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SKE48・松井珠理奈の卒業シングルが発売。「完璧」を目指し続けた11歳からのエース伝説を語る

斉藤貴志芸能ライター/編集者
SKE48を12年にわたり引っ張った松井珠理奈(エイベックス提供)

SKE48の松井珠理奈の卒業シングル『恋落ちフラグ』が発売された。小学生時代から12年にわたり、グループを引っ張ってきた絶対的エースは、数々の伝説的なエピソードを残している。本人に振り返ってもらった。

年上メンバーたちに「AKB48に勝つには」と訴えて

 母親が安室奈美恵を好きだった影響で、小学生の頃からダンスを習っていた松井珠理奈。2008年7月にSKE48のオープニングメンバーオーディションに合格したときは、まだ11歳の小6。アイドルは目指していても、地元・名古屋のグループでなければ、応募してないところだった。

 だが、それから3ヵ月も経たぬうち、SKE48で初の劇場公演を行ったばかりで、松井はAKB48のシングル『大声ダイヤモンド』の選抜メンバーに。しかも、当時のエースだった前田敦子とのWセンターという、破格の抜擢だった。逸材ぶりが総合プロデューサーの秋元康の目を引いたようで、確かに11歳には見えないルックスにすでに大物感を漂わせていた。

「当時は皆さんに大人っぽいと言われながら、自分ではあまりそう思ってなかったんです。でも、今その頃の映像を観ると、『わっ、こんな小学生いないわ』みたいな(笑)」

 松井はそう語る。そして当時、始動したばかりのSKE48に戻ると、年上のメンバーたちに「AKB48ではこういうことをしていた。私たちに足りないところだからやろう」と呼び掛けていたと聞く。

「それはかなり言いました。AKB48で歌っていても常にSKE48のことを考えてましたし、自分が経験したことをSKEのみんなに伝えたい気持ちがあって。私はSKEとAKBを自分の中で比較できたので、SKEが勝てるところはどこかも考えていたんです。それで『ダンスの激しさや元気さを伸ばしたら差別化できるね』と」

自分は二の次でグループのために頑張ることが活力に

 実際、SKE48のエネルギッシュなパフォーマンスは「ステージから風が吹いてくるよう」とも言われ、ほどなく評判が広がる。

「SKE48はAKB48の姉妹グループとか名古屋版と言われることが多かった中で、単体で見てほしい想いが強かったから、『AKBにない魅力を出さないとダメだよね』という話はよくしていました」

 何気なく言うが、当時の松井は芸能界に入ったばかりの小学生。しかも、いきなりの抜擢で名古屋と東京を行き来し、公演の練習がままならず、「当日に『できない!』って自分を責めて、お腹が痛くなって大泣きした覚えがあります」と話していたこともある。そんな中で自分のことでいっぱいいっぱいになったりも、自分だけでいいとこ取りをしようともせず、グループ全体のことを考えていたとは。

「むしろ自分のことは二の次でした。だからこそ、12年間やってこられたのかもしれません。自分のことだけを考えていたら、辛くなったときにすぐ辞めていたと思います。みんながいたから『まだ諦め切れない』という気持ちにもなったし、私は誰かのために頑張ることが活力になるタイプ。そういう性格で良かったです」

「できません」とは言えなくて無理もしました

 松井珠理奈は昨年11月からYouTubeチャンネル『珠理奈HOUSE』を開設した。SKE48の12周年記念公演の舞台裏密着企画では「歌やダンスを間違えたことは少ない」と発言していたが、彼女の当初からの完璧主義もよく知られている。

「間違えたら恥ずかしいと思っていたし、常に全力を出して、観ている方に少しでも好きになってもらいたい気持ちも強かったので。あと、SKE48に入る前も学級委員をやっていたり、陸上大会に出たりする体育会系だったんです。センターだから完璧でなくてはいけないと、プレッシャーや責任感は子どもながらにありました」

 それだけに、妥協をせず体を痛めがちという話も、関係者から聞こえてきた。

「『できるよね?』と聞かれたら『できません』とは言えなくて、本当はできなくても『大丈夫です』みたいな。そこで無理もしましたし、ライブが終わって倒れてしまって、気づいたら運ばれていたこともあります。そこまでやったのは、同期のメンバーが心強かったからかもしれません。もし自分が倒れても、誰かが代わりに出てくれる。それもあって『やれるところまでやっちゃえ!』となっていたんだと思います」

