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中国で知的障害のある23歳女性へのセクハラをライブ配信

宮崎紀秀ジャーナリスト
パラリンピックが近づき盛り上がる中国だが...(2021年11月24日北京)(写真:ロイター/アフロ)

 中国で知的障害のある23歳の女性にキスする様子などをライブ配信していた男3人が、警察に身柄拘束された。女性は、ICUに運ばれて治療を受ける事態にもなり、中国当局が非難する“低俗な内容”以上に事態は深刻だ。

セクハラや飲酒を配信

 湖南省長沙市の警察は12月22日、ライブ配信のパフォーマーで、26歳、27歳、32歳の男3人を身柄拘束して調べを進めていると発表した。中国メディアが伝えた。

 発表によれば、3人の男は、23歳の女性に対し、彼女が病気であることを知りながら、ライブ配信で視聴者から投げ銭として得られる収入の一部を分けることを条件に、ビールを飲ませたり、キスをしたり、糖分が多く含まれる飲み物を飲ませた。発表は、これにより低俗なライブ配信をして、視聴者の投げ銭を引きつけ、公序良俗に違反したなどとするとともに、他人の健康に害を与えたともしている。

 中国メディアは事件の経緯を伝えている。

病院に運ばれた女性

 23歳の女性は2年ほど前から、長沙市の有名な飲み屋街に姿を現すようになった。彼女は知的障害があり、髪がボサボサのままで歩いたり、一人でにやけたりするようなこともあった。そんな彼女にライブ配信のパフォーマーたちが目をつけた。彼女の言動や容姿をからかう様子を配信し始めたのだ。その内容は、彼女が男たちからキスをされたり、秘部を触られたりするものさえあったという。

 今月9日、彼女は、カメラの前でヨーグルト5本を飲み干した後、病院に運ばれ、ICU(集中治療室)で治療を受ける結果となった。彼女は糖尿病を患っていたのだ。

 23歳の女性は、長沙で仕事を探していたという。しかしどの会社にも採用してもらえなかった。そうした中で、彼女はライブ配信の投げ銭を得るために、パフォーマーたちがアレンジしたキスなどの“任務”をこなしていたという。

 ライブ配信では、視聴者たちがライブ画面を通じてパフォーマーたちにメッセージを送ることができる。ライブ画面には、「キスをしろ」「キスをしたら投げ銭する」などと視聴者が囃し立てるメッセージがあふれていたという。

警察に通報するも...

 母親によれば、女性は11歳の時に統合失調症と診断され、知的障害者との認定も受けていた。父親はすでに70歳近く、妹にも精神疾患があり、母親は生活のために出稼ぎに出てなければならなかった。そのため、娘の行動は把握できていなかったという。

 母親は、娘が病院に運ばれた後、12月11日にパフォーマーたちの猥褻行為を警察に通報したが、その時は証拠不十分として取り合ってもらえなかったという。パフォーマーたちは、「女性が自主的にやったこと」と釈明したという。

 だがネット上などで配信の内容を問題視する声が上がったため、警察もパフォーマーたちの身柄拘束に乗り出したとみられる。

 3人が配信をおこなっていたプラットフォームはすでに彼らのアカウントを閉鎖した。

パラリンピックを迎える中国は...

 パフォーマーたちの行為は犯罪に当たる疑いが高く、警察が取り締まるのは当然だ。一方、中国当局は、ネット空間の浄化を目指し、低俗な内容や拝金主義を助長するような行為を厳しく取り締まっており、今回の事件もその一環として語られている節がある。ネット空間の浄化は、中国が公権力の行使によって社会の歪みを是正しようとする例でもある。

 中国政府は、最近、アメリカの社会矛盾などを指摘した上で、アメリカ式の民主主義をこきおろし、中国式民主主義の方がうまくいっているなどという主張をしている。これは中国に限ったことではないが、成熟した民主主義は成熟した社会の上にこそ成り立つ。来年には冬のパラリンピックを迎える中国で、明らかになった知的障害者を食い物にするような行為。中国政府には対外宣伝ではなく、社会を真に成熟させるために力を注いでもらいたい。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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