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能登半島地震の被災地に冷たい大雨のち雪の予報 兵庫県南部地震と違い復旧が進まないうちに最高気温が5度

饒村曜気象予報士
推計震度分布図(令和6年(2024年)1月1日16時10分)

西高東低の気圧配置

 北海道を上空に寒気を伴った低気圧が通過し、次第に冬型の気圧配置が強まる見込みです(図1)。

図1 予想天気図(左は1月7日9時、右は8日9時の予想)
図1 予想天気図(左は1月7日9時、右は8日9時の予想)

 このため、強い寒気が南下し、7日は北~西日本の日本海側では雪や雨が降り、雷を伴う所もあるでしょう。

 北~西日本の太平洋側は晴れる所が多いものの、東北の太平洋側ではにわか雨やにわか雪があり、沖縄は雲が広がりやすく、所によりにわか雨があるでしょう。

 7日の最高気温は、ほぼ全国的に平年並みか平年より高くなっていますが、北陸地方では平年より低い見込みです。

 最低気温が0度に満たない冬日は、1月6日は346地点(気温を観測している全国914地点の約38パーセント)だったのが、1月8日には635地点(約69パーセント)に増える見込みです(図2)。

図2 真冬日、冬日、夏日の観測地点数の推移(2023年11月1日~2024年1月9日、1月7日以降は予測)
図2 真冬日、冬日、夏日の観測地点数の推移(2023年11月1日~2024年1月9日、1月7日以降は予測)

 先月の冬至寒波には及びませんが、それに次ぐ寒波の襲来です。

北陸地方は大雨のち大雪

 気象庁は早期注意情報を発表し、5日先までに大雨や大雪などについての警報を発表する可能性を、「高」「中」の2段階で予測しています。

 これによると、1月7日には、大雨警報の可能性が石川県能登で「高」、その他の新潟県佐渡を除く北陸で「中」となっています(図3)。

図3 大雨警報を発表する可能性(上段)と大雪警報を発表する可能性(下段)(ともに左側が1月7日、右が1月8日)
図3 大雨警報を発表する可能性(上段)と大雪警報を発表する可能性(下段)(ともに左側が1月7日、右が1月8日)

 気象庁は大きな地震が発生すると、大雨警報などの発表基準を引き下げています。これは、地震によって土砂災害が発生しやすい状況になったからですが、今回の能登半島地震でも同じです。

 市町村の被害状況などで異なりますが、基準の値の7割から8割で発表することとしています。

 また、同じ7日には、大雪警報の可能性が長野県北部で「高」、富山県と新潟県中・下越などで「中」となっています。富山県と新潟県では、大雨警報と大雪警報が同時に(地域が異なる)発表となる情報となっているのです。

 今年の正月に発生した能登半島地震で揺れが強かった能登半島を中心とする北陸では、大雨による土砂災害に注意、警戒してください(タイトル画像)。

 また、北陸の雨は次第に雪に変わりますので、大雪による交通障害にも注意、警戒が必要です。

兵庫県南部地震より早く寒くなる能登半島地震

 震度7を最初に観測したのが、平成7年(1995年)1月17日に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)です

 兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の発生時、筆者は神戸市中央区中山手通りにあった神戸海洋気象台(現在は神戸地方気象台となり移転)に隣接する宿舎で寝ていました。

 神戸海洋気象台の予報課長として神戸に赴任していたからです。上下動の揺れで目がさめた後、身体が横に叩きつけられる感じの揺れを感じました。

 気象台は、神戸市沿岸部に細長く東西に延びる「震度7」の領域が切れているところにあり、「震度6強」でした。

 令和6年(2024年)1月1日に石川県志賀町で震度7を観測した能登半島地震は、同じ1月の大地震ですが、地震発生後の天気については大きな差があります。

 兵庫県南部地震のとき、神戸海洋気象台では、観測も予報も一回も欠けることなく通常通りの業務を行っていましたが、1月22日に低気圧通過でまとまった雨の可能性がわかった20日からは「雨に関する情報(大雨情報ではありません)」などを発表して早めに警戒を呼びかけました。

 兵庫県南部地震から5日目でも、山や崖に亀裂が入り、堤防や防潮堤も損傷を受けたままで、排水溝は瓦礫で詰まり、排水ポンプも正常作動が確認できない状況で、大規模な二次災害が懸念されていました。人命救助がまっさきに行われており、多数の救援物資は野積みで、屋根が壊れている家に住んでいる人、たき火をしながら野宿している人が多数いましたので、普段では考えられないことが次々に起きる可能性がありました。

 1月22日の雨は、ほぼ予想通りで、神戸市や西宮市などでは土砂崩れや道路の亀裂が相次いでいますが、事前避難で人的被害はありませんでした。いろいろな防災関係者の努力の結果、大きな災害や不測の事態の発生を防ぎ、雨の翌日から(元に戻る復旧ではなく)本格的な復興が軌道に乗りました。

 兵庫県南部地震のときは、地震発生5日後の雨であり、ある程度の支援が進んだときの雨で、気温も冬とはいえ、平年より高めに経過していました。それまでは、晴れて、気温は平年より高く、救援活動が順調に進んでいました。

 しかし、今回の能登半島地震では、支援活動が本格化しないうちに雨や雪が降り続くという予報になっており、最高気温も地震発生の7~8日目には5度を下回ってきます(図4)。

図4 能登半島地震発生後の輪島の日最高気温の推移(地震発生直後から1月3日は欠測、1月7日以降は予想)と兵庫県南部地震発生後の神戸の日最高気温の推移
図4 能登半島地震発生後の輪島の日最高気温の推移(地震発生直後から1月3日は欠測、1月7日以降は予想)と兵庫県南部地震発生後の神戸の日最高気温の推移

 兵庫県南部地震では、最高気温が5度を下回ったのは14日目でした。

 石川県輪島と神戸では最高気温の平年値が2度以上違いますが、それにしても、被災地の復旧が進んでいない地震の7日~8日目に早くも冷え込むという予報です。

 被災者にとって厳しい天気予報です。救援活動される方は、知っておられることですが、特段の配慮が必要です。

 また、雨から雪に変わる予想の時の雪は0度近く、雪としては、比較的暖かいときの雪です。樹木や電線などに着雪しやすく、停電が発生しやすいことから、雪の量だけでなく、停電にも注意してください。

 大きな地震で建物が傷んでいるときは、漏電の危険性が高くなっています。停電が発生したときは、復旧時の通電火災に特に注意が必要です。

タイトル画像の出典:気象庁ホームページ。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図3の出典:ウェザーマップ提供。

図4の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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