 2018年には地元・ナゴヤドームで開催された選抜総選挙で初めて1位を獲りながら、体調不良で休業。同年に公開されたSKE48のドキュメンタリー映画『アイドル』では、泣きながら「今までの10年間はほとんど自分のことを考えてないから頑張れたけど、今年は自分が上に立つことでSKEが良くなると初めて思えたから……」と重圧を語るなど、苦しげな姿が目についた。

「ありがたいことにずっとセンターを任せていただいていた中で、『弱音は吐けない。強くなければいけない』と思い続けてきました。けど私もオフになると、赤ちゃんみたいな人なんです。実際の自分とSKE48のアイドルの松井珠理奈は違う。裏表があるわけでなく、スイッチを入れるのがしんどいときはありました」

自分の活動が人のためになっていたのが幸せ

 遡ると、2013年に公開されたAKB48のドキュメンタリー映画の第3弾『DOCUMENTARY of AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?』では、テーマのひとつの“アイドルと恋愛”について、他のメンバーは神妙な顔で語っていた。そんな中で、高1だった松井は1人あっけらかんと「恋愛はいつでもできるけど、アイドルは今しかできない。今は恋愛はいい」と話していた。

「私はたぶんSKEに恋していたんです(笑)。初恋の相手がSKE。仕事が終わってもずっとSKEのことを考えていて、好きな人がいてもそうなりますよね? 自分より相手を優先して尽くしたり。それと一緒の感覚だったと思います」

 SKE48のエースであるだけでなく、AKB48でも選抜常連で、じゃんけん大会でも優勝し、選抜総選挙で1位まで上り詰めた松井。SKE48でナゴヤドームでライブもした。そうした中で、自身にとって最もアイドルの幸せを感じたのはいつだったのだろう?

「具体的なイベントというより、たとえば『僕は引きこもりでしたけど、珠理奈をテレビで観て好きになって、握手会に行こうと思ったら、外に出られるようになりました』というお手紙をいただいたりしたのが、一番うれしかったです。自分の活動が人の人生に影響を及ぼしたり、変えたりしている……。デビューしたときはただ歌って踊るのが好きなだけだったのが、いつの間にか人のためになっていたと感じられて、幸せだなと思いました」

『恋落ちフラグ』TYPE-A 初回盤 CD+DVD ¥1676(税込)
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いろいろな声が出ても負けずに突き進んでほしい

 松井の卒業シングル『恋落ちフラグ』は、いわゆる卒業ソングっぽくない明るい恋愛の歌。一方、カップリング曲のひとつで、彼女が衣装や振付などほぼ全面的にプロデュースしたユニット・Black Pearlによる『Change Your World』では、作詞も手掛けた。<周りの目なんて気にしないで行け 批判だって自分の手で変えて行け>といった詞には、後輩たちへのメッセージが込められている。

「私が卒業したあと、みんながどんどん前に出て行くと、いろいろな意見も飛ぶと思います。でも、負けずに突き進んでほしい。そういう気持ちを込めて書きました」

 元にあるのは、自分がAKB48の『大声ダイヤモンド』でWセンターを務めたときの経験。いきなりの大抜擢に、AKB48のファンからは「誰? なんで?」というアンチ的な声も上がった。

「当時の私は小学生だったので、ワケわからずにガムシャラに頑張っていて。うれしい声もいただきましたけど、『AKBのシングルなのに、なんでSKEがいるんだ?』というような声も聞こえ始めて、『孤独だな……』と感じました。でも、それを乗り越えて、今の自分があります」

 そんな激動のスタートから、波乱万丈は続き、フィナーレが近づく松井珠理奈のアイドル人生。だが、12年活動してきても、まだ23歳だ。

「アイドルで23歳というと年上のほうになるので、自分の中でも大人になった気持ちでいました。でも、外では『まだ23歳なんだ』と言われるんです。これから何でも挑戦できるし、まだ自分が可能性を秘めているんだと思えます」

 カップリングのソロ曲で自ら作詞した『Memories~いつの日か会えるまで~』では、<ここから一歩ずつ歩き出して いつの日か会えるまで 笑っていてね>と歌っている。

Profile

松井珠理奈(まつい・じゅりな) 

1997年3月8日生まれ、愛知県出身。

2008年に「SKE48オープニングメンバーオーディション」に合格して、同年に公演デビュー。AKB48のシングル『大声ダイヤモンド』で選抜入りしてWセンターを務める。2009年にSKE48の1stシングル『強き者よ』をリリース。2013年にAKB48グループの「じゃんけん大会」で優勝。2018年の「世界選抜総選挙」で1位。SKE48の27thシングル『恋落ちフラグ』が発売中。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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