内容については、制作側や放送した局の責任、というのは、例えば知名度だけのタレント司会者ならともかく、ジャーナリストの肩書きで司会する者が言うべきことではない

高江のヘリパッド建設反対運動の現場。どの社の記者も問題なく取材できていた。
高江のヘリパッド建設反対運動の現場。どの社の記者も問題なく取材できていた。

しかも、長谷川氏は『ニュース女子』のスタジオトークで、事実と異なる数々の内容に一切口をはさむことをなく、むしろ、事実と反する発言や誹謗中傷を出演者から引き出していた。例えば、『ニュース女子』の取材班が、「基地反対派の暴力で抗議活動が行われている現場までに近づけない」としていたことについて、長谷川氏は「普通のメディアは報じようと思っても報じられないの?」と話をふっていたが、沖縄県外の新聞・テレビ局各社が抗議活動が行われている現地に、何の問題もなく、何度も取材に入っていることは、報道関係者ならば、当然知っていたことであろう。「報道関係者が基地反対派の暴力で現場に近づけない」などという、とんでもないデマをスタジオトークで強調する役割を果たしておきながら、「自分は司会者で番組の内容と関係ない」と主張するなど、見苦しい言い訳にすぎない

◯長谷川氏が辞めるべきは東京新聞だけではない

東京新聞の中でも高まる批判に、長谷川氏は「私の方から辞めるなんてことは、500%ありません」(ニッポン放送『ザ・ボイス そこまで言うか!』の生放送にて)と、強気の姿勢を見せている。ここまでタンカを切られた以上、東京新聞としても、長谷川氏に対し、何らかの対応を迫られることになるだろう。ただ、あえて言わせてもらうならば、長谷川氏がやめるべきなのは、東京新聞だけではない。事実を軽んじ、悪質なデマで他者を傷つけることを厭わないのならば、ジャーナリストという職業そのものをやめることを、強くおすすめする

(了)

『ニュース女子』ファクトチェック

『ニュース女子』の主張:

「基地反対派の暴力で抗議活動が行われている現場までに近づけない」

実際の状況:

県外の新聞やテレビも、何の問題もなく現場取材を行っている。

『ニュース女子』の主張:

「反基地派が道路を封鎖、救急車の往来を妨害している」

沖縄タイムスの報道:

「現地消防に確認したが、その様な事実はない」

『ニュース女子』の主張:

「基地反対運動には日当が支払われており、デモ参加者は仕事でやっている。日当の資金源は不明」

名指しされた市民団体「のりこえねっと」の反論:

「一人でも多くの人々に沖縄の状況を知ってもらいたく、現地を訪問・報告する『市民特派員』を募集、交通費などの費用の一部として集めたカンパから支払った。『日当』というのは事実と異なる。そもそも取材を受けていない」

『ニュース女子』の主張:

「警察がデモを取り締まらない」「翁長知事がトップだから」

実際の制度/状況:

日本全国からの機動隊が派遣され、デモ参加者を強制排除している。各地の警察に指揮・命令する権限を持つのは警察庁。

『ニュース女子』の主張:

「沖縄の人々は皆、米国が好き。基地反対運動を行うなど考えられない」

実際の世論調査の結果:

2016年5月30日から6月1日にかけ、琉球新報と沖縄テレビが行った世論調査では、在沖米海兵隊をどうするかについて「全面撤退すべきだ」は52.7%、「大幅に減らすべきだ」は31.5%だった。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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